169.魔王様の圧倒的鈍感力
俺は土産物を持って、商人のラルクの元へ行く。
応接間にはチノとラルクがいて、ふたりが楽しげに話している。
「服装にもう少し気を遣ってみるのはどうでしょうか。チノさんはお美しいのですから、きっと綺麗なお洋服がよく似合います」
「しかし……どんな服を着ればいいのかわかりません」
「お任せください。チノさんにぴったりのものをご用意させていただきます」
「ほんとですかっ。頼りになりますっ」
驚いた。
人見知りのチノが、ラルクと打ち解けているなんて。
思えばチノは、魔法の研究にカマケテ普通の友達と遊んでいる姿を、ほとんど見たことなかったな。
……いや、待てよ。
友達じゃない……のか?
つまりチノのやつ……ははん、なるほど。
「に、兄さん……! い、いつからそこに?」
「今来たところだよ。すまんな、待たせて」
「いえ、チノさんがお相手してくださって、とても楽しい時間でしたよ」
ラルクもにこやかに笑って言う。
これは……やはりそういうことか。
チノは、なぜか知らないが頬が赤い。
一方でラルクは微笑んでいる。
ここから導かれる事実は一つだ。
つまり……チノはラルクに惚れている。
ラルクもまた、チノを憎からず思っているということ。
ラルクのやつめ、嫁が居るといったばかりなのに。
……いやまて。
別に重婚は罪じゃない。
獣人ではハーレムといって、単一のオスに、複数のメスがいることだっておかしくはない。
ラルクはまあ獣人じゃないけれど。
しかし……別に嫁の他にチノがいてもいいわけだ。
「ラルク」
「はい」
「妹を頼むな」
「はい?」
続いて俺はチノを見て言う。
「チノ」
「なんですか兄さん?」
「ラルクは良いやつだぞ」
「? ええ、存じてますけど」
俺はこの二人の恋を応援しようと、そう思ったのだった。