168.妹、血のつながらない兄との関係に悩む
私ことチノ・ベタリナリには、愛する兄さんが居ます。
しかし、兄さんは知らないことがあるのです。
それは、私と彼に血のつながりがない、ということ。
魔王国に商人のラルク様がやってきました。
兄さんは彼を連れて城へと案内します。
「ちょっとラルクに土産物があるんだ。とってくる」
応接間にて、私はラルク様にお茶を淹れます。
「わぁ! とても美味しいです、この紅茶! チノさんが茶葉を栽培なさったんですね」
彼は一発で、真実を言い当てます。
「ええ。……なるほど、ラルク様、鑑定眼に目覚めたのですね」
「はい。ジークさんと交流を持つようになってから、新しいスキルがなぜか発現したんです」
兄さんの持つ神魔の力は、契約した相手に進化をもたらします。
たとえばあのトカゲ……じゃない、地竜のちーちゃんは、SSランク古竜の地岩竜へと、存在進化しました。
「契約と言われても、ぼくは別に儀式等は行ってませんよ?」
「恐らく商人としてこの国と契約を結んだことで、兄さんの力の適応範囲内になったのでしょう」
「なるほど……近しい人に富をもたらす。さすがジーク様です」
「ふふ、でしょう?」
さすがラルク様は、有象無象の人間どもとちがって、兄さんの価値を正しく理解なさっています。
「美味しい紅茶ですー」
ラルク様は特に何も言ってきません。
それが逆に気になってしまいます。
「……あの、ラルク様」
「はい?」
「……その、聞かないのですか? 私と、兄さんとの関係性を」
先程、ラルク様は、兄さんの知らない真実を口にしかけました。
つまり、気づいていらっしゃるのです。
「余計な詮索をしては、失礼かなと思いまして」
さすが兄さんが気に入っているだけあって、ラルク様はできた商人ですね。
「それに大体の事情は察しがつきましたし」
「気づいたのは、鑑定眼の効果ですか?」
「いえ、スキルなんて使わなくても、見ればわかりますよ。チノさんがお兄さんを、家族としても、異性としても、愛してることくらいは」
ラルク様が慧眼すぎてやばいです。
「苦労なさってますね。ジークさんは、その……ちょっと自分に向けられている感情の種類に、気づかないところありますし」
「ええ、こと恋愛にかけては、他の追随を許さない鈍感さ加減ですので」
「でもそういうちょっと抜けているところが、愛嬌があって好きなんですよね」
「そう! そうなんですよ!」
やばい、ラルク様が慧眼すぎる。
「鑑定眼スキルは、そんなことすらわかるのですか?」
「いやいや、スキルなんて使わなくても、これくらいわかりますよー」
こやつ、出来る……!
「でも難しい問題ですね。ジークさんからすれば、チノさんは長い時間兄妹として接してきたわけですから。急に異性とは思ってくれないですよね」
「ええ、そうなんですよ! ラルク様はわかってらっしゃる!」
こっそり恋愛マスターと呼ばせてもらいましょう。
さすが結婚なさっているだけあってしっかりしてますし……はっ! そうだ!
「あの、ラルク様。今後もいろいろ相談に乗っていただけないでしょうか? 他に頼りになるひとがいなくて……」
するとラルク様はニコッと笑います。
「いいですよ、ぼくで良ければ」
「ほんとですかっ! ありがとうございます!」
こうして私は、恋愛マスターを味方につけたのでした。
あの爬虫類に一歩リードです。
兄さんのハートをゲットするのはこの私ですよ!