166.ジャマー、新たなるたくらみ
魔王ジークが平和を享受する、一方その頃。
旧魔王軍指揮官ジャマーは、地下深くにいた。
そこは地下に広がるダンジョンよりも、なお深い場所にあった。
眼前に広がるのは毒々しい色の汚泥。
深い場所から発生したガスが、泥の表面に泡を作る。
見上げると、真っ赤な空がどこまでも広がる。
地下世界ともいえるその場所は、海も空も汚れていた。
『グォオオオオ……グボォオオオオ……』
どこからか獣の唸り声が聞こえてくる。
汚れきった海の下に、ぎらりと光る眼があった。
1つ、2つ……数えきれない程の目が、怪しげな光を放っている。
「ぐひゃひゃ! そうかそうか、【魔界】の海は心地よいか、超魔人よ……」
小舟に乗り、海面を覗くのは、指揮官のジャマー。
彼は不気味にゆがんだ笑みを浮かべながら、海の底に沈んでいるものを見やる。
「まさかこんな地下深くに異界があるとは、あのジークさえも知るまい。ここの空気も水も、超越した魔人を作るのに適している……くくく!」
地上を追われたジャマーがたどり着いたのが、この深淵に広がる世界。
「ここをわが領土とし、復活の機会をうかがうのだ……待ってろジーク。勝つのはわしだ! くく! あははは!」
だがジャマーは気づいていなかった。
深淵を覗くとき、深淵もまた自分を覗いていることを。
はるか深海の奥から、超魔人以外の、ジャマーを見つめる生物の存在が、いることを。




