165話 お世継ぎ問題
「ジーク、あんたお世継ぎってどうするのよ」
俺が湖で釣りしていると、ちーちゃん(人間版)が尋ねてくる。
「どうするって……まだ良いだろ別に」
正直結婚はまだまだ先で良いと思っている。
国ができたばかりだしな、今は。
「良くないです。兄さんが明日死んでしまったらどうするのです? 誰が後を継ぐのですか?」
「まあ……そりゃ順当に行けばチノだろ。俺よりよっぽど国王してるし」
政治はチノや宰相達に丸投げしている。
結局俺ができるのは、癒すか壊すかのどっちかだからな。
国がスムーズに動いているのは、チノが上手く人を使って回しているからだ。
チノがいなかったら立ちゆかなくなる。
逆に俺がいなくても、別に国は問題なく動くことだろう。
「兄さん。それは間違いです。あなたはこの国になくてはならない、超重要人物です」
「そーよ。国民は皆あんたを慕ってやってきた人ばっかなんだしさ」
うんうん、とチノとちーちゃんがうなずく。
さっきまでケンカしてなかった君ら?
「ともあれ確かに人間の寿命は有限です。兄さんもいずれ死んでしまう。となれば国を継続させておくために子供は必要となります」
すす……とチノが近づいてきて、密着する。
「いつでも準備は、できますよ」
潤んだ目でチノが俺を見上げる。
「いやなんのだよ」
「ちなみに今日は攻めの赤です」
「いやだからなんのだよ!?」
すりすり、とチノが俺の腕に頬ずりしてくる。
「かー!」
ちーちゃんは魔力を発動させると、突風が吹いて、チノが湖に落ちる。
「チノ! おいちーちゃんやり過ぎ!」
「ふんっ、あの女がこれくらいで落ちるわけないでしょ」
「その通り」
巨大な水の竜が顔をもたげる。
その上にはチノが乗っていた。
「……よくもやりやがったな爬虫類」
「はー、ツルペタが何か言ってるわねぇ?」
カッ……! とちーちゃんが輝くと、地岩竜に変化する。
「「今日こそ泣かす」」
ふたりが怪獣大戦争をおっぱじめる。
俺はハクとシアを連れて、すたこらと退散する。
「よっ、おにーちゃんもってもて~!」
「……もってもてー」
ふたりが茶化してくる。
「あいつら何おかしなこと言ってるんだろうな」
ちーちゃんは俺の大事な相棒で、チノは大事な俺の妹だ。
正直、結婚云々と言われても困る。
彼女たちをそういう目では見られないってのに。
「けど……そうか。世継ぎ、世継ぎなぁ……」
振り返る。
後ろで地形を変形させるレベルの魔法合戦が起きている。
「世継ぎなんて別にいいだろ。ふたりとも大事な家族なんだしさ」
するとハクがはぁ~……とため息をつく。
「おにーちゃん、そーゆーのは本人にいってあげないとな~」
「……だめだめな~」
「そうか?」
「「そうそう」」
今度言ってあげよう。
とりあえず、ふたりを魔王都に送り届けてから、俺はちーちゃんたちのケンカの仲裁に入るのだった。