162.前魔王はやる気を出す
俺はルゥザーの一件を終えて、魔王国へと戻ってきた。
まず向かったのは、前魔王のもと。
俺は新生魔王軍とやりあって、事態が終結したことを彼に告げた。
「ジークよ。迷惑を掛けたな。礼を言う」
前魔王はベッドに横たわったまま、俺に頭を下げる。
彼は最近元気がなく、ベッドから動けなくなっていたのだ。
「いや、俺の方こそ悪かったな。ああするしかなかった」
ルゥザーは救いようのない悪人だった。
自分の都合で大勢の人間を、魔人を使って虐殺したからな。
けれど前魔王にとっては、いくら悪人とはいえ息子。
殺されたら、良い思いをしないだろう。
「もとよりおぬしに討伐の依頼を出したのはわしだった。おぬしが気に病むことはない」
「そっか……」
「愚息のしりぬぐいをおぬしに任せ、本当に申し訳なかった」
「気にすんな。これもあんたから引き継いだ、魔王としてのつとめだからな」
前魔王は安らかな表情で言う。
「ありがとうジーク。これで、もう思い残すことなく、逝くことができる」
そんな彼の手を握り、俺は言う。
「そりゃちょっと早いんじゃないか?」
「なに?」
俺は転移して、魔王城の外へゆく。
飛翔しながら、眼下を見やる。
「魔王様ぁ!」「魔王さまだ!」「魔王様ぁああ!」
そこにいたのは、ルゥザーについていった、魔族たちだった。
「裏切ってごめんなさい!」
「心を入れ替えて働きます!」
「どうか我らをおゆるしください!」
魔族たちからの言葉に、前魔王は困惑したように、俺を見る。
「ルゥザーの部下の魔族がここで暮らすことになった。だが俺はこいつらの顔も名前も、特技もなにもわからない。だからさ、あいつらを導くの、手伝ってくれよ」
「しかし……」
「元はと言えば、彼らはあんたの部下だろ。このままあいつらをおいて自分だけ人生を終わらせるのは、無責任じゃあないか?」
俺は彼に少しでも元気になってほしかった。
このまま死にましたでは、不憫すぎるからな。
だから、人生に、やりがいを与えてあげたかったのだ。
「そうだな。このまま上がるのは、あまりに無責任だな」
前魔王は静かにうなずく。
「魔族たちをまとめるのは、わしに任せてくれ」
「おうよ、頼んだぜ」
彼は苦笑すると、感心したように言う。
「まったくおぬしは、人の体だけでなく、心まで救うのだから。大した男だな、さすがはジークだ」
かくして、ルゥザーたち新生魔王軍が起こした騒動は、これにて一件落着したのだった。