16.国王、天才宮廷魔導士を失う
ジークが飛竜たちを従えることになった、一方その頃。
国王の間にて。
「ようやく畜生どもの管理者を手配できたか。遅すぎるぞ」
「申し訳ございません。ですが陛下、今度の管理者たちならば大丈夫かと」
国王は手元にある書類に目を通す。
「なるほど、遊牧民たちか。こやつらなら獣の扱いに長けているだろうなぁ」
「ええ、しかも人数もいますし、これなら前回のように投げ出すということはないかと」
「ふぅ、やれやれ。これでもう絶対に安心だな!」
……まあ、獣ノ医師の仕事が、遊牧民に務まるわけがないのだが。
国王は、とりあえず人材を置いておけば大丈夫だろう、ということでスルーした。
これがまた、悪手であることに気づくのは、少し先である。
「ところで、今度入って来る【宮廷魔導士】についてだが、噂は本当か?」
「ええ、彼女は10年、いや、100年に一度レベルの天才魔法使いでございます」
別の書類に目を通す。
「【チノ・ベタリナリ】15歳にしてすでに魔法大学を飛び級、しかも首席での卒業とは」
「しかも在学中に発表した論文が大絶賛され、魔法史に名を遺すレベルの大天才だとか」
くくく、と国王が笑う。
「そんな超逸材が、我が国に勤めることになるとはなぁ。実に幸運だ!」
「そうですなぁ、彼女のレベルの天才ならば、就職先は引く手あまたでしょう。それこそ魔法研究機関ならば、超VIP待遇で迎えられるのは間違いないかと」
「それを宮廷魔導士で、安い給料で雇うことができるんだからくくく、ついているなぁ!」
宮廷と冠はついているものの、一律の給金となる。
彼女レベルの逸材ならば、研究機関からすさまじい金額をもらえるだろうに。
「厄介者も追い出せたし、超有能の魔導士も手に入る。くくく、我が国も安泰だなぁ」
……とそのときだった。
「失礼いたします」
王の間に入ってきたのは、蒼銀の髪がまばゆい、まごうことなき美少女だった。
女性らしい起伏には乏しいものの、顔の造りは芸術の領域に達している。
切れ長の青い瞳に処女雪のごとく白い肌。
「おお! チノくんじゃあないか!」
宰相が歓声を上げて言う。
「ふむ、このものがうわさの宮廷魔導士か」
ふたりともホクホク顔で彼女を迎える。
チノは冷たい表情のまま、彼らの前にやって来る。
「どうしたのかねチノくん。就職は来月からであろう?」
「……ええ、実はそれを白紙にしてもらいたく、参上いたしました」
「「は……?」」
国王たちは、耳を疑った。
チノはそれだけ言うと、頭を下げて出て行こうとする。
「ま、待つんだ君ぃ!」
宰相は大慌てで彼女の手を取ろうとする。
だが掴んだ瞬間、宰相の手が凍り付いた。
「うぎゃぁあああ!」
手が一瞬で砕け散り、そして、元に戻った。
氷結の魔法と、治癒再生の魔法。
それを同時に、無詠唱で、すさまじい速さで展開してみせたのだ。
「……気易く触れないでください。私に触っていいのは、兄さんだけです」
「兄……?」
ふんっ、と鼻を鳴らすと、倒れ伏す宰相を冷ややかな目で見下ろす。
「……あなたがたが理不尽な理由で追放した、獣ノ医師のことですよ」
「ベタリナリ……はっ!? そ、そうか! おまえはジークの妹なのかっ!?」
国王の言葉に、チノは小さく吐息をつく。
「……私が宮廷魔導士なんてくだらない仕事につこうとしたのは、兄さんと同じ職場で働きたかったからです。兄さんがいないのでしたらここに用はありません。さようなら」
「ま、待て待て! ちょっと待て!」
国王は全速力で近づいて、肩を掴もうとして、やめる。
さっき見せつけたすさまじい魔法の威力にビビったのだ。
「そ、それは困る! すでに先日の会議で、チノ君が入って来ることを他国に宣伝してしまったのだぞ!」
天才魔法使いが、宮廷に入って来ると、国王は自慢してしてしまった直後であった。
「キミが入らないと困るのだ!」
「……知りませんよ、あなたたちのくだらない都合なんて」
彼女の足元に、転移の魔法陣が展開する。
無詠唱で、彼女は転移魔法を使い、その場から消えた。
「そ、そんな……」
「へ、陛下……どうしましょう……?」
「ど、どうするもなにも、ど、どうにもできないだろうが! くそ! くそぉ!」
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