158.毒の海、光の手
俺は魔王子ルゥザーを殴りとばした。
やつは弾かれたボールのように、凄まじいスピードで天井を突き破っていく。
俺は飛翔し、やつの後へついていく。
結構な距離吹っ飛ばされたみたいだ。
神魔の眼によればこのあたりにいるんだが、辺り一面に広がるのは蒼海のみ……。
「……いや」
海が、ぼこぼこと音を立てていた。
紫色の粘液が広がり、ずぉ! と顔を出したのは、毒でできた竜だ。
『ふっははぁ! どうだぁ……! これぞおれの秘奥義【無尽毒大邪竜】だぁ!』
邪竜の声はルゥザーのものだった。
秘奥義、それは選ばれしものが、技を極限まで高めた結果手に入れる、最強にして極致のスキルだ。
『このスキルは発動させたが最後! 無尽の死毒が分泌されつづける! このおれが存在する限り、永遠になぁ!』
巨大邪竜の遠吠えが、空気をびりびりと振るわせる。
きれいな青い海は、瞬く間に、毒の沼へと変わっていく。
「なるほど、このまま星を、大陸を毒に沈める気か」
最初から使っていれば良いのでは? と思ったが、このスキルなら敵味方見境なく毒に沈めて殺してしまうからだろう。
勝ったとしても、支配するべき対象も、自分が立つ星すらもなくなっては意味ないから使わなかった……と言ったところか。
『ふはは! どうだぁ! わが究極の奥義に恐れをなして声も出ぬか』
「いや、おまえのあほさ加減に、驚いてるだけだよ」
俺は毒となった海の上に立つ。
粘度の高い毒は、もはや地面といっても良かった。
『貴様が何をしようと無駄だぁ!』
毒の沼から無数の竜が顔をもたげる。
俺を毒に沈めようというわけか……そうはいくか。
「おまえ、俺が誰かわかっているか?」
『魔王だろぉ!?』
「ああ、そうさ。けれど、魔王である前に、俺は医者だ」
右手の拳を握りしめると、強く、強く、聖なる光が瞬く。
「病魔を祓いのけ、命を助ける俺に……今更毒が通じると思ったか?」
『死ねぇえええええええええええええええ!』
「てめえがな」
押し寄せる無数の毒竜にむかって、俺は最大力の一撃を放つ。
莫大な量の聖なる光は、毒の竜だけでなく、毒に犯された母なる海をも浄化する。
すべてを浄化せし最強の治癒の光は、瞬く間に、元の青い星へと戻す。
『うぎゃぁああああああああああああ!』
一方で毒そのものとなったルゥザーに、神魔の右手の聖なる光は猛毒にも等しい。
やつは光の奔流に飲まれて……あとには、かけら一つ残らなかった。
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