148.真なる魔王の力
俺の前に現れた漆黒の騎士、不殺の男。
彼の、いや、彼らの正体はかつて倒した勇者と国王が、その身の憎悪をこりかためて創られし魔人。
……俺の手で殺すのが、倒した者の責務だろう。
「なぜぇ!? なぜだぁ! 貴様はわが不殺の毒を受け、なぜ平然としていられるぅううううううううううううううう!」
魔王国の草原にて、国王が怒りとともに、毒のオーラをまき散らす。
大地は底なしの沼へと変わる。
沼には致死量の毒……だがそれを受けて、俺は平然と立ちふさがる。
「俺の目は、すべてを見抜く鑑定の力を持つ。この力を以て毒の成分を見極めた。あとは、その毒に効く薬を、この手で調合しただけ」
「ふざけんなぁ! 死ね! 死ね! 底なしの沼に沈んでしねぇええええい!」
勇者の声に応じるように、沼から毒が噴出する。
それは津波となって、俺をそこへと引きずり込もうとする。
「ふぎゃははは! 勝ったぁ!」
「無駄だ」
俺は神魔の右手を発動させる。
死の毒すらも、俺の右手が打ち消してみせる。
毒の沼だったそれは、緑生い茂る大地へと、一瞬で変貌する。
「ふざ……ふざけるなよ……わ、わしの……憎悪の結晶が、こんな……たやすく……」
「あ、あきらめるな兄弟! 駄目だ! 恐怖を抱くな! 怒れ! 恨め! でなければ……」
俺は一瞬で距離を詰めて、国王の腹に一撃を食らわせる。
「「うげぇえええええええええええええええ!」」
ボールのようにはじき飛ばされ、漆黒の鎧武者は、ぐしゃりと音を立てて倒れる。
「その呪いの毒は、俺への強い負の情念を原料としているんだろ。なら、それ以外の感情で、憎悪と怒りを塗りつぶせば良い」
俺は右手を振る。
毒に沈んでいった大地も、空気も……生きとし生けるものたちも、すべてを癒してみせる。
「なんだ……これは……こんな……規格外すぎる……ばけものめ……」
がちがちがち、と国王が歯を鳴らす。
怯えている。
そう、恐怖の感情だ。
「毒のオーラが薄まってきてるぞ? なぁ?」
俺はあえて、ゆっくり彼に近づいていく。
「く、くるな……くるなぁああああああああああ!」
毒のオーラで攻撃してくる。
だが、もはや右手で消し飛ばさなくても、今の俺には通じない。
「なぜだぁ!? どうなっているんだぁ! きさ、貴様の体が強くなっているのかぁ!」
「違う、おまえが、弱くなってるんだ」
俺は握り拳をつくり、国王の体に正拳突きを食らわせる。
「ふぎゃぁあああああああああああああ!」
毒でできた鎧が、どんどんともろくなっているのを感じる。
粉々に砕け散り、そこいたのは、見るも無惨な人間のなれの果て。
全身に毛はなく、しかし目玉と口を無数に備えた……化け物だ。
「どうした国王ぅう! 恨め! 憎いのだろう、この化け物がぁ!」
「あ……ああ……」
完全に、国王は戦意を喪失していた。
「……哀れだな、おまえ」
右手に魔力を集中させる。
「かわいそうだとは思う。だが……どんな理由があっても、他者の命を、理不尽に奪う権利は誰にもない」
最大出力の右手で、俺は拳を創る。
「ひぃいいい! ば、化け物! 魔王だぁああああああああ!」
「そうだ、俺は魔王、魔なる物たちの王。だから……臣下を守るために、悪を討たせてもらう」
振り上げた拳を、国王の土手っ腹に打ち込む。
それは激しい光の奔流となって、彼らの体を包み込む。
「覚えてろよぉおおまおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
断末魔の叫びを残し……不殺の男たちは、消滅したのだった。
【※お知らせ】
先日投稿した短編が好評だったので、改稿し、新連載としてスタートしてます!
「俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ感謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」
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