124.先代魔王と風呂に入る
ある日の夜。
俺は魔王国内にある、宿場町に来ていた。
小高い丘に建てられた、宿の最上階。
露天風呂にて、俺は先代の魔王とともに、湯船につかっていた。
「素晴らしいな、ここからの眺めは」
魔王国を一望できる立地に加えて、この宿は50階建て。
見下ろすと魔王国の街のあかりが何処までも見える。
これを珍しがって、他国からたくさんの観光客が流れてきた。
前と比べて、魔物が国を歩いていても、みんな驚かないようになってきている。
こうやって観光地を作っていけば、少しずつだが、人と魔の間にある壁が薄くなっていく、といいなと思う。
「こんなにも高層な建築物を立てられるとは、いやはや、見事だなジークよ」
「いや俺だけの力じゃないさ。エルフや妖精の革新的な魔法技術を、人間や魔物たち全員で実現しただけ。俺はそれをまとめたにすぎないよ」
「ふっ、謙遜するな。ジークよ、おぬしは気づいていないようだが、おぬしは歴史上稀に見ぬ偉業を成し遂げたのだぞ」
「何かしたか、俺?」
優しく微笑みながら、魔王国の街並みを見下ろす。
「有史以来、魔物はこの世界において、倒されるべき悪だと言われて忌み嫌われていた。我ら魔物は孤独だった。それが今はどうだ。人も魔物も手を取り合っている。他の種族も仲間に加わった。これは、すごいことだ」
魔王は俺を見ると、深々と頭を下げる。
「ありがとう、ジーク・ベタリナリ。おぬしが皆を良き方向へ導いてくれたおかげで、こんなにも素晴らしい国へと発展を遂げた。心から感謝申し上げる」
「よしてくれよ。俺は、当たり前のことしただけだ」
魔物も人もみな平等な命だ。
どちらが理不尽に、一方に殺し殺される関係なんて、間違っている。
そう思って行動していたら、いつの間にかこんなにも、大きな国になっただけだ。
「まこと、見事な御仁だ。おぬしに魔王の座を譲ったのは、正解だった」
「どうしたんだ? 急に」
「わしももう歳だ。長くは生きられぬだろう。その前におぬしに感謝を伝えておかないとと思ったのだ」
俺の治癒は、傷や病気を治すことはできるが、老衰はどうすることもできない。
命あるものはいずれ死ぬ。
それは、医師であってもどうにもできないことだし、どうすることもできない。
それに、その権利もない。
「長生きしてくれよ。少なくとも、俺が死ぬまでは」
「ははっ、難しい注文だなそれは」
しばし俺たちは湯につかっていると、魔王がポツリとこぼす。
「ひとつ、心残りがある。わが不肖の息子、ルゥザーのことだ」
「ルゥザー……ジャマー達、新生魔王軍の親玉のことか」
魔王の元についていた、指揮官のジャマー。
彼は大半の魔族を連れ、ルゥザーを大将として、新たな魔王軍を作り暗躍している。
「やつはとても残虐だ。人間だけでなく同胞である魔物を平気で傷つける。王位を継承させなかったのはそれが理由だ。やつは、邪悪すぎる」
まあ魔人なんてものを作って襲わせているやつらだからな。
「今は水面下で大人しくしているが、いずれ軍を率いて攻めてくるだろう。ジーク、そのときは、どうか国民を守ってほしい」
「息子と戦うことになってもか?」
「無論。あやつはもうだめだ。完全に心を邪悪にとらわれている。やつと戦うそのときは、この国を優先してくれ」
「……ああ、わかった」
国が大きくなるにつれて、いろんな面倒事が付きまとうようになった。
新生魔王軍も、懸案事項だ。
どうにかしないとな。
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