123.進化を遂げた魔王国
俺が執務室で仕事をしていると、魔王都付近で泡吹いて倒れている人が居ると、【騎士団】から連絡があった。
現場へと転移してみると、倒れていたのは、商人のラルクだった。
ややあって。
「ジークさん……ご迷惑をおかけしました」
ここは国境を囲む外壁の内部。
【騎士団】の詰め所にもなっている。
「どうしたのかと思って心配したぞ」
「すみません、あまりに以前来たときと……町が様変わりして、驚きました」
落ち着いたラルクと共に、詰め所を出る。
『お! ラルクの兄貴! 元気になりやしたかっ?』
門の近くに居た、巨大な赤い竜が、俺たちを見下ろして笑顔で言う。
「ひぅ……!」
「大丈夫だって。無害だし、気の良いヤツらだから」
『えへへ~♡ 魔王様にほめられたっすぅ~♡』
『『『あー! いいなぁ……!』』』
門を守っていたり、上空で巡回していたりした竜達が、俺の元へとやってくる。
『兄貴ー! おいらも巡回がんばったっすよー! ほめてー!』
『がんばって夜勤やりましたー!』
「みんな偉いぞ。いつもありがとな」
『『『いえーい!』』』
無邪気に笑う竜達を、ラルクが唖然とした表情で見やる。
「あの……ジークさん。ぼくの見間違いじゃなければこの竜、【火炎竜】ですよね?」
「そうだな。それがどうした?」
「いや、いやいやいや! Sランクの古竜種ですよ!? それがこんなたくさんいるなんて……! おかしすぎますよ!」
火炎竜たちが褒めて褒めてと次から次へやってくる。
「なんですかこの大量のSランク達は!?」
よしよししながら答える。
「最近自国防衛のために騎士団を作ったんだ。彼らは【竜騎士】。主に町の警護、巡回が役割だ」
『『『よろしゃーっす!』』』
それぞれが持ち場へ戻っていく。
「どれだけレベルの高い国の竜騎士だとしても、使う竜はBランクの飛竜がマックスなのに……ここは火炎竜がこんなにいるなんて……すごすぎますよジークさん!」
「そういうもんか?」
宮廷の獣ノ医師やっていたころは、あまり他国へ行くこともなかったからな。
外の常識はあまり知らない。
「彼らはどうやって手配したんですか?」
「みんな元々の仲間だよ。飛竜からランクアップしたんだ」
「ら、ランクアップ!? 飛竜が!?」
「ああ。名前つけたら火竜になって、俺が神魔王にランクアップしたら、仲間達がみんな存在進化したんだ」
チノ曰く、俺から流れる魔力量が増えたことで、魔物達は強くなり、存在を進化させたのだという。
「Sランクこんなに生み出せるなんて……ヤバすぎますよ。さすがジークさんですね」
俺たちはラルクと共に魔王都を歩く。
「すっごい綺麗ですよね町並み。道もこんなに綺麗に舗装されていますし……どんな観光地にも負けませんよ、ここ」
「そりゃ良かった。頑張ってくれたみんなも喜ぶよ」
魔王国は人と人外が協力し合って生活し、互いを尊重しながら仕事をしている。
ここの町並みは、人間、魔物、妖精が知恵と力と技術を結集させて作った物だ。
「あの……ジークさん。ぼくの見間違えだと思うんですけど……なんかここ、妖精が結構居ません?」
「ああ、そうだな。なんかおかしいか?」
「おかしいですよ! 妖精なんて滅多に人の前に現れないのに、さっきからバンバン飛んでるんですから!」
「最近移り住んできたんだ」
妖精が俺を見かけると、いっせいに飛びついてくる。
『まおうさま! おはよう!』『今日もかっこいいですねっ!』『まおうさまー遊んでー!』『まおーさまー!』
あっという間に妖精の子供たちに囲まれてしまう。
ベタベタと体中に妖精の子供たちがくっついてくる。
『こらー! やめんかい! 魔王様が困ってるだろうがあっちいけってしっしっし!』
リリンが妖精達を追い払う。
「あんがとな」
『いえいえいえ! お気になさらず! このリリン、魔王様のためなら火に飛び込めと言われたら!』
「飛び込むのか?」
『防火魔法をかけたうえで飛び込みます!』
ほんと、良い性格してるよこいつ。
「じ、ジークさん……その、高位妖精は……なんですか?」
目を剥きながら、ラルクがリリンを指さす。
「高位妖精? 誰のことだ?」
『なにをかくそうリリンさんのことですよ! 妖精の王族は高位妖精っていって、他の妖精よりも上位の存在なんだなーこれが!』
そんなご立派な種族だったのか。
「お、王族!? え、じゃあこの子、妖精王の関係者ってことですか!?」
ぺたん……とラルクがその場でしゃがみ込む。
「なんでそんな驚いてるんだ?」
「妖精王の血族なんて、古文書のなかでしか見たことがありませんよ! それが……こんな、気軽に外を歩いているなんて!」
『はっはー! すごいだろぉ。今や妖精は王族ふくめて、みーんな魔王様の配下なのだ!』
えっへんとリリンが胸を張る。
ラルクは目と口を大きく開いて震えている。
「どうした?」
「いや……もう、色々おかしすぎて……」
「おかしいって……なにか冗談でも言ったか俺?」
「この国がすごすぎて異常なレベルってことですよっ! もうほんと、ジークさんどんだけ凄くなるおつもりですか! ヤバすぎるんですよあなたぁあああ!」
『お、なーんかこのお兄さんとは気が合いそう。よろしく~』
そんなふうに、国は少しずつ豊かになっているようだった。
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