120.勇者、哀れな姿でみじめな一生を過ごす
魔王ジークに撃破された、元勇者マケーヌ。
暴食の獣となったあと、体をジークの神の手によって破壊された。
しかし肉体のごく一部だけは、なんとか逃げおおせた。
今のマケーヌは、手のひらに収まるくらいの、目玉と口のついた肉塊となっている。
遠目で見れば、ピンク色の不格好なスライムに見えなくもない。
「くそ……! なんてみじめな姿なんだ! くそ! くそ! くそがぁ!」
ずりずりと体を引きずりながら、深夜の森のなかを這いずっている。
「ボクは、勇者なんだぞ……! なんで、こんな目に合わなきゃいけないんだ!」
怒りに体を震わせる、異形の肉塊は、とてもじゃないが勇者には見えなかった。
「お! スライムじゃん! ラッキー!」
森のなかをさまよっていたそのとき、冒険者の一団が、マケーヌに気づいた。
「ほんとだスライムだ」「最近フィールドでモンスターめっきり見なくなったからラッキーだな」
ぞろぞろと、冒険者たちはマケーヌを取り囲む。
「お、おい馬鹿やめろ! 僕は人間だぞぉ!」
声を荒らげるマケーヌ。
しかし冒険者たちはギョッと、と驚くも、すぐににやにやと笑う。
「しゃべるスライムか! こりゃあ高く売れそうだぜ!」
彼らはマケーヌを取り囲み、捕縛しようとする。
「僕に危害を加えようとしたら、どうなるか、教えてやろう!」
びょんっ! とマケーヌが冒険者の一人に体当たりをする。
だが、ぽすん……と実に情けない音がした。
「はいしゃべるスライムげーっと」
「くそ! 放せ! 放せよぉ!」
じたばたもだえるマケーヌであったが、冒険者たちの手を振り払うことはできなかった。
「こいつスライムらしくくっそざこいけど、しゃべるスライムなんて珍しいから、見世物小屋で高く売れるぞぉこりゃ」
「くそぉ! はなせよぉ! 勇者になんてことするんだ死刑だぞぉ!」
「ぎゃはは! こりゃ傑作だ! スライムの分際で勇者を騙るなんてなぁ!」
冒険者はマケーヌを馬鹿にしてくる。
違うと反論しても、このみじめで非力な姿では、誰も信じてくれない。
自分の力に絶対の自信があったマケーヌにとって、今のこの姿は許し難いものであった。
「くそぉ! 舐めるなぁ!」
ガリ! と勇者は冒険者の手を噛む。
「いてっ! なにすんだこのクソ雑魚スライムがぁ!」
マケーヌはズリズリズリと全速力で逃げる。
夜の闇もあって、逃げおおせることに成功。
「くそ! くそ! なんでこんな目に!」
【無様だな、元勇者よ】
突如として、脳内に響くのは、新生魔王軍のリーダー・ルゥザーだった。
「おいルゥザー! どうなってやがる! 魔人となった僕は最強のはずだろ!? あのジークに勝てるんだろ!?」
【はて、そんなこと言ったかな?】
「ざっけんなよクソ魔族! おい戻せ! 僕を元の姿に戻せよぉ!」
【残念ながら不可能だ。一度魔人となったものは、二度と人間には戻らない】
「なっ!?」
【加えて力を使い尽くした貴様は、二度と完璧な魔人の姿にも戻れん。絶対、何があってもな】
「そ、そんな……。じゃ、じゃあこの無様な姿で死ぬまで過ごせというのか!?」
【安心しろ。魔人は不滅の存在よ。核を壊されぬ限りな】
ぽかーん……と口を開けるマケーヌ。
「そ、それじゃ、死なないのか? この姿で過ごすのか、ずっと?」
【その通りだ。良かったな。不老不死なんて、選ばれた人間にしかできぬことだぞ。ほれ、喜べ喜べ】
「うそ、だ。嘘だ嘘だ嘘だぁぁあぁぁあぁぁあ!!」
二度と戻らぬと太鼓判を押されて、マケーヌは慟哭する。
【そんなに喚くと、ほれ、冒険者たちに見つかったみたいだぞ】
金目当ての冒険者たちが、マケーヌのもとへとかけてくる。
「くそぉ! ちくしょおおおおお!」
【ははっ! 無様だなぁ、勇者よ。魔なるものにもなれず、人間にもなれず。そんな醜い姿で一生過ごさないといけないとはなぁ! 滑稽この上ないぞ! はははは!】
大粒の悔し涙を流しながら、マケーヌは這いずり逃げる。
……かくして、負け犬勇者は、夜の闇へと消えていったのだった。
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