115.新生魔王軍幹部
俺が麒麟を治療した直後のことだった。
『レイス様ー! 大変です! 敵襲、敵襲でございます!』
妖精が急いで、祠の中へと飛んできた。
『なんですって! ばかなっ、妖精の国の出入りは制限してあるのに!』
「ともかく行くぞ」
俺たちは祠を出て、森を抜ける。
妖精達の暮らしている街が……燃えていた。
「グギャァ!」「ギャアスギャアス!」「グゲゲゲゲゲ!」
街を焼いているのは魔物達だった。
ただし、みな意思を持っていないようだ。
眼が赤く、自我を感じさせない凶暴な表情。
「始祖の呪い……? 解いたはずでは」
と、そのときだった。
「あーら坊やぁ、あんたが魔王ジークぅ?」
獣の大群の奥から、背の高い女が、俺たちの元へやってきた。
浅黒い肌に紫の髪。
そしてとがった耳が特徴的。
「ダークエルフ……」
「そう、私は【カタレバ】。新生魔王軍の幹部【獣使いのカタレバ】よ」
獣使い……か。
俺は周囲に目をやる。
始祖の呪いにかかった魔獣達からは、この女の魔力を感じる。
「おまえが彼らを、無理矢理言うことを聞かせているのか。この黒い歯車を使って」
俺はさっき麒麟から摘出した、小さな歯車を、彼女に突き出す。
「その通り、始祖の呪いが付与されているそれを、脳幹の奥に挿入するの。するとあら不思議、私の言うことを聞く愚かな駒のかんせーい♡」
クスクスとカタレバが、小馬鹿にしたように笑う。
……俺は一発で理解した。
こいつもまた、獣の命を尊重しない、クソ野郎だってことを。
「麒麟ちゃんはねー、抵抗力が強くてなかなか従えることができなかったから苦労したわ。やぁっと言うこと聞くようになったと思ったら……あんたが来るって言うじゃない」
「なるほど、妖精の輪を壊して邪魔してきたのもおまえか」
「そ。まぁ無駄になっちゃったけどね」
カタレバの手には鞭がついている。
茨のような形をしており、トゲがついていた。
「俺に何のようだ?」
「簡単よぉ、目障りだから殺すの。あなた、邪魔なの。新生魔王軍のね」
先代魔王とはまた別のやからが、魔王になろうとしているという情報はあった。
本格的に、現魔王を殺しに来たって訳か。
「さぁ戦いましょう魔王。もっとも、この獣たちの大群を相手に、たったひとりでかなうかしらぁ?」
それに、とカタレバが続ける。
「知っているわよぉ、あなた、獣を傷つけられないんですってねぇ?」
『うっわなにこのババア卑怯すぎじゃん! 魔王様は獣に手出しできないから、一方的になぶり殺されるってことでしょ! サイテー!』
妖精のリリンを、カタレバはにらみつける。
「ウルサいわよ小バエが。魔王を殺したら次は妖精を滅ぼすわ」
『ひぃいい! 魔王様こいつやっちゃってくださいよぉー!』
リリンが俺の後ろに引っ込む。
「元よりそのつもりだ」
俺は一歩前に出る。
「おおっと良いのかしらぁ! 一歩でも動けばこの獣たちに自死するように命令を出すわよぉ……!」
『くっ! 獣を人質に取るなんて! 卑怯者!』
レイスが憤怒の表情を浮かべるが、カタレバはどこと吹く風。
「勝てば良いのよぉ! さぁ獣たちよ! あの馬鹿な魔王をいたぶって殺しなさぁい!」
カタレバが近くに居たモンスターの背中を、茨の鞭で叩こうとする。
パシッ……! と俺はその鞭を掴んでいた。
「なっ!? 馬鹿な……いつのまに!? 速すぎて見えなかった! 報告よりもずっと速い! なぜ!?」
『うむ、それは麒麟の雷の力を得たからだろうな』
救世ノ王は、テイマーに近い力を持っている。
つまり、仲間が増えればそれだけ、新しい力が手に入る。
麒麟と契約した俺は、雷のごときスピードで走れるのだ。
「ば、ばーか! 動いたなぁ! おまえの大事な獣たちが死ぬぞぉ!」
「死なないよ」
俺は逆の手を開く。
そこには、黒い歯車が、大量に乗っていた。
「全部摘出させてもらった」
「そ、そんなっ……! あれだけの数を一瞬で手術したというのか!?」
『かかっ、当たり前だ。なにせわが主はわしの雷速の力を手に入れた。瞬きする間にすべての獣に触れて摘出することなど容易い! さすがわが主だ!』
俺はカタレバを見下ろす。
「これでおまえを守る盾も、俺を攻撃する矛も失ったな」
「ひっ……! く、くそぉ……!」
茨の鞭で俺を叩こうとする。
だが俺の皮膚に触れた瞬間、鞭が砕け散った。
神の手による防御結界は、こんなチンケな鞭による攻撃を防ぐ。
「よくも俺の前で獣たちの命をもてあそびやがったな。……覚悟は、できてるんだろうな」
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