113.雷の神獣・麒麟
妖精の国の祠にて、神獣【麒麟】と相対していた。
最初、光る馬かと思った。
体から発せられるまばゆい光の正体は、激しい音を立てる電流だ。
体表を竜のようなうろこでおおい、綿のようなたてがみと、額から生える肉に包まれた角。
『あそこにおられるのが麒麟です。封印の縄で繋がれ動きを制限されておりますが、雷の魔法を使ってくると伝え聞きます。お気を付けて』
妖精王子レイスの忠告を受けて、俺は肩の上にいるリリンに言う。
「おまえは危ないから下がって……って、リリン?」
『うぉっしゃー! がんばれ魔王様! わたくしは遠くから応援してまっせー!』
リリンは俺が言う前に退避して、レイスの隣にいた。
自分の身の安全を第一に考えているのか。
良い性格してるよほんと。
「さて、いくか」
俺は麒麟に近づいていく。
祠の下は洞穴のようになっており、最奥に石でできた祭壇がある。
四方から縄が伸びており、麒麟の体をがんじがらめにしていた。
「縄による封印、祠の封印、二重に施しても外に大嵐を巻き起こすのか。なかなかパワーありそうだな」
近づいてみると、麒麟は思ったより大きなことに気づく。
3メートルほどだろうか。
目は真っ赤に染まっており、ふしゅーふしゅーと荒い鼻息をたてている。
「俺はジーク、魔王だ。神獣・麒麟よ。まずは話し合わないか?」
麒麟は馬のようにいななく。
『コロス、コロス、コロス!!!!』
知性はあると思うのだが……こっちの声が届いているようには思えなかった。
「落ち着け。なんでキレてるんだ?」
『コロス! コロス! コロスぅうううううう!』
ずぉ……と体から莫大な魔力が立ち上る。
麒麟の体から、凄まじい勢いで白い雷が、周囲に放出される。
四方の壁、天井に雷がぶつかり、壁がガラガラと落下する。
俺はその全てを見切って回避する。
『祠の壁は最硬度を誇る神意鉄に、固定化の魔法がかかっていたはず! それを砕くなんて、凄まじい雷です! 魔王様! お気をつけて!』
なるほど、かなり強力な雷のようだ。
『コロスぅううううううううう!』
麒麟がまた体から白雷を発生させる。
それは無数の矢となって、俺に降り注いだ。
俺は右手を差し出し、神の手で聖なる結界を張る。
半球状のバリアが、麒麟の矢を全て防いだ。
『す、すごい……! 雷の矢を無数に受けてもびくともしないなんて! さすが魔王様の作る結界だ!』
麒麟は攻撃を防がれたことに腹を立てたのか、その場で無理矢理動こうとする。
ブチッ……! と麒麟を捕縛していた縄がちぎれる。
『ちょっとちょっとぉ! レイスぅ! 縄ほどけてるじゃないのよぉ!』
『そ、そんな……! あれは神器をベースにして作った封印! ほどけるはずがないのに! どうして!?』
麒麟が自力で、とは考えにくい。
誰かがやったな。
まあその犯人捜しは後回しだ。
『コロスぅ! 皆殺しだぁあああああああああああああ!』
自由になった麒麟は、全身から凄まじい量の雷を放出。
グッ、と身をかがめると、俺に向かって突進。
ドゴンッ……! とまるで雷が落ちたときのような音とともに……。
麒麟は、俺の足下で倒れていた。
『なぁっ!? いったい何があったんですかっ!?』
「麒麟が体を雷化させて、俺に向かって高速で突進してきたんだ。それを見切って回避し、拳をたたき込んだ」
『い、雷を打ち落としたというのですか……! さすが魔王様!』
『うぉお! すっっげー! 魔王様ちょーすげー! よし終わりましたねよし帰ろう!』
どんだけ長居したくないんだリリンのやつ……。
「まだだ。まだ麒麟が荒ぶる原因を解消していない」
『解消……でないということは』
「ああ、原因はわかった。だが治療には少し大人しくしてもらわないといけない」
ぎょろっ! と麒麟は目を見開き、俺に敵意のまなざしを向ける。
『コロスぅ!』
たんっ……! と一瞬で俺から離れる。
麒麟はしゃがみ込み、一角の尖端を俺に向ける。
雷が一点集中されていく。
『うひぃい! まずいっすよぉ魔王様ぁ! わたくしは死にたくないですぅう! もうあいつ殺しちゃってくださいよぉ!』
「駄目だ。俺の前で、誰の獣の命も散らせない」
俺は腰を落とし、構えを取る。
『魔王様! あれは麒麟の秘奥義【神速の霹靂】! 国を一瞬で灰に帰す、超高密度の雷の放射です! 逃げてください! 死んでしまいます!』
『逃げまぁす!』
だが俺は逃げずに攻撃を待った。
やがて麒麟が圧縮した雷を、角の先から放出する。
それは一直線上に、俺たちに向かって放たれる雷の槍。
地面と空間をえぐりながら、人間が知覚できるレベルを超えた神速の一撃を放ってくる。
俺は右手を前に出し、神の手を発動。
右手が触れた瞬間、雷は、何事もなかったかのように消し飛んだ。
『ひょぉええええええええ! 生きてる! わたくしは生きてルゥうう! やったぁ!』
『すごい……あの神の一撃すら、魔素へと返還したのですね』
「ああ。結局麒麟の雷は魔法だからな」
『しかしあの威力と速度の一撃に触れるなんて人間業ではありません! すごい!
さすが魔王様!』
魔力を使い尽くし、麒麟はその場にへたり込む。
「【眠り】」
俺がスキルを発動させると、麒麟はその場に横になって、寝息を立て始めた。
『神獣すら眠らせるなんてやっべえわ。魔王様ばけものすぎぃ! 敵に回さなくって良かったぁ! セーフセーフ!』
調子の良いリリンの頭を叩き、俺はため息をつく。
さて、治療だ。
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