110.勇者、盗みを働こうとして失敗
魔王ジークが妖精と出会っている、一方その頃。
元勇者マケーヌは、とある村にやってきていた。
時刻は夜。
村人が寝静まったタイミングで、マケーヌはこそこそと動き出す。
彼が向かうのは村人たちが耕している畑だ。
マケーヌは夜闇に乗じて、畑に入り、トマトを無断で取る。
「くそ……! なんでボクがこんな、盗人みたいな真似をしないといけないんだ……!」
彼は現在、冒険者ギルドから追放され、帝国からも出入り禁止となっていた。
金を稼ぐ手段はなく、追い詰められたマケーヌが取ったのは、こうして村の作物を無断で取るという犯罪行為。
と、そのときだった。
「居たぞぉ!」
「畑泥棒だぁ!」
村の方から明かりがついいた。
憤怒の表情を浮かべた村人たちが、大人数で、マケーヌの元へ駆け寄って来る。
「くそっ! 見つかった!」
急いで野菜をポケットに入れて、一目散に逃げようとする。
だが前後を村人で囲まれて、動けなくなる。
「この泥棒! 人が大切に育てたもんを平気で取るなんて!」
「最低!」「この屑!」
村人に罵倒され、マケーヌは歯噛みする。
「う、うるさい! これは正当な行為だ!」
はぁ? と村人たちが首をかしげる。
「ぼ、ボクは勇者マケーヌだ! えらいんだ! 勇者に作ったものを食べてもらえるなんて、光栄なことだろぉ!?」
だが誰一人として同意しない。
「ふざけんな!」「人のもの勝手に盗んでいて何が勇者だ!」
「第一、本当に勇者ならこんな盗賊みたいなことなんてしなくていいだろ!」
まったくもってその通りだった。
大手を振って村人相手に野菜を要求すればいい。
隠れてこそこそやるということは、後ろめたさがあるからだ。
「やっぱ偽物だ! おいおまえら、とっつかまえて袋叩きにするぞ!」
農具を持った村人たちが、マケーヌの周囲を固める。
「や、やってみろやぁ! ぼ、ボクは最強の勇者だぞぉ! てめえらみたいな雑魚なんて、全員返り討ちにしてやるぜぇ! ……ぶべっ!」
村人のシャベルが、マケーヌの頭部を強打する。
「い、つぅ~……」
「おいこいつめちゃくちゃ弱いぞ!」
村人たちは農具でぼこぼこにする。
「やめ、やめて……」
「なにが勇者だ、おれらみたいな弱いやつらに負けるなんて」
「ち、ちくしょ~……ちがうんだ、ボクが本来の力を出せば……」
「うるせえ! 負け犬!」
「負け犬のくせに!」
村人たちにこけにされ、我慢できなくなったマケーヌは、泣き喚きながら逃げる。
「逃げたぞ! 追え!」
後ろから迫ってくる村人たち。
マケーヌはとてつもなく惨めな気持ちになった。
こんな村人程度に恐れをなして逃げるなんて……
「くそ! チクショウ! 全部あいつが、魔王がいけないんだぁ!」
やがて彼は川まで追い詰められる。
眼前には急流、そして迫り来る村人たち。
「く、くぞぉ!」
マケーヌは追い詰められたすえに川に飛び込む。
泳いで逃げるはずが、しかし、流れが早すぎて制御できない。
「ぢ、ぐじぉ……ジーク、ジークぅううう! 殺してやる、呪ってやるぅうううう!」
急流に飲み込まれながら、マケーヌは怨嗟の声をあげあと、川底へと沈んでいったのだった。
『ひひっ、その恨み、晴らしてやろうかぁ?』
【※お知らせ】
先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!
「宮廷鍛冶師がいなくなって後悔しても今更もう遅い~「王家に伝わる伝説の武器に手入れなど不要」と無知な王子に追放され自由を得たので、念願だった最強の魔剣作製に専念する。引く手あまたなので帰る気は毛頭ない」
https://ncode.syosetu.com/n9195gp/
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