11.宰相、新しい医師を雇うが逃げられる
ジークが王都を出て行ってから10日ほどが経過した。
宰相は国王に、新しく雇った獣ノ医師を紹介しようとしていた。
「あの役立たずの後にやってきた医師は、どんな男なのだ?」
王城内をふたりは歩いている。
「かつて他国で宮廷獣医をやっていた男でございます。年老いて引退していたところを、スカウトしました」
「ふむ……ならば任せて安心か」
「ええ、しかも給料はあのバカジークに払っていた金の1/5までカットしてやりました」
「ほほぅ! やるではないか宰相!」
「お褒めいただき光栄にございます」
国王は満足そうにうなずく。
「畜生の世話係などその程度のはした金で済むものを、あの無能め、高い金をわれらより長年むしり続けよって……!」
「真でございますなぁ。畜生の世話など今日日子供でもできるでしょうにねぇ」
宰相も国王も、獣ノ医師の仕事が、犬の餌やり程度にしか思っていない様子だった。
……その認識の甘さが、大事を招くとは知らずに。
「して、新しい獣ノ医師はどこに?」
「おそらく竜舎にいるかと」
宰相は王城内にある、騎士たちの使う竜が保管されている小屋へと向かった……。
「ギャー! ギャー!」「グワー! グワー!」「グギャァギャァア!」
小屋に入った瞬間、凄まじい騒音が鳴り響く。
「な、なんじゃこれは!? どうして竜たちがこんなにも騒いでおるのだ!」
「さ、さぁ……?」
宰相は焦った。
以前ここを訪れたとき、竜はみな大人しくしていた。
だが今はどうだろう。
小屋の中に竜は収まっているものの、不満げに鳴き声をあげたり、壁にガンガン! と体当たりしたりしてる。
「ま、まあよい……おい、新しい獣ノ医師はどこだ?」
「はっ! 今呼んで参りますゆえ、竜舎の外でお待ちを!」
宰相は慌てて竜舎の奥へと向かう。
むわり、と糞尿の独特のくささが鼻をつく。
「おい! 【アルルク】! どこにいる! おい!」
新しい獣ノ医師を探すが、しかし見当たらなかった。
「くそっ! どこいったんだあのジジイ!」
と、そこで宰相は、とあるものを目にする。
壁にかかっていたコルクボードに、何かがはってあった。
【辞表 アルルク】
「なっ!? じ、辞表だと!? 聞いてないぞ!」
バッ……! と宰相は辞表を手に取って、中を見やる。
そこに書かれていたことをまとめると、下記の通りだった。
・仕事の内容がキツすぎるので辞める。
・獣ノ医師ひとりでこなせる仕事量を完全にオーバーしている。
・あなたたちはこんな大変な仕事を1人に押しつけて私を殺す気か?
「なにをバカなことを言っているんだこの軟弱者があ……!」
顔を真っ赤にして彼が叫ぶ。
「なにが仕事量をオーバーしているだっ。やつは……ジークは全部ひとりで、毎日完璧にこなせていたじゃないか!」
……宰相は気付いていない。
宮廷獣医の仕事量は、とてもひとりではこなせない量であったことを。
それをこなせていた、ジークが有能で、異常だったのだ。
「おい宰相、なにを騒いでおるのだ?」
不思議がって、国王が宰相の元へとやってくる。
「いつまで待たせる? どこにいるのだ?」
「え、ええっとぉ……」
さっ、と宰相は辞表を後に隠す。
だが、目ざとく国王はそれを見つけた。
「今なにを隠した?」
「は、はぁ……実は……」
宰相は新しく雇った男が、10日もたたずに辞めたことを話す。
「こ、このばかもんがぁ!」
国王は宰相を殴りつける。
彼はよろけて、竜の糞だらけの床に、ぐしゃっ、と倒れる。
「すぐ辞めるような無能を雇うとは、いったいどういうことだッ! 任せておけと豪語していたのはおぬしではないかっ!」
「も、申し訳ございません……!」
何度も何度も頭を下げる。
「さっさと新しい人員を探せ……! この間抜けが!」
そう言って、国王はきびすを返して竜舎を出て行く。
「くそっ! 恥をかいた! これもすべてジークのせいだ! あの野郎……覚えておけよっ!」
……宰相は本当に愚かだった。
ことの重大さにすぐに気付いて、ジークの元へ頭をすぐに下げに行けば良かったのだ。
ここが、最後の引き返せるポイントだった。
だが宰相のせいで、その点を通りすぎてしまった。
……その数日後、竜舎から、竜が1匹残らず消えた。
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