109.妖精からの依頼
俺が助けたのは、妖精国の第一王子だった。そして賢帝の禁書庫で出会った妖精リリンは、王女さまだったのだ。
数十分後。
魔王国の応接間にて。
『姉上、王宮にお戻りください。みな心配しております』
王子レイスが正面のソファに座っている。
『いーーーーーーーやっ!』
リリンは頑として首を縦に振らなかった。
どうやらリリンは数千年前に王宮を飛び出して、あちこち放浪しているうちに、賢帝アンチと出会ったらしい。
「数千年って……すごいな」
『わたくしたち妖精にとっては一瞬の出来事ですよ』
なるほど、妖精はほぼ不滅ときく。
俺たちとは違った時間に対する価値観を持っているのだろう。
『姉上は次の妖精王なのですが、いかんせん言うことを聞いてくれず……』
「女系国家なのか。おい帰ってやれよ」
『いやでございますぅうううう! わたしにはぁあ、アンチ様よりジーク様にお仕えするように厳命されていますぅううう! だから帰れませーん』
別にそこまで厳しく言われてなかったような……。
「俺は良いぞ、おまえが帰っても」
『そ、そそそんなぁ! 殺生な! わたしは死ぬまでおそばにお仕えいたしますうぅ!』
こいつ単に実家に帰ったら王族としての仕事があって、めんどうだからこっちにいたいんだな……。
と、そのときだった。
『おにいちゃーん!』
ててっ、と子犬が俺に向かって走ってきた。
「ハク、どうした?」
この子は神獣のハク。
訳あって俺が預かっている。
ぱたぱた……と青い子竜も飛んできた。
『おしごとおわったのー? あそんであそんでー!』
『……あそんで』
俺の肩の上にふたりが乗っかり、スリスリとしてくる。
「すまん、まだなんだ」
『『えー……』』
「後で遊んであげるから。あっちで遊んでてくれ」
『『はーい!』』
ひょいっと飛び降りて、ハク達が去って行く。
『…………』
その様子を、呆然とレイスが見ていた。
「どうかしたか?」
『じ、ジーク様。今のは……まさか、神獣ではございませんか?』
「ああ。それがどうした?」
『信じられない……! 神獣がこんなにも心を許すなんて……す、すごい!』
レイス王子がキラキラとした眼を俺に向けてくる。
「そんなすごいことなのか?」
『もちろんですよ! さっきみたいに親しげに話している人間なんて前代未聞です!』
『はっはー! どうだぁ! ジーク様はすごいんだぞぉ! なにせアンチ賢帝陛下にも実力を認められるほどなんだからなぁ!』
わっはっは! とリリンが胸を張る。
一方でそれを聞いたレイスが、真面目な顔で言う。
『魔王様、ひとつ、ご依頼したいことがあります』
「依頼? なんだ」
『実は現在、我が国はひとつ、厄介な懸案事項を抱えております。妖精達が総力を上げてもどうにもできなかったことですが、あなた様のお力ならあるいは……と』
どうやらなんか困っている様子だ。
「いいぞ、引き受ける」
『い、いいんですか!? まだ詳細を述べていないのに』
「困ったときはお互い様だ。内容はまあ現地に向かいながら聞くよ」
『おお……! 素晴らしい……魔王様は、なんて素晴らしい人格者なのだ……!』
ぐすぐす……と涙を流すレイスに、俺はハンカチを渡す。
「それで、俺に何をしてもらいたい?」
『我が国に害をなしている……とある神獣をどうにかしてほしいのです』
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先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!
「宮廷鍛冶師がいなくなって後悔しても今更もう遅い~「王家に伝わる伝説の武器に手入れなど不要」と無知な王子に追放され自由を得たので、念願だった最強の魔剣作製に専念する。引く手あまたなので帰る気は毛頭ない」
https://ncode.syosetu.com/n9195gp/
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