103.皇帝に溺愛される
俺たち魔王国と帝国とが同盟を結んでから、しばらくたったある日。
魔王国の応接間にて。
「ジークさん、おひさしぶりです」
「ラルク。元気か?」
商人の青年ラルクが笑顔でうなずく。
「ええ、おかげさまで最近とても。あの……ほんと、いつもありがとうございます……。たくさんご利用いただいて」
ラルクは魔王国から生産物を仕入れてくれる、数少ない商人だ。
最近少しずつだが、商人が俺たちの元へやってくる。
だがまだモンスターや魔王に忌避感を覚える者も多い。
「気にすんな。むしろいつもありがとうな。おまえは、モンスターも魔物も偏見の目で見てこない、数少ない大事な友達だからさ」
「ジークさん……ほんと、なんでこんなに優しくて人間のできた御方なのに、みんな避けるのでしょうね! 理解に苦しみます! ジークさんは本当にいい人なのに!」
と、そのときだった。
「ええ、そうですとも! あなたのおっしゃるとおり!」
応接間に入ってきたのは、帝国のトップ、サーシャ皇帝だった。
その手にはお盆、その上にはティーカップとケーキがのっている。
「ラルク様でしたっけ。あなた様のおっしゃるとおり! ジーク様は今まで見てきたなかで、もっとも優れた、そして人格者だと思います! ですよね!」
「え、ええ……。あの、どちら様でしょうか? ぼく、あなたのことよーく知ってるような、でも別人のような……いや、でも、まさか……」
ラルクの前で、サーシャが優雅に一礼する。
「サーシャ=フォン=マデューカスでございます」
「え、ええぇえええええええええ!?」
信じられない者でも見るような目で、ラルクがサーシャを見やる。
「あ、あなた様が……サーシャ様? あの、【氷帝】の!?」
「氷帝? なんだそれ」
「あ、いや……その……本人の前では……」
言いよどむラルクをよそに、サーシャが説明する。
「【氷帝】ちまたではわたしのことを、そう呼んでいるようです。ねえ?」
「さ、さぁ! は、初めて知りましたねぇ!」
ぶるぶる! とラルクが顔を真っ青にして首を振る。
一方でサーシャは微笑んで言う。
「良いのです、ラルク様。ジーク様に教えてあげて下さい」
「さ、さま!? いやいや滅相もないです! ラルクで十分です!」
はぁ……と彼が吐息をつく。
「びっくりしました。恐ろしく有能で、冷徹な性格、誰にも笑顔を、そしてこころを開かないで有名な氷帝様が……まさかこんなにも素敵な笑顔を浮かべるとは」
ニコニコしながら、サーシャが俺のとなりに腰掛ける。
ぎゅっ、と俺の腕に抱きついて、頬ずりしてくる。
「ジーク様♡ ケーキを作りました♡ はい、あーん♡」
「ああ、あとでな」
「あーん♡」
有無を言わせぬプレッシャーを放ちながら、俺にフォークを向けてくる。
「あ、あーん」
俺は一口ケーキを頬張る。
「おいしいですか?」
「あ、ああ……とても」
「やった♡ えへへ♡ ジーク様のために頑張って作ったんですっ♡ 喜んで貰えて良かった~……♡」
すりすり、と俺に頬ずりするサーシャを見ながら、ラルクが目をむいている。
「す、すごい……あの氷帝様が、こんなにも心を開いていらっしゃる……。ジークさん、いったいどうやったのですか?」
「いや、まあ色々あってな。気にするな」
「は、はい……深く聞きません。ですが、本当にジークさんは誰からも好かれてしまうのですね」
「その通り! ラルク、あなたはとてもいい目を持っているようですね。うちとも取引してもらいましょうか」
ぽかーん……とラルクが口と目を開く。
「あ、あの……ええっと、何かの間違いですよね。ぼくごとき木っ端商人が、マデューカス帝国と直接取引? じょ、冗談ですよね?」
「冗談ではありません。ジーク様が信頼する商人なのです、うちでもぜひ」
「え、ええぇえええええええ!? ほ、本当に良いんですか!?」
にこやかに微笑むサーシャ。
一方で、ラルクは何度も頭を下げる。
「ありがとうございますサーシャ様! それに、ジークさん!」
「え、なんで俺?」
「ジークさんがいなかったら、帝国との取引なんて夢物語、成立するわけなかったんです! ありがとう! やはりあなた様は素晴らしい御方です!」
よくわからんが、めちゃくちゃ感謝されてしまった。
ややあって。
「ジークさん、何度か帝国をジークフリートの姿で出入りしているようですが、どうしてですか?」
さすが商人、ラルクはもう情報が耳に入ってきているらしい。
「実は帝国の所有する禁書庫に用事があってさ」
「き、禁書庫って……あれは遥か昔、偉大なる大賢者にして、帝国を巨大国家へと成長させた【賢帝アンチ=フォン=マデューカス】様が所有したという、あの禁書庫ですか?」
俺はうなずいて返す。
「賢帝の持つ書物はとても希少な物が多いと聞く。そこに人工魔力結晶の完全なレシピがないかと思ってな」
「な、なるほど……で、でも禁書庫は帝国が厳重に管理しており、王族以外は決して入れないんじゃ……」
サーシャが先んじて答える。
「ええ、ですがジーク様は特別と言うことで、わたしの名前で許可を下ろしました」
「え、ええええええ!? そんな……一般人が【賢帝の禁書庫】への立ち入りを許可されたのなんて、前代未聞ですよ! す、すごい……すごすぎます!」
「結構大げさだなラルクって」
「いや全然大げさじゃないですよ! あなた様がすごすぎるんですよぉおおおお!」
【※お知らせ】
先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!
「宮廷鍛冶師がいなくなって後悔しても今更もう遅い~「王家に伝わる伝説の武器に手入れなど不要」と無知な王子に追放され自由を得たので、念願だった最強の魔剣作製に専念する。引く手あまたなので帰る気は毛頭ない」
https://ncode.syosetu.com/n9195gp/
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頑張って更新しますので、こちらもぜひ一度読んでくださると嬉しいです!




