102.マケーヌ、皇帝からギルド出禁を食らう
魔王ジークが魔人を撃退してから、数日が経過したある日。
元勇者マケーヌは、帝都冒険者ギルドにいた。
「くそ……また今日も薬草拾いか。なんでボクがこんなザコのするような仕事を……」
なぜマケーヌが帝都にいるのか?
それは、以前拠点にしていた冒険者ギルドから、2ヶ月の謹慎処分を食らったからだ。
2ヶ月無収入で暮らしていけるわけがない。
マケーヌは拠点を別の街へ移すことにした。
ただ、彼の少ない手持ちの金では、遠くの街へ行くことはできない。
かといって、村の冒険者ギルドでは依頼がなさ過ぎる。
あの街から一番近く、かつ人の多い場所。それがここ、帝都だった。
「はぁ~……くそっ。もっとドカンと一発で大金が稼げるような仕事がないものか……」
無論強いモンスターの討伐依頼、ダンジョンへの探索など、大金を得るクエストはある。
だが弱体化しているマケーヌにとって、どれもできないことだった。
ギルド会館へと戻ってきたマケーヌは、ふと、異変に気付く。
「ん? なんだ、ギルドが騒がしいな……」
ギルマスの部屋の前に、なにやら人だかりができていた。
「サーシャ様が来てるらしいぞ」
「皇帝陛下が? なんでこんなところに?」
「ギルドマスターに用事があったらしいぞ」
ガチャリと扉が開かれると、美少女とともに、見覚えのある仮面の男がいた。
「なっ!? じ、ジーク!?」
サーシャ皇帝とともに出てきたのは、魔王ジーク(が変装しているSランク冒険者)だった。
「ではジークフリート様、帰りも護衛をお願いします」
「了解だ、陛下」
皇帝が魔王と親しげにしゃべっている。
その姿を見て……にやり、とマケーヌは笑った。
「……これはチャンスだ! よし!」
マケーヌは駆け出し、サーシャの前へとやってくる。
「皇帝陛下ぁ!」
バッ、とかばうように、魔王が前に立つ。
「なんですか、あなたは?」
「冒険者のマケーヌといいます。陛下、ズバリ言いましょう。あなたはだまされている、そこの仮面の男に!」
魔王を指さし、勝ち誇った笑みを浮かべる。
マケーヌはこう思ったのだ。
魔王はSランク冒険者に扮してサーシャに近づいたと。
魔王は皇帝をだまし、この帝国を乗っ取ろうと計画しているのだ……と。
「この男は魔王です! 良かったですね皇帝陛下ぁ! ボクのおかげでだまされずにすみましたよぉ~」
チラチラとマケーヌは期待のまなざしを皇帝に向ける。
そう、彼の計画は、ここで魔王の悪事を暴いたことにより、サーシャ皇帝より気に入られようと思ったのだ。
魔王の魔の手から皇帝を、ひいては帝国を守ったとなれば、英雄的扱いを受けるだろう。
多額の金が手元に転がり込んできて、左うちわで生活できるやもしれぬ……と。
「さぁ陛下~。この男をとっ捕まえて死刑にしましょう!」
「この無礼者が!」
彼女の怒りが魔力となって、マケーヌを吹き飛ばす。
「ほぎゃぁあああああああああ!」
魔力の衝撃波はマケーヌをギルドの外へと軽々吹き飛ばす。
通行人は皇帝陛下の不興を買わないように、決して近づこうとしなかった。
彼女は倒れ伏すマケーヌに近づく。
「わたしの大切なおかたを侮辱した罪、万死に値する」
「し、しかし陛下ぁ~……ジークフリートの正体は魔王で……」
「……承知しております」
「なっ!? なんだとぉ!?」
皇帝はジークの正体を知っていて、なお、付き合っているようだった。
「あ、ありえない……なぜ帝国が魔王と……?」
「魔王国と帝国は手を組んだのです」
「そんな……あ、あんただまされてる! 絶対に!」
「黙れ!」
彼女の放つ怒りに、完全にマケーヌは腰を抜かしてしまった。
「兵よ、この不届き者を捕らえ、国外へつまみ出せ!」
「ハッ……!」
ジークの他に控えていた兵士達が、マケーヌを立ち上がらせる。
「貴様はジーク様だけではなく、わたくしの顔にまで泥を塗った。国外追放のうえに、この国への出入りを今後一生禁止する」
「そ、そんなことされたら、今度こそ死んでしまいます! お願いします! ここが最後の働き場所なんですぅ!」
泣きわめいて、サーシャの足にすがりつく。
だが彼女はゴミを見るような目で見下ろし、魔法で吹雪を発生させ吹っ飛ばす。
「はやくそやつをつまみ出せ! 不愉快だ! ギルドマスター、帝国内のすべてのギルドに、こやつの出禁を伝えよ」
「かしこまりました」
兵士に捕らえられ、ズルズルと引きずられるマケーヌ。
「ち、ちくしょぉお~……どうして、こんな目にあわなきゃいけないんだよぉ~……くそぉ~……」
【※お知らせ】
先日投稿した短編が好評だったので、新連載としてスタートしてます!
「宮廷鍛冶師がいなくなって後悔しても今更もう遅い~「王家に伝わる伝説の武器に手入れなど不要」と無知な王子に追放され自由を得たので、念願だった最強の魔剣作製に専念する。引く手あまたなので帰る気は毛頭ない」
https://ncode.syosetu.com/n9195gp/
リンクは下に貼ってありますので、そちらからも飛べます!
頑張って更新しますので、こちらもぜひ一度読んでくださると嬉しいです!