101.魔人
俺が財務卿のマーゴンを氷漬けにした、その直後。
「う、ぐ、うぉおおおおおおおお!」
バキバキバキ……! と氷人形となっていたマーゴンが、急に叫びだしたのだ。
「なっ!? なにごとですかジーク様!」
「突然魔力があふれ出てきた……これは……」
カッ……! とマーゴンの体が輝くと、漆黒の魔力が吹き荒れる。
衝撃波となって周囲に広がり、帝城の壁や床を破壊していく。
轟音とともに壊れ行く城。
だが、俺は神の手の防御結界を発動させ、なかにいた全員の命は助けた。
「あ、ありがとうございますジーク様……このバリアがなければ死んでいたところでした」
「ところで、なんだあれは?」
倒壊した城の上空に、マーゴンが浮いている。
だがその背中からは、漆黒の、コウモリのような翼が生えていた。
「悪魔の翼……? まさか」
『あーっはっは! そのまさかだぁ!』
いずこより、どこかで聞いたような声が響く。
「てめえは……元魔王軍の指揮官、ジャマー」
先代魔王に呪いをかけて、人間界に混乱をもたらしていた黒幕だ。
しばらく姿を隠していたはずだったが。
『こやつはわたくしが造りあげた【魔人】だ!』
「魔人……だと?」
『人間を器として、悪魔と魔物の力を凝縮して作った、人造の兵器のことよ!』
「そ、そんな……! いつの間に!」
サーシャが青い顔をして叫ぶ。
マーゴンは帝国の人間だった。
魔族が介入する余地はなかったはず……と。
「裏で通じてやがったのか、こいつと、魔族が」
『その通りよ! もっとも、裏で帝国を支配する計画が、貴様のせいで台無しになったがなぁ。ジーク・ベタリナリぃいい!』
その声には憎しみがこもっていた。
『何度もわたくしの計画をジャマしてくれたが、今日でそれも終わりだ! わが最高傑作の魔人の威力! とくとご覧じろ!』
「グロォオオオオオオオオオオ!」
野獣の如く叫ぶと、マーゴンは一瞬で距離を詰めてきた。
「は、はや……ジーク様!」
マーゴンが常人離れした速さで、凄まじい威力の蹴りを放ってくる。
ドガァン! と衝撃波が走り、周囲の瓦礫を吹っ飛ばす。
「グロロロロロオロォ!」
連打をマーゴンが食らわせてくる。
『はは! 良いぞ良いぞぉ! あのジークが防戦一方だぁ! ざまぁみろぉお! よし、とどめだ!』
「グロォオオ!」
パシッ……! と俺は普通に拳を受け止めた。
『なっ!? なんだとぉ!』
「こんなもんか」
俺は逆の拳で、魔人のボディーに一撃を食らわせる。
バゴンッ! と強烈な打撃を食らった魔人は、空中へと吹っ飛んでいく。
『そんなバカな!? 悪魔と魔物のふたつの力を掛け合わせてあるのだぞ!?』
「この程度で魔王が殺せると思ってるようなら、舐められたもんだな」
俺は救世ノ王の飛翔スキルで、空中へと飛ぶ。
「……それよりおまえ……今、魔物っていったな」
俺の怒りに呼応して、体から魔力が吹き荒れる。
「す、すごい……! ジーク様の魔力量が、さっきの魔人の比じゃないです……!」
空気が鳴動し、魔人がたじろいでいる。
「てめえ……魔物の命を実験に使ったのか」
『な、なにがわるい! 畜生などほうっておいても増えるだろうが!』
「黙れ」
びくんっ! と魔人は恐怖で体を硬直させる。
『何をやっておる! おまえは最強の人造生物だぞ! こんなザコになにをびびっているのだ! やれ! やれぇえ!』
「ぐ、ろ、ろぉおおおおおお!」
魔人が口を大きく開き、そこに魔力を集中させる。
『これぞ魔人の奥義【魔力砲】! 膨大な魔力を一点集中させ放つ強力なビーム! こんなちんけな帝都など一瞬で滅ぼせるほどだ!』
「そんなことさせるかよ」
魔力砲が放たれる。
だが俺は神の手による防御結界を展開した。
ビームが結界に触れた瞬間に、跡形もなくかき消える。
『そんなばかなぁああああああああ!』
「この程度の攻撃、俺にはきかない」
俺は錬金で聖剣を作り出し、刃に神の手の魔力を込める。
「鑑定で見た。おまえはもう死んでる、生ける屍なんだろマーゴン。せめて安らかに眠らせてやる」
剣による聖なる一撃を放つ。
斬撃は目映い光を放ちながら、マーゴンの体を切り裂く。
完全に、彼は消滅した。
『あ、あり得ない……こんなことって……魔人を倒すなど……わたくしの……努力の結晶が……』
「おいジャマー。次はおまえだ。命をもてあそびやがって……絶対ゆるさないからな」
こちらを見張っている使い魔をにらみ付ける。
『ひぎっ! く、くそぉおおお! お、おぼえてろよおおおおお!』
ジャマーが去って行く。
ふぅと吐息をつくと、サーシャ皇帝が抱きついてきた。
「帝国の危機を救ってくださり……ほんとうにありがとうございました……」
「いや、気にすんな」
「あなた様へとても大きな借りを作ってしまいましたね。でも、一生をかけてきちんと返させてもらいます!」
「え? い、一生?」
「はいっ! 末長くよろしくおねがいします!」
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よろしくお願いします!
※タイトル
「宮廷鍛冶師がいなくなって後悔しても今更もう遅い~「王家に伝わる伝説の武器に手入れなど不要」と無知な王子に追放され自由を得たので、念願だった最強の魔剣づくりに専念する。引く手あまたなので帰る気は毛頭ない」
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