100.マーゴン、皇帝に復讐しようとして失敗
魔王ジークによって、マーゴンの悪事が暴露された。
話はその日の深夜。
「はぁ……! はぁ……! くそぉ! あの小娘めぇ……! よくも恥をかかせてくれたなぁ……!」
血走った目のマーゴンが、深夜の帝城を走っていた。
財力のある彼には、城内にかなりの数、彼に味方する勢力が在る。
彼らの協力の下、牢屋を脱走した次第だ。
「おのれサーシャぁ……よくもわしを牢屋にぶち込んでくれたなぁ……! 復讐だぁ……! 復讐してやるぅ……!」
財務卿としての地位、貴族の位も剥奪。
ため込んでいた金も屋敷も没収され、何もかもを失ったマーゴン。
彼に残されたものは、自分を酷い目に遭わせた女への復讐心だった。
……彼は、正気ではなかったが、魔王に復讐しても勝てないと理解しているので、ギリギリ正気と言えた(負け犬根性とも言える)。
マーゴンが向かうのは皇帝の寝室。
当然見張りがいるのだが……。
「【ドレインタッチ】」
ぺたり、とマーゴンが見張りの男達の腕を掴む。
くたり……とその場にへたり込んでしまった。
「うひゃひゃ! 見たかわしの自慢の魔法道具はぁ……!」
彼が身につけている腕輪には、魔法が付与されている。
ドレインタッチとは、触れた相手を弱体化させる魔法のこと。
兵士達を無力化したマーゴンは、そのまま皇帝の寝室へと入る。
「へへ……サーシャァ~……」
下卑た笑みを浮かべながら、皇帝の眠るベッドへと向かう。
人形もかくやというほど、美しい少女が目を閉じ、安らかな寝息を立てている。
「ぐへへ……どうせ何もかもお仕舞いなんだぁ……最後くらいは良い思いをさせてもらうぜぇ~……」
ベッドの上に乗り、四つん這いになって、マーゴンが近づく。
「ん……ひっ! な、なに!?」
「おやおや、おめざめですかぁ~陛下ぁ~……」
べろりと舌なめずりをするマーゴンを前に、サーシャは恐怖した。
「ぶ、無礼者! 王の寝所に無断で入るとは! 万死に値する!」
サーシャは氷の魔法で攻撃しようとする。
「おっと、そーはさせねえ! 【ドレインタッチ】」
パシッ、とマーゴンがサーシャの腕を掴む。
「あ……」
くたり……と彼女はベッドに倒れ込む。
「か、からだが……うごかない……」
「うひゃひゃ! この腕輪の効果だよぉ! 触れたどんな相手でも弱体化させるんだぜぇ~! ご自慢の魔法もわしにはきかないんだよぉ!」
「そ、そんな……」
マーゴンは皇帝に馬乗りになると、服に手をかける。
「は、離せ下郎!」
ビリッ! と乱暴に服を引きちぎる。
「いやなこった……! げへへ……いい体してるじゃねえかぁ陛下ぁ~……」
さらけ出されたサーシャの裸体は、妖精と見紛うほどに美しかった。
涎を垂らしながら、マーゴンは覆い被さる。
「いや……だれか……たすけ……て……」
「げへへ! 誰も助けねぇよお! 見張りの兵士はみんなおねんねしてる! そんなか弱い声で助けを呼んでも、誰も来やしないんだよぉ!」
自分もズボンを脱いで、サーシャを犯そうとした……そのときだ。
「そこまでだ、ゲスが」
誰かの拳が、マーゴンの横っ面を強打した。
「ふげぇあぁああああああああああ!」
勢い良く吹っ飛び、壁に激突する。
「ジーク様!」
「大丈夫か、サーシャ」
ベッドの上に立っているのは、黒衣の魔王、ジークだった。
彼は身に着けているマントをサーシャに着せる。
「なにもされていないか?」
「ジーク様! わたし……わたし……! 怖かった! あの男に犯されそうになって……!」
ふらりとマーゴンは立ち上がる。
「き、貴様は……魔王。どうして……ここに……?」
「おまえは知らんようだが、俺は今日ここに泊まってたんだよ。明日会議を行うためにな。そしたらサーシャの悲鳴が聞こえたんだよ」
「そんな……あんな小さな声を、どうして……?」
「俺は獣ノ医師。獣たちの声なき声を聞くもの。聞こえるんだよ、弱っているやつの声がさ」
「す、すごい……! まるでピンチに駆けつける、物語のなかの英雄のようです! さすがジーク様!」
キラキラと輝いた目を、サーシャは魔王に向ける。
年相応の女の子のような感じになっていた。
「マーゴン、おまえ、これだけ悪事を重ねて、ただで済むと思っているのか?」
ジークはゆっくりと、マーゴンに近づいてくる。
「サーシャはこれから仲良くしていこうっていう相手だ。それをおまえは傷つけた。……俺は、身内に手を出すやつを許さん」
「み、身内だなんて……そんなぁ~……♡」
魔王にふさわしいオーラを放ちながら、ジークはマーゴンのすぐ近くまでやってくる。
「く、くそぉ! 【ドレインタッチ】!」
ガシッ! とマーゴンはジークの腕を掴む。
「はっはー! か、勝ったぞぉ! この魔法道具はなぁ! 遺跡より発掘された超レアな魔法道具だ! いかに魔王といえど、弱体化してみせる!」
「そうか?」
パキ……とマーゴンの腕が、凍り付く。
「ひっ! こ、氷の魔法!? なんで!?」
「その程度で俺が弱くなると思ったか?」
パキパキパキ……! とマーゴンの体が芯から凍り付いてく。
「おまえは危険だ。この世から退場願おう」
「い、いやだ! いやだぁあああ! 許してくれぇえええええええ!」
泣きわめきながら、命乞いをする。
「心を入れ替えるからぁ! だからぁ!」
「もう遅い」
カキンッ! とマーゴンの体が一瞬で凍結する。
体の内側から極低温で氷漬けとなった。
自力で凍結を解くことは不可能なほど。
「氷漬けになって反省してろ」
「ジーク様……ジーク様ぁ……!」
サーシャは感涙にむせながら、魔王に抱きつく。
「ありがとうございます! あなた様は命の恩人です!」
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※タイトル
「宮廷鍛冶師がいなくなって後悔しても今更もう遅い~「王家に伝わる伝説の武器に手入れなど不要」と無知な王子に追放され自由を得たので、念願だった最強の魔剣づくりに専念する。引く手あまたなので帰る気は毛頭ない」
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