10.暴走する馬車
俺たちは獣人国と人間の国との境目、【サクツ】という街に来ていた。
緑と都市とが融合した、見事な街だった。
「道路も整ってるし、街もキレイだな」
ヘタしたら前いた場所よりも美しい街かも知れない。
ちーちゃんから降りて、俺たち一行は町中に入る。
「神獣様だ!」
「ハク様がおかえりになったぞー!」
ワッ……! と街の人たちが、いっせいに俺たちの元へとやってきた。
俺、というか頭の上に乗っている神獣ハクに用事があるみたいだ。
「ハク様ー!」「おかえりー!」
獣人達はみんな笑顔だった。
ハクへの人気の高さがうかがえる。
『うん、ただいまー! おにーちゃん、つれてきたよー!』
ざわ……と獣人達がざわつく。
「……あの方が、神獣様をお救いになった恩人様か」
「……やだ、ちょーイケメン。タイプ……」
「……で、でも人間、よね」
「……あたし街から出たことないから、人間ってはじめてみたわ」
街の人たちが俺を見て戸惑っている様子だった。
「嫌われてるのかな?」
「まさか! 違います。みなハク様を救ってくださったあなたに感謝と好意を向けています」
従者ミントが慌てて首を振る。
「ただ、みな人間を見るのが初めてなので、どう接していいのかわからないのでしょう」
なるほどな……。
俺たちは町中を歩く。
獣人達はみなこっちに注目するけれど、少し距離を取っていた。
そんなふうに歩いていたそのときだ。
「ハク様ー!」
獣人の子供が、勢い良くこちらに駆けてきた。
「ハク様! おいしいリンゴがうちに入りましたっ! 一口たべませんかっ?」
『たべりゅー!』
ハクは子供の頭に飛び乗ると、ふたりでお店の方へと駆けていく。
どうやら八百屋の息子らしい。
「あ、危ない! 避けてくれー!」
「え……?」
なんと向こうから馬車が、全速力で子供とハクのもとへと駆けてきたのだ。
「きゃあ……! 子供がぁ!」
「あぶなーい!」
馬車が子供達をひき殺そうとした……そのときだった。
「よっと」
俺は素早く動いて、子供を回収し、そのまま横に転がる。
馬車は誰も轢くことなく通りすぎる。
「大丈夫か、坊や?」
「う、うん! ありがとうお兄ちゃん! すごいね!」
俺はくしゃっ、と子供の頭を撫でる。
「大丈夫ですかっ、ハク様! ジーク様!」
『みんとー! うんっ、おにーちゃんが助けてくれたから、へいきだよー!』
ミントが俺たちの元へやってきて、ホッ……と安堵の吐息をつく。
「も、申し訳ございません……!!!」
たたっ、と商人風の獣人が、俺たちのもとへと駆けてきた。
「う、うちの馬車が大変ご迷惑を! しかも、ああなんと! 神獣様をひき殺そうとするなんて……!」
ちなみに馬車は落ち着いていた。
俺が通り際に、【眠り】を加減した威力で打ち込んだので、沈静したらしい。
「この馬はすぐに殺処分します! 神獣様を殺そうとしたから当然です! 突然暴れよって!」
「いや、ちょっと待ってくれ」
俺は商人に言う。
「この馬、別に悪気があったわけじゃないみたいだ」
「ど、どういうことですか……?」
俺は商人とともに、馬の元へと行く。
馬の足元、つまり蹄を指さした。
「ほら、蹄がこんなに伸びてる。これじゃ痛くて当然だ」
「ひ、蹄は伸びるものなのですか?」
「ああ、人間で言う爪みたいなもんだからさ。削蹄、つまり爪切りしてやらないと。蹄葉炎でも起こしてるんじゃないか?」
俺は馬に近づく。
「あ、危ない! その馬は決してわたくし以外には近づけない暴れ馬!」
しかし馬は大人しくしていた。
俺が足を持ち上げてやると、案の定、炎症を起こしていた。
ポーチから道具を取り出し、手早く炎症を抑える薬液を塗る。
「うん、これで炎症はおっけー。あとで蹄削ろうな」
「ぶひひひんっ!」
ぺろぺろ、と馬が俺の頬を舐めてくる。
「足が痛くって気が立ってたんだ。悪気があったわけじゃない。殺すのは可哀想だよ」
『うん、おにーちゃんのゆーとーり! ころしちゃ……めっ!』
すると商人が涙を流しながら、俺に近づいて、手を握る。
「あなた様は……素晴らしい御方です!」
ぐすぐす、と涙を流す。
「この馬は先代から受け継いだ……大事な馬……それを殺すのは心苦しかった……ありがとう、あなた様のおかげで助かりました!」
すると今度は、八百屋の両親がやってきて、俺の前で頭を下げる。
「息子を助けてくださり、どうもありがとうございます!」「ありがとー!」
今度は周囲にいた獣人達が、俺を取り囲む。
「すごいわ!」「子供を助け、馬も助けるなんて!」「馬の気持ちがわかるなんて、まるで神様みたい!」
わぁ……! と歓声が上がる。
「やっぱりウワサ通りの素晴らしい人ですね!」
「これからもよろしくね、お医者様!」
どうやら、街の人に受け入れて貰えたようだ。
「さすがジーク様です。やはり素敵な御方……♡」
☆
と、ジークが獣人国に受け入れられている、一方その頃。
宰相は、新しい医者を呼び寄せていた。
だが、それが崩壊の序曲だとは、このときは知らない。
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