人として強いとは
一章は元社畜でフリータースタート。
二章は着任初期で失敗します。
そのため三章が始まるまで暗めの流れが何度かあります。
また初期は設定の為、専門用語が多く出ますが余り気にしないで下さい。
俺はミディアから強い口調で怒られる事になった。
「それはダメ! あたし達は仮でもアルプ衛士国の妖魔駆除師なんだよ? 無料で仕事をしたら違反になるの。賊の財産は本来討伐者の物が決まりなの!」
「だ、だけどそんなつもりじゃ ……何とかできないかな?」
「そんな顔してもダメ…… はぁ、なんとか誤魔化して依頼って事にしてみる。でも報酬の2割は受け取ってね?」
なんじゃそりゃ?
日本では……
……なかったな。
ここは別の世界。
ここの決まり事。
ここは無法地帯。
無料だと傭兵派遣業が成立しない。アルプ衛士国も収入源が減る。変な前例を作れば他の傭兵たちが迷惑をする。
例えばだが、報酬もなく賊のお宝も貰えない。そんな条件で命をかけて自分に関係のない賊を退治する。そんな人がどれほどいるだろうか?
物語のように賊より強い正義の味方が、無償の善意で必ず現れる保証は?
それに助けたとしても、無国籍で蔑まれているミックス達では名声すら得られない。だから、報酬やお宝で助けを求める必要がある。
でなければ、助けがくる希望もほとんど無くなってしまうのだ。思えばアメリカの西部開拓時代に賞金稼ぎなんて職業が流行った。結局金目当て、地球も環境や時代を考えればたいした違いはない。
そんな訳で、ミディアが略奪品の2割という依頼書を偽造してくれた。
2割未満はアルプ傭兵の規則違反。それでも2割は住民が主力だった場合らしい。本来はアジトの特定や補助的な仕事の報酬。
そして、今は攫われた娘達全員が死骸を漁っている。あんな目にあったばかりなのに、ここの人達は逞しい。
「あたし何か涼太の表情で何を思ったか解った。面白いね! あのね、涼太…… 都市のミックス達は、安全と引き換えに奴隷の様な扱いや、都市の寄生虫と言われる事を受け入れているの。不満はあると思うけど」
ミックスとして生まれただけでそんな扱い…… 不満が無い方がおかしい。
「でもね、この辺りは斑の森と呼ばれる豊な森と妖域が入り混じっている所。そんな危険な所と覚悟して、人として生きる事を望んだ者が集って集落が出来たんだ。だから妖魔や賊に襲われても簡単には挫けないよ?」
どんな境遇でも人である事を諦めない。それはとても難しい事だ、強くて立派な人達と思う。生きる為に必要な物を取り返しているだけ、金が欲しい浅ましい連中とは違うのだ。
俺なんて、会社が怖くて社畜に甘んじ、結局使い潰された。
ミックスだから同情なんて烏滸がましい。彼女達は戦っているんだ。この世界が押し付けた理不尽と。
俺は愚痴とぼやきぐらいだった…… 斑の森の人達は、俺よりずっと誇り高い生き方を選んだ尊敬すべき人達。
「ごめん、ミディア。助けておいて無償は侮辱になるね、失礼を許してほしい」
武力的な強さなんて関係ない。俺は本当に強い人を間違えていた。
人として強いとは、どんな境遇でも己の生き方を通す者。見栄や外聞を気にするのは弱い証拠。真に誇り高い者とは、全力で生きながら、それでも人としての道を誤らない。それが出来る人。
「涼太…… それを分ってくれる人間って滅多にいないから嬉しい。でもこれは好きで選んだ生き方だから、理解してくれただけで十分だよ」
話が終り、俺は賊が使っていた水場から装甲車のポンプで樽に水を入れる。温度調整は給湯器とコンロで沸かしたお湯を使う予定。
しかし、装甲車の動力は水竜の竜玉だろ? 水ぐらい作れよ、と思ったが、危険なので決められた制御以外できない、って言われたのを思い出した。
案外使えねぇ玉ころだなぁ。
今後の為に、空気中の水分や地下水を集められないか窓花に聞いてみた。
「涼太様、空気中の水分は集められますよ? 竜玉制御機能に局地的豪雨がありますから、停車して雨の回収用シートを組み立てれば可能です。ただ、周辺が豪雨となりますので場所は選んでくださいね」
そういや資料にそんな機能があった。簡単にいえば、小さくて強めの低気圧を作って雨を降らせる機能。
そのため、停車して装甲車より大きい漏斗のような防水シートを設営。ろ過と殺菌をへて装甲車の貯水槽に送り込まれる。
「そうだった。しかし、今回のケースだと貯水槽が小さいな……」
「改善案としては貯水タンクを外部に増設するのがよろしいかと、入手しやすく錆に強い銅か青銅が材料によいですね。では装備の剥ぎ取りをお願いします」
ふむ。電気溶鉱炉で溶かして材料にもどすとして……
叩いて円筒状にして溶接すればいいか? 清掃可能な様に片方はネジにしてパッキンをしこもう。となると…… 内部は切削して形を整える作業がいるな。
「貯水槽の増設はいいね、銅か青銅は回収しておくよ」
今は無理だが何かと水は多い方がいい。仕方ないので、今回は水が溜まるまで洞窟からの物資を搬出にはげむ。
それと、偶に銅や青銅製装備のはぎ取りを行う。
斑の森の誇り高い人達、生きる為の戦いなので遠慮は彼女達への侮辱だ。などと難しく考えていたら【拠点の外は剥ぎ取り自由だけど捨てに行くから急いで】とミディアの声が聞こえた。
★ようやく作業終了
「ミディア、金品の回収が終了したよ。追加で奴隷商の馬車とお金もたっぷり。食料もあるけど略奪品との区別が難しいから、確認と配分を頼めるかな?」
「任せといて、だけど先に賊の死骸を捨てに行きたい。剥ぎ取りも終わったし死骸も装甲車に縄でつないである。ただ、捨てたい場所があるんだ…… お願いしてもいいかな?」
死体は疫病の原因にもなるし、希望地があっても不思議は無い。心配があるとすれば、あまり遠いと縄が持つかだ。
でも、捨てたい場所を聞いて感心した。各集落に隣接している妖域、その奥にある場所。そこは狼の群れが住み着き土も耕作に向かないらしい。
その場所に狼の食料として死体を捨てに行く。
食料をえた狼は一時的に増加するが、縄張りは同じなので獲物が足りなくなる。そして危険でも妖魔の子供を狙う様になる。最終的には狼が返り討ちにあって元にもどるが、妖魔も減るので暫くは集落が安全になるって仕組み。
ホント転んでもただでは起きない逞しさだ。助けた甲斐もマシマシです。