慈悲と葬儀
一章は元社畜でフリータースタート。
二章は着任初期で失敗します。
そのため三章が始まるまで暗めの流れが何度かあります。
また初期は設定の為、専門用語が多く出ますが余り気にしないで下さい。
俺は結局、取引に応じる事にきめた。
「ひどいお願いですが引き受けましょう。ですがその前に、親として娘に最後の言葉をしっかり伝えてください」
最後に話しをしておかないと、残された者は悔いが残り、苦悩する。
「ありがとう、遺言も伝える。終ったらミディアに呼びに行かせるよ」
さすがに親子の会話を立ち聞きするほど俺も無粋じゃない。血判を済ませ、直ぐに聞こえない位置に離れる。
この世界では成人らしいが、16歳で天涯孤独…… 身寄りが無いって、かなり辛いんだぜ? それなのに置いて逝くのはろくでなしのする事だ。
「涼太、ごめん。できなかった…… あたしのやるべき事なのに、色々かわってくれてありがとう」
それが普通だよ。俺だってとても決断できず、最後は親戚の叔母さんにお願いしたんだ。
「シモンさんが取引にしたので気にしないでください。私の仕事です」
本当は嫌だ、断りたい。それでも、断るわけにはいかない。関わった以上、彼女の心を守るのが年長者の役目だから。
★シモンの側に行く
「さっきぶりですね、もう言い残しは無いですか? 本日お客様に提供できるコースはサーベルか指弾となっております。どちらになさいますか?」
辛そうなので、せめてお道化てみせる。
「みんなに看取られて、コースまで選べるたぁ上等だな。コースは指弾の半グロ、終わったら火葬で頼む。嫁も火葬だったんでな…… 最後にみんなに言う事があるから、話しが終わったら、また頼む」
引っ張るねぇー 辛い事は早く済ませたいんだけど……
★集落のみんなを呼ぶ
「みんな、聞いてくれ。これから涼太にやってもらう事は、兵士や傭兵の間では慈悲の一撃という行い、助からない仲間を苦痛から救う善行だ。絶対に人殺しじゃない。そんじゃみんな、最後までありがとよ!」
生きている間に葬式が始まっている気がする。斬新だなぁ。
★再び側へ
「シモンさん。俺はあんまり詳しくないので、どこが一番楽ですかね?」
シモンはそっと銃口を眉間に導いて、安らかに目をつむる。
そして俺は……
確り目を開き、記憶に焼き付けるつもりで、引き金を引いた。
★楽にさせてから少し離れた場所
今日俺は、何人殺しただろうか?
地球でも貧しい国は命が軽いって言う人がいる。言葉の想いは違うだろう、でもこの世界も軽いと思った。
結局、ごっこ遊びと実戦は大きく違って、俺は失敗ばかり。これじゃぁ辛い仕事も、当然の責任だよな……
女神様の精神安定剤を飲み、少し辛さがマシになる。この薬の半分は女神様の優しさで出来ている ……気がする。
★集落から少し離れた風下
俺は長に許可をもらって、壊された家の廃材をつかい火葬の準備を始める。日本じゃ火葬が当たり前だが、自分でやるとは思わなかった。
「涼太、有難う。私にも手伝わせて、木を集めてくればいいの?」
何もさせないのは、さらにミディアが辛くなる。
「その前に形見があるなら回収しておいて。あと、本人が持っていないと困る物も一緒に埋葬する。花も添えたほうがいいかな? 日本国の風習だから、ここの方法と違ったらそちらの方法に合わせてね」
「火葬は珍しいけど、それ以外はあたし達も同じ。遠い国でも一緒なんて、何だか不思議だね?」
ミディアの話では、シモンさんの妻のアーティさんは自由都市間の戦争に巻き込まれ、櫓で最後まで戦ったが火攻めで焼死しそうだ。
【母さんと同じ】とミディアから言葉がこぼれた。シモンさんは助けに向かったが間に合わず、長い後悔の日々だったらしい。
シモンの野郎。
嘘じゃないか!
焼死のどこが……
妻と同じ火葬なんだよ……
ミディアは弓と山刀を回収し、家から指輪を取ってくる。そしてシモンさんを綺麗にきよめ、服を着替えさせ、髪をたばね髭をそる。
後頭部は苦労してますね。
申し訳ありません。
「久しぶりに奥さんと会うんなら、花束でも持たせてあげた方がいい。暗いけど集められるかい?」
「それいい! 父さんは時々母さんの事悔やんでいたから、花束でも無いよりずっと喜ぶよ!」
よかったねシモンさん、娘が花束持たせてくれるってよ? 手ぶらで奥さんと再会なんて格好が悪いからな…… でも、娘を一人にしてしまったんだ。ガッツリ奥さんに怒られて反省しろよ?
「夜目が利いても色は分りづらいだろ? マグライトをかすよ。それと人間を焼くと匂いがね…… 何か誤魔化せるものも頼む」
誤魔化せる物は長が用意すると申し出てくれた。そしてミディアは母さんの好きそうな花を集めると駆けだして行った。
野焼きの火葬ではかなりの燃料と工夫が必要だ。綺麗なお骨にするには結構な時間と火力が必要になる。だから俺は壊れた家の廃材を可能なかぎり集める。
★ほぼ準備が終わる
「母さんが好きだった花が咲いていてよかった。野花だけど綺麗でしょ?」
そっと、シモンさんに花束を握らせている。名も知らない花は、ヒナゲシとかすみ草に似ていた。野花なのに綺麗に纏められていて十分立派だ。
俺はその辺のタンポポみたいな花。多分菊科、問題無い。若いのに家族を残して早く逝く親。悪いが俺はそんな親が嫌いなんだ……
集落の人も、ぽつぽつと花を供えにやって来た。
ミディアが毎回お礼を言っている。葬式の喪主なんて、子供のやる事じゃないと思う。しかし、唯一の家族だ。
頑張ってもらうほかない。
★集落の人達のお別れが全て終わる
「あまり長く晒すのも可哀そうだし、そろそろ始めるよ?」
匂いを誤魔化せる干草を、組んだ木材の間につめこみ火をつける。
「父さんと母さんが仲良く出来ますように…… あたしは元気に生きてくから」
気の利いた言葉でもかけてあげたいが、俺には難しいので黙祷。
「燃え尽きるにはかなりかかる。その後にお骨を壺に集めてお墓に埋めるのが日本式だけど、それでいいかな? 埋葬場所は任せるよ」
「うん、それがいいと思う。お墓は、森を監視しやすくて、いつも妖魔の見張りに使っていた岩があるの。その近くに埋めれば、お父さんも安心だと思う」
「じゃあ、まだまだ先だから、ミディアはもう寝てきな? 俺も後で休むよ」
ミディアからお礼の言葉を聞きながら、家の近くまでおくる。
そのあと暫くして、賊を追跡させた窓花のドローンが帰って来た。