賊の撃退と取引
一章は元社畜でフリータースタート。
二章は着任初期で失敗します。
そのため三章が始まるまで暗めの流れが何度かあります。
また初期は設定の為、専門用語が多く出ますが余り気にしないで下さい。
幌と邪魔な偽装を取り除き、センサーとRWS機銃を使えるようにした。
悪いが納屋を突き破って大音をたて、派手に現れて賊の注目を引く。その際に槍兵に窓花が射撃をくわえて戦果槍兵2。突然の事で賊はかなり動揺している。
セコイ話だが、RWS機銃の真鍮薬莢は薬莢受けの袋を付けたので心配ない。
「涼太殿か? 有りがたい。この家の者は軽傷者だけですじゃ、取引用の食料も無事ですぞ!」
長は籠城中でも取引を忘れていない。流石は独立集落の長だけあって逞しいもんだ…… だが、同時にシモン達も矢玉が尽きたのか、森からの射撃も止む。
うわ、結構ギリギリだ……
俺も所詮は素人、見積が甘い。
それでも、窓花が更に騎兵1騎と長槍兵1人を仕留め、賊は動揺から潰走に変わった。俺も上部ハッチを開け、MP5Fで追い打ちを行なう。
しかし、取り返しのつかない油断があった。
「涼太! やったね、勝ったよ! あたしも矢を回収して追い打に参加する!」
「ミディア! まだ出ちゃだめだ。戻って!」
森際から逃げる騎兵が1騎、ミディアに近い。最悪な事に逃げるのを止め、馬の勢いを利用して、ミディアに槍を投げようとしていた。
なのに、RWS機銃からは死角。俺もあせって対応が遅れた。でも、シモンには油断もなく諦めもなかった。
矢がなくてもマグライトの光で騎兵をひるませる。狙いがそれてミディアは助かった。俺は遅れて騎兵を射撃。
やっぱ、お父さんだけに勇敢だな。反撃もできないのに、マグライトの光だけでとっさに娘を守るとは……
「父さんごめんなさい……」
「馬鹿野郎! 指示に従えって言っただろ、まったくお前は直ぐ……【父さんよけて!】」
俺はまた油断してしまった。
騎兵はもう1騎。
指揮官だ。
位置を晒したシモンさんに、槍を投げて逃げ去った。
「シモンさん!」
「父さん!」
森の切れ目辺りでシモンさんが倒れている。ミディアの声で振り返ったが、避けるには遅すぎた。槍は腹を貫き背から槍先が出ている。
大腸が破れていることが匂いでわった。確実に感染症。だが、日本の病院ならまだ助かる傷。日本の病院ならば、だが。
「へへ、この有り様じゃ、娘を叱れる立場じゃねえな……」
「父さん! ごめんなざい! あ、あだじが、がっでにどびだじたがら……」
泣いているから、活舌がおかしくなっている…… 俺には女の子の慰め方など分からない。仕方なく放置する。
住民が火のついた木切れを持って集まって来た。
ここには病院もなく、治療魔導士もいない。手持ちの医療キット程度では治療なんて不可能な傷。ならば…… 不器用な俺は、俺のできる事をしよう。
「シモンさん、直ぐ死ぬ傷ではありませんが腸が裂けて致命傷です。私にできることがあれば言ってください」
ミディアに睨まれるが無視する。
俺にはシモンの言葉を聞き、願いをかなえる事しかできない。
「ミディア、こんな家業だし覚悟はしとけって言っただろ? だから涼太を睨むな。でよ、涼太…… 取引がしたい」
「聞きましょう。できるだけ譲歩しますよ?」
何でもかなえるとは言えない…… こんな状況なのに、こんな状況だと逆に気休めの嘘すらつけない性格。心の弱さ。
「有りがてぇ、涼太はこの大陸を調査するんだろ? どこの国や都市でも入れる通行証がわりがある。涼太なら高値でも買い取りたい品物だと思うんだが?」
腹に槍が刺さっているのに、大した胆力だ。出来れば槍を抜いてあげたい。だけど、さらに悪化する恐れがある。シモンさんには、今後の事を伝え娘との別れを済ます必要がある。だから、まだ死ねない。
「それが本当なら、よほどでなければ買いですね」
ミディアはこんな時に商売の話! といった感じな軽蔑の眼差し。
大丈夫。俺はその手の視線には馴れている。
「アルプ公式の妖魔駆除師免許だ。アレスの国や都市は全て入る事を認めている。裏に俺の血判とお前の血判があれば、仮だが引き継いだ事になる」
「仮ですか? その場合なにか制限があるのでは?」
「放置すれば失効する。だが、三ヶ月以内にプレタレス家に行けば、本試験を手配してくれる。俺の寄親で保証人のアルプ衛士国の子爵だ、その時に娘の駆除師試験も頼んでくれ」
シモンさんが何を望んでいるのか分かった。だけど、責任が重すぎる。それに、俺が相手では可哀そうだ。
「何をお求めで? それと、弟子は1人だけしか無理ですか?」
弱っていようが条件は引き出す。
いくら実の娘でも、それを証明する手段がない。ミックス種でアルプ衛士国の国民ですらない。せめて、シモンさんの弟子である証明が必要だ。でなければ、国家試験など受けられるはずがない……
だから、あんたの望みは、俺がミディアを妻にする事だろ?
「弟子は三人まで可能だ。それでこっちの要求だが、ミディアは半人前でまだ1人で生きていくには難しい。1人で生きれる場所か実力が付くまで世話を頼む」
あんたは、そんな場所があると思ってないだろ? でなければ、この集落じゃなく旅を続けていたはすだ。それに、新入社員を一人前にするには、最低でも3年以上が相場。
若くて可愛い娘を3年以上も独身の男に預ける? 目的が見え見えだぜ? せめて親として、もっとましな奴を選んでくれ。知らないだろうが、俺は長くても3年でいなくなるんだ。
「私からも条件を、血判は私とミディアさんの2人。娘ですが弟子でしょ?」
「わかったよ。ミディアは涼太に貰って欲しかったんだがな…… それと、日本国には慈悲の一撃ってのはあるか? 意味が分かるなら頼みたい。ミディアにも頼むが…… あいつには多分無理だ」
慈悲の一撃。
だいたいどんな事かはさっしがつく。
辛い仕事ばっかりだ。また鬱になったら大変なんだぞ? それでも、実の娘にさせるよりはマシか……
日本でも助かる見込みがない家族をどうするか、身内で決めるから解る。その決断は16歳の娘には辛すぎる。
俺だって、できなかったのだから……