集落へ救援に
一章は元社畜でフリータースタート。
二章は着任初期で失敗します。
そのため三章が始まるまで暗めの流れが何度かあります。
また初期は設定の為、専門用語が多く出ますが余り気にしないで下さい。
窓花から、賊が集落を襲撃しているとの知らせがはいる。本来なら窓花が単独でも装甲車を操作できた。
なのに俺は、わざわざセンサーに幌を被せて出発してしまった。まだ心が成長途中の窓花。人に危害を加えないと信頼できなかった俺の失敗。
木製の車両止めは踏み越えられる。武装のロックも遠隔で解除できる。だけど、幌でセンサー群を封じ、偽装でも視界をさえぎっている。
これで集落を守れといっても、目隠しで戦えと言っているような物。装甲車自体は頑丈だが、集落の人を巻き込む恐れが高すぎる。
恐らく音で賊の襲撃に気づき、ドローンだけ飛ばして知らせに来たのだろう。
ドローンの視界をつかった装甲車の運転は危険すぎる。今後は間接操作システムを作ろうと思うが、今は無理だ。一先ずドローンは集落に戻し、窓花には偵察と状況把握をお願いする。
「シモンさん! 夜なのに集落の方から明かりや煙が見える!」
ハッキリ伝えたいが、ドローンの存在は秘密なんだ。シモンさんが気付くように、遠回しに注意をむけさせるしかない。
「なっ! これは賊の襲撃だ、妖魔は火をかけん。早く戻らないと!」
「夜に? あたしは夜目が利くけど、父さんが夜の森を走るのは危険だよ!」
俺の場合は、多目的ゴーグルの暗視機能で夜でも全く問題がない。
形状こそスキー用ゴーグルに近いが、両サイドに複数のカメラやセンサーがついておりバッテリーと演算機は背中。夜間でも合成画像が投影される。
ズームやサーモ、レーザー測距にデータリンク、等々。便利なハイテクの塊。欠点は、必要機能を適格に選択しないとバッテリーがもたない事ぐらい。
「私も夜目が利きます、シモンさんはこれを」
棍棒みたいなマグライトを出して点灯。シモンさんに渡す。シモンさんは明るさに満足し、全員で集落に向かう事になった。
しばらくして窓花から偵察情報が入る。
現在住民は長の家に籠城中。丁度、取引用の鉄と保存食があり、投擲に使え食料もある。その為、士気は高く防戦は上手くいっている、との内容。
賊の編成は、騎馬3、長槍兵4、弓兵2、歩兵6の計15人。
指揮官は騎馬で全身鎧。
残りは皮鎧に金属補強。
ただし、統一性はない。
正規兵には見えないが、賊にしては充実した装備だ。見えたと言うことにして、走りながらシモンさんに賊の様子を伝える。
「くそっ! そいつらは例の傭兵だ! ミックスは金にならんが若い女のハーフは売れる。目的は恐らく奴隷狩りと物資の略奪。目的から籠城先には火をかけないと思うが、錬度と装備が違いすぎる。急ぐぞ!」
★集落近くの森の切れ目
「シモンさん、敵が多いから森から射掛けて釣りだそう。森なら馬も自由に走れない、地の利もこちらにある。最悪でも夜の森なら逃げ切れる」
「判断が早いな。だが釣れるか? 家を盾にされたら何も出来なくなるぞ?」
残念ながら銃での排除は厳しい。
狩の練習でMP5Fの残弾が徹甲弾10発のみ。家が盾や目隠しとして利用されれば殆どを打ち漏らす。防弾防刃服も見た目の配慮で胴体のみ、接近戦は相手の方が強い。近距離用のP229ハンドガンでは危険が高すぎる。
集落が近づき、安心してしまったせいで予備弾薬を残さなかった。服装を気にしすぎて防御力の低下。マガジンは弾薬の錆びを嫌って気密収納庫に保管し、窓花が運べない。早期に自分の甘さを把握できたが同時に窮地でもある。
直ぐに代案を立てる。
「その場合はシモンさんが賊の注意を引くだけで構いません。その間に私が自走車にのりこみ賊に逆襲します。予想外の大型自走車が現れれば、15人の賊では引くしかないでしょう。その方が被害も少ないかと」
シモンさんはしばらく考えた後、同意してくれた。だが、ミディアが反対した。戦う気だったのに、隠れていろとシモンさんに指示されたから……
ミディアの集落を助けたい気持ちも分るが、まだ16歳の女の子。親としては無理からぬ判断だと思う。俺も隠れるよう勧めたがミディアの意思は固い。結局、命令厳守を条件にシモンさんが折れた。
「涼太は集落を守る義理なんかねえのに、すまねえな。それと、娘の事も心配してくれてありがとよ」
「私は自走車に乗り込んでしまえば安全。自走車への道も物陰で暗がりです。かなり力のある自走車ですから賊ごと跳ね飛ばしてやりますよ。それよりお二人供、絶対に森から出ないでくださいね!」
流石に心配し過ぎたせいか、ミディアがふくれてしまった。
積極的には動かないで欲しいのだが…… ミディアの決意は固い。それにもう、意地になっている。
「そんなに心配しないでよ、森の中からなら絶対見つからないから!」
「慢心するな! 俺たちは注意を引き付けるだけだ。涼太、自走車が動いたら任せていいんだな?」
「はい、援護の必要もありません。位置を悟られる恐れがあるのでマグライトは消しましょう。集落の火事でこの位置からでも賊が見えています。自走車が動いたら安全な場所で日本国の技術をお楽しみください」
2人の矢が少し心もとないが作戦決行。賊に魔導を使える者はいない、装甲車さえ動けば、魔導のない前時代の武装集団など物の数ではない。
2人は牽制だけ、自走車が動き出せば安全な場所に逃げてもらう段取り。
慎重に進めれば危険は最小限に抑えられる作戦だと思う。俺は所定の位置に進み、到着して合図を送る。同時に2人の射撃が始まった。その間に夜にまぎれて装甲車のある納屋に向かう。
流石に傭兵だけあって、2射目がくる前に家など障害物に隠れた。
シモン達の奇襲戦果は弓兵2。指揮官を倒せれば勝ちだが、鎧の質がよく射掛けるには位置が悪かった。
それでも、初撃で弓兵全てを潰せたのは大きい。これで二人が森に逃げれば、賊も反撃したければ森に入るしかなくなった。2人の安全はほぼ確実。俺も安心して戦える。
★ようやく装甲車にたどり着く
「お待ちしておりました涼太様、装甲車に被害は無く万全です。ですが、襲撃を察知しながら何もできず申し訳ありません」
「いや、連絡と偵察は助かった。動けなかったのは俺の判断ミス、窓花の所為じゃない。だが話は後だ。センサーをさえぎる幌や偽装を外して直ぐに出る。RWS7.62mm機銃を任せようと思うが、敵味方の識別に問題はないか?」
「はい、ドローンで識別済み、誤射の心配はありません。お任せください」
「モグ、これを外すのを手伝ってくれ」
「モグ!」
モグも何もできなくて悔しかったようだ。電力で動ける窓花と違い、俺がいないと魔力提供がなく実体化もできない。辛い思いをさせてしまった。
だけど今からは我慢の必要は無い。これよりは俺達が賊を攻撃するのだ!