異世界野外訓練
一章は元社畜でフリータースタート。
二章は着任初期で失敗します。
そのため三章が始まるまで暗めの流れが何度かあります。
また初期は設定の為、専門用語が多く出ますが余り気にしないで下さい。
出発前日の夜は用心の為、駐車用に納屋を借りて装甲車内で一泊。寝る前にミディアに約束した贈り物も作る。足が自慢らしいし、靴がいいと思うんだ。
そんな訳で靴に決定。アラミド繊維のパラ布でトレッキングブーツを作る。つま先と踵は金属プロテクターを仕込み、靴底には脱着可能なアイゼン風のスパイク。色は猟師志望なので土や木に紛れやすいこげ茶色を基調に纏めてみた。
更に脛と足の甲は、樹脂製防具を防刃布でくるんで追加。さらに脛に3本の棒手裏剣を仕込み、防具兼補助武器とした。
我ながらご機嫌取りには十分な仕上がりだと思う。
★翌朝、門に集合
野営道具一式、防刃ベスト、外套、帽子、多目的ゴーグル。武装はMP5F、P229、サーベルに予備弾倉。タクティカルベストは外套に隠し、出来るだけ目立たないようにした。
それでも現代風のバックパックとMP5Fサブマシンは目立つ、今後の課題だな。でも、何とか窓花の許可は出た。
「お早うございます。4日間よろしくお願いします」
「おう、素人にしては荷物をまとめたな。靴をくれるのか? 娘の為にありがとよ」
探してみると【スタン、スタン】と、つま先で地面を叩くミディアがいた。
「あ、あれ? ミディアさんの機嫌が悪そうですが……」
「いや、たんなる癖だ。あれは多分、贈り物が待ち遠しいんだろ」
兎に角、急いでミディアに靴を進呈。彼女は機能や履き心地を気に入り、喜んでくれた。それで、問題も無さそうなので出発したのだが……
「父さん! この靴、すごく早く走れる! それに私の足技にピッタリだよ!」
ミディアは森に入ると土をえぐって疾走。石を踏み砕き、天高くジャンプしたと思ったら、踵落としで木を縦に叩き割った。
「おいおい、涼太さんよ? 靴じゃなかったのか? 俺の目には靴に似た凶器に見えるが……」
棒手裏剣はつけたけど、基本はグリップと防御性の向上なんだが…… どう見ても破壊力に利用されてますね。
「防具にもなり、地面を確り捉える工夫をした靴です…… 多分、きっと」
俺はこっそりドローンを先行させている、過保護な窓花を発見して安心していたのだが、シモンさんの圧力に負けてミディアさんを注意する事になった。
「ミディアさん。私も森では多少は藪を切り開く事はあります。ですが無駄に木々を傷めるのは賛成できません。続けるなら靴を返却してもらいますが?」
「ま、まって! お願い! ちょっと浮かれちゃっただけ! もうしませんから取上げないで!」
反省した様なので必要なら使ってもいいと許し、安心してもらった。シモンさんからもOKサイン。
それとミディアが【仲間なんだから呼び捨てでいい】と提案。敬称は肩が凝るのが本音っぽい。
しかし…… 自然破壊では有ったけど、ミディアの足技は森の格闘術として理にかなっていた。
突き蹴り。蹴り上げ。踵落とし。回し蹴りでも蹴る瞬間まで膝を畳んだままで、インパクト時に脛や足の甲を鞭の様に叩きつける。
木々を盾に利用しつつ、その狭いすき間から蹴りを放つ森林特化の実戦技だ。
「ミディアの蹴り技は狭い空間に最適だね。この地方の武術なの?」
「基礎は父さんだけど我流かな? あたしは腕の力は弱いけど母さん譲りの脚力は自慢なんだ、オークだって蹴り飛ばせる。でも、猟師には強い弓が引けない方が致命的…… 早く父さんを安心させたいんだけどね」
遠くでも聞こえていたのか、シモンさんがミディアさんをほめる。
「いや、十分凄いぞ? 風が見えるから急所への命中率は父さんより上だ」
予想以上に親想いの娘さん。この世界では当たり前なのかな?
しかし、威力不足をなんとかしてあげたいな…… クロスボウに巻上機を付け、ペダルの付いたワイヤーを足で引く事で、巻き上げ出来ればミディア向きになるかも知れない。
弩自体は東方で発展しているし、古代ギリシャにもあったはず。原始的な弩なら作れるし、技術的にも問題無い。安く売ってあげても良いな。
無料じゃない理由は、靴につづき弩まで無料だと警戒されるから。
先ずは窓花に改造パーツ作ってもらい、本体と合わせて夜に運んでもらおう。窓花のドローンは装備を減らせば6Kgまで運搬可能。往復してもいい。
名目は新商品のテスターで行くか…… 未来ある若者を助けるのも、おっさんの仕事だもんな。
★森に入って
「先ずは食える山菜や薬草の見分け方。薪に向いた枯れた枝や木と落葉。野営方法と罠だな。罠は狩りと違いあまり疲れない、兎や鳥や鹿などが取れて簡単なのを教えよう。商品価値は少ないが、旅の食料確保なら罠の方がいい」
「父さんと涼太は山菜ね。あたしは薪集めと野鳥や野兎を獲ってくるよ」
「おお、山菜と山鳥で鍋でもやりますか? 小型の飯盒って鍋がありますよ?」
丸型飯盒は携帯性に優れ、食器も付いていて好評だった。
無発酵のパンで朝昼兼用の食事。その後はシモンさんと俺で山菜や薬草取り。ミディアは狩りと薪拾い。罠と夕食作りは全員で行う計画となった。
「じゃあ、山菜や香草は薬草のついでに涼太と俺で確保しよう。ミディアは獲物を頼むぞ。涼太、塩はあるか?」
「ええ、塩も有りますし多少の調味料も持っていますよ」
「よーし、そんじゃあ野鳥のスープだね! ハーブもよろしく!」
山菜や薬草採りは似た毒草があるので、見分け方をしっかり学ぶ。
異世界独自種だけかと思ったが、地球とほぼ同じ物も結構あった。ヨモギは苦いが食えるし血止めになる。加工すると腹痛に効くので旅には有りがたい。別の材料が必要だが、煙玉にも加工出来るらしい。
ペパーミントも薬味になるし、猟師さんは虫よけにも使う便利なハーブ。虫よけを自作できれば補給枠に余裕が出来る。これは助かるね。
久しぶりの野外で楽しく平和なキャンプ。なんだか銃が邪魔に感じる。でも、妖魔がでた時の保険だから、仕方ないのだ……
そして何事もなく採集が終わった。古代では明るい間に料理を済ませるのが常識。現代人には早いが、集合して食事の準備となった。
古代では、明かりですら高級品なのです。
「おう、ミディアも取れたか? こっちは結構とれたし【カルドン】もあるぞ」
カルドンはアーティチョークという野菜の原種。
「ばっちり獲れたよ。キジとハトが数羽。後、薪もね。棘付きの靴は早く走れるし、坂でも姿勢を安定させやすいから便利だね」
「そんじゃ罠を仕掛けるか。その後は俺が涼太に薪向きの木を説明するからお前は鳥の羽むしっとけ。解体は涼太にも見てもらう」
「よろしくお願いします」
ちょっとワイルドなただのキャンプでした。罠は簡単かつ便利で夜に複数設置する。小枝や蔦や石だけで作れて朝まで放置。
だけど接着剤代わりの松脂にはまいった。ガム代わりにもなるが硬いので相当噛まないと接着剤にならない。
むろん取れない事も稀にある。シモンさん直伝の罠は、鳥や兎や鼠がまずとれる。罠の餌も教わったし、餌無しでも通り道を見分けて設置すればいい。
薪はダメな奴だけ覚えた。分からない時は目鼻喉皮膚に異常を感じたらすぐ消す。煙が多いのは避ける。短期間なのでアバウトな見分け方、助かります。
★獲物の解体が終わり料理開始
スープは灰汁を抜いた山菜と鳥を具材に、ハーブと塩で味を調整。
意外と美味しく無発酵パンにも良く合うし串焼きも美味かった。食後少しまったりした後、木に登って安全な枝で寝る。
俺は窓花から荷物を受け取り、クロスボウを組み立ててから寝た。