交渉成功◆
一章は元社畜でフリータースタート。
二章は着任初期で失敗します。
そのため三章が始まるまで暗めの流れが何度かあります。
また初期は設定の為、専門用語が多く出ますが余り気にしないで下さい。
★長に伝えた作り話
島国で魔導が苦手な母国。しかし、海の向こうは強国ばかり。
険しい山と荒い海。旧文明の遺産と独自の技術で何とか独立を確保している。
しかし、安心には程遠い。そのため常に多くの国と貿易や技術交流を行い、信用できる同盟国も探している。
そんな時、遥か西に旧文明の後継国があるとの噂が国王の耳に届いた。
国王はすぐに調査隊を編成し、私は調査員の一員として派遣された。
船でアレス大陸に向ったが、後少しの所で嵐に巻き込まれ難破。そして何とかこの近くに漂着した。
生き残ったからには何としても故郷に帰る。
それと同時に、着いたからには母国の為に調査も行いたい。
以上
「ふむ、実は集落の住人はあまり魔導に向いておらん。だが、技術の方が興味深い。それに交易も行うなら商品もあるのか? 金は欲しいが行商が殆どこないのじゃ、何か役に立つ道具が有るなら交換はどうかの?」
辺境で現金が欲しいかと思ったが、物流が予想以上に悪かったみたい。俺は余っている物資で技術的に問題ない程度の物を考えてみた。
集落には金属製品が少ない、こちらは金属製の道具と少量の塩を提供するのがいいな。要求は日持ちする食料、狩りの方法や食用になる山菜に危険生物の対処や旅に役立つ知識。これで提案してみた。
「金属の道具に塩か! 丁度不足しておったので是非取引したい、食料も融通しよう。知識については猟師兼妖魔駆除師を指導に付ける。遠方に派遣されるほどじゃ、腕も立つのじゃろ? 妖魔を退治してくれたら報酬もだすぞ?」
「それは助かります、早速品物を用意しましょう。指導も非常に助かります、戦闘もできますから妖魔の駆除も頑張ります」
先ずは宿と受け入れのお礼に、私物の工作用ナイフ肥後守を贈る。この程度なら鉄の量も少ないし、技術的にも問題ない。
刃の短い工具だが、この集落では良くて青銅、鋼はドワーフ製の高級品。工作用ナイフでも質の良い鋼製なのでかなり喜ばれた。
ケチくさいが、二人目の調査員。日野 敏明の情報によれば、ハーフや雑種は差別される事が多く社会的地位が低い。一部地域では獣人種自体が獣と人の雑種扱いでもある。
そのため、恵まれた扱いを受けた事が無く、美味い話は逆に警戒される。よって、取引がベストとあった。
「人間の作った鋼とは思えぬ見事な作りじゃ。この辺りで銅は取れんが鉄が取れる、じゃから儂らも鉄器を作ったのだが、すぐに錆びるし簡単に割れた。これほどの質じゃと、逆に農具に見合う物を用意するのが難しいの……」
「なるほど、でしたら木製農具の先端金具はどうでしょう? かなり違いますよ? 使用後はよく磨く、獣脂油を塗る、水気の無い場所での保管。これでほぼ錆びません。それと集落の鉄も欲しいですね」
先端だけでも鋼なら、総木製農具より大分楽になる。長は鉄の買い取りに恐縮していたが、私が指弾術(実は銃)使いで、礫(弾)に使うと聞くと納得し、双方満足の取引ができた。
「良い取引は気分も良いですな。ところで、儂らの感覚では内気功は体術、外気功に至れば魔導の内。大仲殿の指弾も指周りですが外気功ですじゃ。集落は内気功使いが多い、是非手本を」
「補助具を使いますからあまり参考には…… ですが、我が国の技術披露としてなら喜んでお見せいたしますよ?」
長は乗り気で、直ぐに盛土に的板を立て、皆を集めはじめた。
娯楽が少ないのかな?
俺は的から離れると、どよめきが上がった。指弾としては異例の距離なのだろう。そしてP229拳銃を構えて2連射。
的は見事に割れた。
弾が鋼なので鉛より軽く、遠距離は威力が落ちる。しかし、何%かは不明だが発射圧が強化された強装弾で硬鋼弾芯。近距離では貫通力が抜群にいい。
「盛り土も貫通するとは…… 技術披露でしたかの? 手に持つ道具に工夫が施されているのじゃろうか?」
掴みはOK。2発目は余分と窓花に注意されたが猟師さんも注目している。しかし、何となく弾道が見えた人も居る事が恐ろしい。
「ええ、指弾の気は拡散しますが特殊な筒で礫に集中させて威力を上げます。礫だけに集中するので気の感知も難しくなります。それと礫が真っすぐ飛ぶ工夫も筒にあります。ただし、礫を筒用に加工する手間がふえますね」
「ほう、魔術士の杖かと思ったのじゃが、理を突き詰めた道具か」
お蔭で品質も信頼され、長は鉄や食料を集めてくれる事になった。こっちはその時間で約束の農具を作る、窓花の自動作成だけどね。猟師さんも【護衛は要らんな】と安心し、近づいてきた。
「俺はシモン。この集落で猟師をやっているが、一応アルプ衛士国の正式な妖魔駆除師だぜ? よろしく」
アルプ衛士国は、地球に例えればスイスに近い位置にある国。妖魔駆除師とは、主に妖魔を相手にする傭兵。
また、アルプ衛士国は国家で傭兵派遣業を行なっており、アルプ傭兵は信頼されている。逆に安い傭兵は問題を起こしやすく、逃げたり適当な仕事も多い。
挨拶の後、シモンさんは金属のプレートを見せてくれた。文字の下に〇や空欄、免許証みたいな書式で写真の代わりに指紋。金属腐食液で拇印をして専門家が仕上げ、製造法は機密で偽造も難しいらしい。
しかし、指紋で個人特定可能と知っているとは驚いた。だけど、サイズは免許証よりかなり大きい。発行元はもちろんアルプ衛士国。
なぜ免許があるかといえば、アルプ傭兵は国家管理でブランド化されている。そのため、過去にアルプ傭兵を騙る詐欺が多発。ブラントの信用が落ちる事態になった。その信頼回復と再発防止に偽造が困難な免許が開発されたらしい。
「妖魔駆除師だったのですか、妖魔に詳しい人に指導いただけるのはたすかります。失礼ながら意外でした。国家承認の傭兵をお抱えにできるほど、ここは豊かな集落だったのですね」
「それな…… 先に娘を紹介した方が早い。ミディアだ、ミックスだが宜しく」
「ミディアです、宜しくね、弓と蹴り技が得意です。頑張るからあたしも何か欲しいな……」
「母国に友好的なら種族は関係ありません。指導のお礼に何かご用意いたしますね。ですが、頑張っても無茶はダメですよ?」
シモンさん、娘さんが知らない男にいきなり物を強請っていますが? 悪い男に引っかからないうちに、確り教育した方が良いと思います。
シモンによると、娘のために人間のいないミックスの集落に定住したそうだ。
奥さんはドライアード(ニンフ)と兎獣人のハーフ。なので、ミディアはドライアードと兎獣人と人間のミックスとの事。
この世界のドライアード種族は、男を魅了して伴侶とし、命が尽きるまで縛り付ける。その為に警戒され、男日照りが長きにわたり続くうちに、かなり性癖を拗らせてしまったらしい。
ある日、病気の母の為。兎獣人の男の子が女装して薬草採りに行ったが、バレてしまった。重度のショタコンで男の娘が大好物のドライアードに攫われ、生まれたのがミディアの母〈故人〉。
「ドライアード…… 業が深い。駆除しないのですか?」
「虜にした男は大事にするし妖魔じゃない。一応正常な妖精種だから対象外だ」
「あたしは微妙な心境かな。受け継いだ草木操作や弱いけど精霊術、それと強い脚力には感謝しているよ? 御爺さんと御婆さんは見た事がないけど」
少し不憫だが強い子だ。まだ16歳だが、現地基準では15歳で成人らしい。
おっさんの中には女学生が好きな人いますが俺は苦手。満員電車では有らぬ罪を被されない為に両手を上げて距離を取る。それに話題もサッパリだしな。
ミディアは上半身はスレンダーなスタイルだが、お尻と太腿が魅力的な美少女。日本ではモテそうなので余計に警戒してしまう。
おっさんにも明るく気さくなのが救いだ…… 加齢臭に注意しよう。
「魔素溜を確認しながら鉄がとれる場所に行こうと思う。その間に野営や狩りと罠、山菜や薬草、妖魔に付いて教えよう。大体4日の予定。ゴブリン位はいると思うが雇った傭兵が大方掃除している筈だ、危険は少ないだろう」
魔素溜とは有害な魔素が溜まり、妖魔が好む場所。長く居続けると妖魔化の危険もある。妖魔化した人間は理性を失い魔人と呼ばれる。
それと傭兵に付いて話すシモンさんの顔は渋面。人間に評判が良くてもミックスに対しても同じとは限らない、独立集落は国家の庇護も無いので心配らしい。むろん問題行動は傭兵自身も信用を失うが。
それはさておき、亜人種とも会えたし、異世界っぽくなってきました!
次はいよいよ実戦体験かも!
◆ミックス種のため分かりにくいのでミディアの描写を捕捉◆
ミディアの種族はミックス(多種族混血種又は雑種)で、ドライアード+兎獣人の母と人間の父を持つ。ドライアードはエルフと同じく美しい妖精種。祖母の遺伝でくせ毛だが濃緑の髪、祖父の遺伝で長い耳。ぱっと見はエルフの様。
だが、兎獣人の影響で、耳の先端は鋭角ではなく丸みがありエルフより長め。
他の違いは足と顔の作り。多種族の混血の為、ドライアードやエルフの様な美術品めいた完璧さは無く、美形だが親しみやすい感じ。でもローブを被ればエルフと区別は難しい。足は長くやや太めで人間より強力な脚力を持つ。
ミディアのイラストは留菜マナ様【Twitter @runamana700】より頂いたファンアートです