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第七章 最初は蜘蛛

 令和二年、新年あけましておめでとうございます。

 林間の道を歩くマッチョの男とずんぐりむっくりの男、トボトボ足取りは元気なし。

 身の毛もよだつ“尋問”、と言っても肉体的に痛めつけられたわけではない、とことん精神的に追い詰められていき、気が付いた時には知っていることを洗いざらい話していた。

 もうトラウマ、この先、悪事(おしごと)にも差しさわりが出るかも。

 早く人のいる町へ行き、酒を浴びるほど飲んで何もかも忘れたい。

 突如、目の前に黒い服を着た背の高い男が立ち塞がる。

「お、お前は」

 マッチョの男は震えあがる、イーヴォの“尋問”と同等、否、それ以上の恐怖。

「仕事に失敗したな」

 淡々と語る。誘拐は実行されなかった、それはすなわち、頼まれた仕事に失敗したということ。

「こ、これには理由がありまして」

 真っ青になって弁明する、ずんぐりむっくりの男。

「言い訳など、必要ない」

 じわりじわり迫りくる殺気。マッチョの男は鎖を取り出し戦闘態勢を取り、ずんぐりむっくりの男はアイアンゴーレムを精製。

「しくじった者には報いを、それが私に課せられた仕事」

 表情一つ変えず、ゾルタン・ネーターは“仕事”を執行する。



 後日、林間の道でマッチョの男とずんぐりむっくりの男の遺体が発見された。

 それはまるで、大きな獣に引き裂かれたかのようであったという……。



       ☆



 人間に情報網があるように、ゴブリンにもゴブリンの情報網がある。

 普通ならば、お互いの情報網に触れることは出来ないし、その存在を知らない人さえ少なくない。

 しかし、ゴゴブレンジャーとチームを結んでいるレオンハルトたちは別。


 マッチョの男とずんぐりむっくりの男の誘拐は阻止したものの、雇われた連中は他にもいて、その中にはゴブリンを使って誘拐を実行した奴らもいる。

 また悪事に利用され、ますますゴブリンのイメージが悪くなってしまった。

 悔しくて悲しい事態ではあるが、これを逆に利用することもできる。

 それはゴブリンの情報網を使い、ゴブリンを利用した連中の情報を辿ることにより、誘拐された人たちの監禁場所を見つけ出す。

 こんな作業も卒なくこなしたイーヴォ。



 突き止めた監禁場所は森の中にある洞窟。

 近くにある茂みに身を隠すレオンハルトとディアナ、ゴゴブレンジャー。既に“変身”済み。

 洞窟の入り口には見張りが2人、どうやらここで間違いなし。

 見張りの腰にはブロードソード、首には笛。見つかった途端、笛を吹かれ、仲間を呼ばれてしまう。そうなれば潜入は困難になる上、最悪掴まっている人たちに危害が加わる可能性さえ。

 洞窟に入るためには、まずは見張りをどうにかしなくてはダメ。

「ここは特訓の成果を見せるところだな、アオ」

「ええ、やりましょう、アカ」

 アオゴブレンジャーはラグビーボールを準備。ラグビーボールはレオンハルトの指示で作成されたもの。


「おごっ!」

 いきなり、ぶっ倒れた見張り。

「どうした!」

 もう1人の見張りが様子を確かめると、頭にたんこぶが出来ていて、皮で作られた楕円状の球が落ちているではないか。

 何でこんな物が首お傾げる。

「エンドボール」

 茂みの中からアカゴブレンジャーがラグビーボールを蹴っ飛ばす。  声が聞こえてきたので見張りが顔を向けた途端、ラグビーボールが頭を直撃、たんこぶを作り意識を失う。


 見張り2人を倒したレオンハルトとディアナとゴゴブレンジャー。縄で簀巻き、用心のため猿轡を噛ませ、茂みの中へ隠しておく。


 いよいよ洞窟へ突入。ゴブリンは夜目が効くので暗い洞窟の中でも平気だけど、人間ではそうはいかない。

 かといって松明など焚けば、敵に“ここにいますとよ”と知らせるようなもの。

 こんなこともあろうかとイーヴォが渡してくれたマジックアイテム、梟メガネ。

 これを掛ければ、あら不思議、闇の中でも平気で見える。

 梟メガネを掛けるディアナ、スカルマスクはマスクの上から梟メガネを掛けるといった器用な真似をやってのけた。


 洞窟の中は入り組んではいるが地面には沢山の足跡が残されており、これを追跡すれば目的の場所に辿り着けるはず。


 夜目の効くゴブリンたちが足跡を追い、その後を着いて行くディアナとスカルマスク。

 闇に閉ざされた道をスカルマスクたちは歩く、とつても静かで、時折天井から落ちてくる水滴の音も良く聞こえる。

 洞窟の中を歩きながら、ふとスカルマスクは前世の頃を思い出す。ファンタジーアニメやRPGなどのダンジョンで出くわすザコ敵の定番、ゴブリン。

 今、そのゴブリンたちと共に洞窟、ダンジョンを歩いている、それも先導されて。

 何だか面白い世界に生まれ変わったなと、そう感じた。

 梟メガネのおかげでディアナも、ばっちり洞窟内が見渡せた。

 途中、幾つも分かれ道があり、常に足跡のある道だけを選び先へ行く。

「これ、罠じゃないよね」

 心配そうなディアナ、もし足跡が複雑に入り組んだ洞窟の深淵に誘い込む罠だったのなら、大変なことになる。

 想像するだけで、ぞっとする話。

「それは無い」

 スカルマスクは断言。

「何故、そう言い切れるスッ」

 キゴブレンジャーが訪ねた。

「今までの足跡の無い分岐路には蜘蛛の巣が張ってあった、つまり誰も通っていない道だということだ」

 言われてみれば、今まで通ってきた道には蜘蛛の巣は張っていなかった。それは人が通ったとことがあるという証になる。

「流石はスカルマスクの旦那ですな」

 お世辞抜きのアカゴブレンジャーの誉め言葉。


 少し開けたところに出ると、そこには4匹の狼がいた。狼と言っても普通の狼とは違い、真っ赤な目が4つもある。

 スカルマスクたちの存在に気が付き、低い唸り声を上げ威嚇。首輪をしていることから、おそらくは番犬なのだろう。

 目的地に近づいていることは確かなようだ。

「旦那も姐さんも、ここは俺たちに任してください」

 アカゴブレンジャーはフレイルを取り出す。

 他のゴゴブレンジャーもフレイルを取り出した。前回の戦いを教訓に、武器を持った方がいいと判断。

 四ツ目狼は強力なモンスター、並のゴブリンなら歯が立たない相手。

 だがゴゴブレンジャーはの並のゴブリンではない。

 素早い四ツ目狼の動きを見切り、的確に急所を狙いフレイルを叩き込む。

 危なくなったらディアナは出て行くつもりで、いつでも魔法の詠唱を唱える準備をしていたが、その必要は無い様子。


 10分も経つ頃には四ツ目狼は全滅、少々ゴゴブレンジャーの息は荒いけど、息を整えればすぐにでも治る程度。

「行きましょう、どうやらこの先の様ですぜ」

 アカゴブレンジャーの指示した闇の奥、十中八九、そこに誘拐された人たちが囚われたいる。

 出来れば、あまり敵には気づかれたくないので慎重に進む。


 番犬の間から10mほど進んだ場所に、大きな空洞があった。

 こっそり様子を伺うゴブレンジャー。

 壁の五か所にランタンが吊るされており、空洞は明るい。明度から普通のランタンではなく、魔法の力で照らすマジックアイテムだろう。

 ここでは必要ないので、スカルマスクもディアナも梟メガネを外す。

 奥に牢屋が作られており、その中には誘拐された人たちが閉じ込められいた。

 洞窟の中に作られた牢屋のためか、かなり狭くぎゅうぎゅう詰め。

 やはり、ここだ。

 武装した5人の男が雑談したり、酒を飲んだり、武器の手入れをしている。

 牢屋の前では屈強な男と貧相な男が机を挟んで座り、カードゲームを楽しむ。

 何やら、暇を持て余しているみたい。

 敵の数は7人、スカルマスクとディアナを合わせれば同数。

 頭数が一緒でも、油断は禁物。

 そっとゴゴブレンジャー全員、ラグビーボールを取り出す。


「エンドボール」

「エンドボール」

「エンドボール」

「エンドボール」

「エンドボール」

 声に気が付いた時には既に遅く、5人の頭にラグビーボールが直撃、昏倒する。

 残ったのはカードゲームをしていた屈強な男と貧相な男。

 たじろぐ貧相な男、逆に屈強な男は前に出て、

「テメーらか、最近悪党を叩きのめしているというゴブリン共は」

 どうやら、少しはゴゴブレンジャーの知名度が上がっているようだ。

 それが嬉しいゴゴブレンジャー、テンションMAX。

「ゴブリンなど、俺たちのパシリをしてればいいんだよ!」

 腰に下げたファルシオンを抜き、上段に斬りかかる。

 踏み出し方、柄の握り方、力の込め方、どれをとっても素人に非ず。

 キゴブレンジャーが飛び出し、フレイルでファルシオンを受け止める。フレイルとファルシオンがかち合い、鳴り響く金属音。

 がら空きになった屈強な男の横っ腹を目掛け、ミドゴブレンジャーがフレイルを振る。

「見えてるよ」

 素早くファルシオンで防御、またも鳴り響く金属音。

 すると、背後からアオゴブレンジャーが殴りつける。

「おっと」

 体制を反転、ファルシオンでフレイルを止めた。

 今度は真横から、ピンクゴブレンジャーが殴り掛かる。

 辛くも止めても、死角からアカゴブレンジャーがフレイルを振り下ろす。

 テンションMAX状態のゴゴブレンジャーの連携攻撃。

「ゴブリンのくせに」

 防御しても防御しても、繰り返される連携攻撃。屈強な男はどんどん追い込みを掛けられていく、肉体的にも精神時にも。

 遂に防御しそこない一撃を食らったことが切っ掛けとなり、一気に袋叩き。

 ボロ雑巾の様になって倒れた屈強な男。ちゃんと加減はしているので生きてはいる。

 残ったのはたじろぐ貧相な男、ただ1人。


「降伏しろ」

 アカゴブレンジャーが呼びかける。見るからに戦闘向きではない貧相な男。

 と言っても油断はしない、いつでも連携攻撃が出来るよう、ゴブレンジャーは身構える。

 両手を上げ、一歩前に出る貧相な男。投降するんだとゴゴブレンジャーは思ったが、男が薄ら笑っているのをスカルマスクは見逃さなかった。

「みんな、逃げろ!」

 その一言で、飛びのくゴゴブレンジャー。

 その時、異様なことが起こった。メキメキッグキペキパキボキッ肉と骨が軋む音共に貧相な男の体が変形していく。

 額から8つの複眼が迫り出し、口の両端から鎌状になった挟角が生える。

 両腕が3つに裂け長く伸び、合計6本の腕になる。指先は硬質化して尖り、まるで鉤爪の様に。

 全身の至る所を黒いゴツゴツとした毛が覆いつくす。

 貧相な男の変じた姿、それは蜘蛛。

 この世界には人間やゴブリンの他にも、いろんな種族がいる、交流は少ないけれど。

 しかし、そんな種族の中でも人間から蜘蛛の怪人に変身する種族など、見たこともなけりゃ聞いたこともない。

 ドン引き状態のディアナとゴゴブレンジャー。

「警戒しろ!」

 スカルマスクの一喝で我に返り、警戒態勢を取る。

 おかけで貧相な男改め、蜘蛛男が糸を吐き出した時、回避行動を取ることが出来た。

 代わりに糸はボロ雑巾の様になった屈強な男の首に巻き付く。

 糸を引っ張り、手元まで引きずり寄せる。

 その衝撃で屈強な男は目を覚ます。

「――!」

 締め上げられる首、屈強な男は糸を解こうとするが丈夫な上、強い粘着性があるため、びくともしない。

 そうこうしている内、蜘蛛男は肩に挟角を突き立てる。

 挟角より、注入される毒液。

 屈強な男がもがき苦しみ、体から煙が立ち始め、ドロドロに溶けて行く、骨も残さず。

 衣服の浸ったドロドロの肉液、少し前まで屈強な男だったと話しても信じてもらえるだろうか……。

 あまりに常識から外れた現象に、ディアナもゴゴブレンジャーも真っ青、見るからに戦意喪失状態。

「最初は蜘蛛か……」

 またもこの世界の誰が聞いても理解できない台詞を言い、スカルマスクは蜘蛛男の前へ。

 睨み合いながら一定の距離を取り、円を描くように動くスカルマスクと蜘蛛男。

「パイダァァァァァァッ」

 先制攻撃を仕掛ける蜘蛛男、6本の腕が高速で襲い来る。

 バラバラの方向から向かってくる鉤爪、常人ならばあっという間にバラバラにされてしまうこと必須。

 だがスカルマスクの目は、全ての攻撃を捕らえていた見えていた。

 見えれば避けることなんて造作ないスカルマスク、全ての鉤爪をヒットさせず、掠り傷さえも負わない。

 吐き出られる糸。この攻撃も予想済み、あっさり躱す。

「パイダーパイダー」

 こいつはやばい相手と判断、振り向くことなく、そのままの体制で後ろへ下がる。

 いつの間にかラグビーボールを食らって気絶していた5人が意識を取り戻していたものの、この状況に意識が着いて行けず、呆然状態。

 壁をよじ登り、天井に張り付いた蜘蛛男、そこから何度も糸を吐きかけ攻撃。

 この攻撃も、スカルマスクは難なく躱す。

 糸の攻撃を躱し終えたスカルマスク目掛け、蜘蛛男が飛び掛かる。天井から、大きな蜘蛛が飛び掛かってくる、気弱な人なら悲鳴もの。

 今の体制では、蜘蛛男の大きさのものは躱せない。

 挟角が蠢く、噛みつかれ注入されるのは人をドロドロに溶かしてしまう毒液。

 口を大きく開き、蜘蛛男は噛み付く。

 ガキッと鳴ったのは金属音、スカルマスクは籠手で挟角を受け止めた。

「ふん!」

 もう片方の腕で蜘蛛男の顔面を殴り付け、強引に引きはがし、後方大ジャンプ、距離を取る。

 そこから走って加速を付けてからの、

「スカルキィィィィィクゥゥゥゥゥゥ」

 蹴りを蜘蛛男に叩きこむ。

 壁まで吹っ飛び激突、倒れた蜘蛛男は溶けて赤い液体になった後、蒸発。


 ようやく意識が追い付いた5人は逃げ出すが、ディアナもゴゴブレンジャーも追いかける気力は残っていなかった。

 蜘蛛男の倒れていた場所に佇むスカルマスク。

 跡形もなく消え失せ、貧相な男改め、蜘蛛男の存在を示す痕跡は変形時に破れた衣服の残骸のみ。

「ねぇレオンハルト、あの怪物に何か心当たりがあるの」

 ようやくディアナは、それだけが言えた。

「ある」

 前世の趣味と自身の体、それらを合わせれば蜘蛛男の正体に察しが付いた。




 本家のエンドポールはかなり面白い。

 仮面のヒーロー第一号が、最初な戦ったのが蜘蛛男。

 後のシリーズでも、蜘蛛は常連の怪人。


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