第五章 デビュー
舞台は再び、ラフトデシャイン!
喫茶店『フロイント』に店員が1人増えた。
「いらっしゃいませ」
ハキハキとお客様に挨拶、赤毛をツインテールにしたディアナ・クッシュ。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
レオンハルトも笑顔で接客。
ディアナも可愛いと評判になり、レオンハルト共々喫茶店『フロイント』の集客に大いに貢献。
街道を歩く背の高い男、口髭と黒い服が良く似合っている。
任務を遂行した帰り、何気なくラフトデシャインに寄った。
ふと、鼻孔をくすぐる焙煎されたコーヒー豆の香り。
香りの出所へ向かう。
「喫茶店『フロイント』」
露骨に客を引く気満々の派手な看板は置かず、あるのは店名だけ書かれたシンプルな看板。
そんなところが気に入った男、ゾルタン・ネーターは『フロイント』のドアを開けた。
からんからん、ドアに付けられたカウベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
可愛い仕草でレオンハルトが挨拶。この時、一瞬、ピクッとゾルタンの眉毛が動いたのを誰も気が付かなかった。
適当な席に腰を下ろしたゾルタンに、レオンハルトが注文を聞きに来る。
「コーヒー」
サラッとメニューに目を通し、即決で注文。
「解りましたコーヒー、一つですね」
注文を伝えに行くレオンハルトの後姿をチラ見。
「お待たせいたしました」
注文通りのコーヒーを届けるレオンハルト。
ゾルタンはミルクも砂糖を入れず、カップを持ち上げ軽く揺すって香りを確かめ、口を付ける。
「ほう、これは中々」
ぶっきらぼうを絵に描いたような顔に、微かに笑みが零れる。
からんからん、入店した時と同じくカウベルを鳴らし、ゾルタンは店を出て行く。
「アイツは軍人だな、元かも知れねぇが」
ゾルタンの後姿を見送ったイーヴォが呟く。
「さっきの人、軍人なの?」
聞き返す、ディアナ。
「ああ、佇まいで解る」
イーヴォも元傭兵、だからこそ解ることがあるのだろう。
へー軍人さんか、そんな風にレオンハルトは思った。喫茶店『フロイント』に軍関係者が来店することはそう珍しいことは無い、とても評判がいいので。
夜の帳の降りたラフトデシャイン。
夜の闇に紛れる様、黒い服を着た男が2人、民家を物色。
「アニキ、この家の塀、簡単によじ登れそうです」
「そうだな、防犯装備もしてないし、魔法の結界も張っちゃいねぇな」
今夜の得物は決定。家人の誰にも気づかれないうちに“仕事”を終えるのが理想的ではあるが、遭遇した場合、可哀そうだが痛い目を見てもらうことになる、そのための道具も持参。
塀をよじ登る泥棒の2人の手際の良さ、何度もこの“仕事”を行っていることが解る。
「おーい、そこのコソ泥」
いきなり見つかった。慌てて見てみれば、そこにいたのはゴブリン。
町の中にゴブリンが入ってくることはたまにある。それ程珍しいことでもなく、そう驚くことでもない。泥棒2人を驚かせたのは、その格好である。
顔の上半分だけを隠す赤いマスクを被り、首には赤色のマフラーを巻き、着ている貫頭衣も赤い。
何だ、こいつはと泥棒の2人は塀から降りてきた。
異様な服装を着ていても、所詮、ゴブリン。大した相手にはならないだろと舐めてかかり、短剣を抜く。こんな荒事も泥棒の2人は慣れている。
今にもゴブリンに切りかかろうとした時、青いマスクに青い色のマフラーと青い貫頭衣のゴブリン、緑のマスクに緑色のマフラーと緑の貫頭衣のゴブリン、黄色のマスクに黄色のマフラーと黄色の貫頭衣のゴブリン、ピンクのマスクにピンク色のマフラーとピンクの貫頭衣のゴブリン。全部で5人のゴブリンが現れたではないか。
「アカゴブレンジャー」
「アオゴブレンジャー」
「ミドゴブレンジャー」
「キゴブレンジャー」
「ピンクゴブレンジャー」
「「「「「5人揃って、ゴゴブレンジャー!」」」」
5人一斉にポーズを決める、背後で爆発は起らず。
「な、なんだ、このゴブリン共は」
理解不能の展開、こんな時はいちいち考えず、
「やっちゃいましょう、アニキ」
手っ取り早く、ゴゴブレンジャーに襲い掛かる泥棒2人。
“仕事”柄泥棒2人はの戦闘力は決して低くはない。ところがゴゴブレンジャーは戦闘力は並のゴブリンを越えており、おまけに5人もいる。結果、泥棒2人はフルボッコにされてしまう。
物音に気が付いて目を覚ました家人が現場を見た当初、ゴブリンに人が襲われると思い込み通報。
憲兵が駆けつけてきたとき、ゴブリンの姿は無く、叩きのめされ、気絶した男が2人いるだけ。
着ている服装、持っていた道具から、あっさりと泥棒であることが発覚。
調べてみればあちらこちらの町を荒らし回った連中で、“仕事”中、遭遇した相手に重傷を負わせ、時には殺害したことも。
賞金も掛けられている悪党たちであった。
もしゴブリンが叩きのめしていなければ、大変なことになっていた。
ゴブリンが人助けをしたこと、事情聴取で出てきたゴゴブレンジャーの名前は、一気にラフトデシャインを駆け巡る。
ゴブリンたちにヒーロー活動をさせる。このアイデアを思い付いたのはディアナ。
確かに大道芸より、ヒーローとして人助けをした方がゴブリンたちの汚名は晴らしやすい。
さらにヒーローならば目立つ分、評判になる。
スカルマスクをデザインしたレオンハルトに、ゴブリンたちのヒーロー像を頼まれる。
ディアナとゴブリンたちの期待の視線を受け、考えついたのが仮面のヒーローと同じ原作者が生み出した戦隊ものヒーロー第1号。
戦隊ものヒーロー第1号を参考にデザイン、それがゴゴブレンジャー。イーヴォとディアナは微妙な表情をしていたが、ゴブリンたちは評判良し。
ゴゴブレンジャーに選ばれたのはゴブリンの中でも戦闘が得意な者たち、女性1人を入れることに拘ったのはレオンハルト、だってお約束もん。
幸いゴブリンたちは腕っぷしが良ければ性別の差なんて気にしないので、あっさりと受け入れられた。
ただ残念なことが一つ、この世界にはカレーが無かったので、黄色はカレー好きは出来なかった。
ゴゴブレンジャーの特訓もイーヴォがやってくれた。元々戦闘が得意な者たちが選ばれたので、簡単な訓練で済む。
エヴェルオベート帝国に闇に潜む外道は、まだまだ沢山いる。それはすなわち、まだまだヒーローの活躍する場所があるということ。
ゴブリンたちと連携を結ぶ、これには大きな利点があった。
ゴブリンを悪事に利用しようとする連中を辿ることで、闇に潜む外道を見つけることが出来る。
こうして、ヒーローの活躍する場所が増えて行く。
仮面のヒーローと同じ原作者による戦隊ヒーロー第1号。
戦隊ヒーロー第1号のラグビーボールの必殺技、あれはかなり笑えます。