第三章 スカルマスク参上
改造人間となったレオンくん。
スカルマスクは初代仮面のヒーローの初期デザインから来ています。
元々は髑髏をモチーフにデザインしていたのですが、子供に髑髏はどうかということで、バッタになったそうです。
5年後……。
エヴェルオベート帝国の町リプコーゼア。そこそこ裕福な街、だからこそ狙われた。
町の中央広場に集められた町民たち、そこそこ裕福なので、そこそこいい服を着ている。
男も女も老いも若きも青ざめ震え、中には負傷者もいる。父親母親たちはこんな状況下でも、自分の子供を抱きしめたり、背後に置いたりして守っていた。
対して取り囲む男たちはどいつもこいつも陰険な笑みを浮かべ、町民たちを見下ろす。着ているお世辞でもいい品とは呼べない服には返り血、手に持っている武器は安物ではあるが、よく手入れされていた。つまりそれだけ“使い込まれている”ということ。
真っ当な職業をしていれば、返り血なんて浴びないし、こんなにも武器を使いこむ必要などない、こいつらの職業は盗賊、盗賊を職業と言っていいかは解らないが。
「これで全員か?」
他の男たちより二回りも大きく、チェーンメイルを着込んだ男が現れた、手に持つ武器は戦斧。
「ヘイ、ボス、町の隅々まで探しやしたが、もう猫の子一匹も隠れてはいませんぜ」
「そうか」
部下の報告を受け、町民たちを見回す、その視線は品定め。
リプコーゼアを守っていた兵士隊。派遣されてきたとはいえ、街と町民を守るため、戦った、必死に。
だが力及ばず全滅、盗賊の死者は6人。
兵士隊を全滅させた盗賊たちに取り囲まれ、町民たちの抵抗する意志は消え失せていた。
「あいつが轟雷のグスタフ」
町民の1人がリーダーの名前を口にした。
リプコーゼアを襲撃したのは、轟雷の異名を持つグスタフ率いる盗賊団。
一介の町民にも名前の知られている盗賊、もちろん悪名である。
奪えるものは奪いつくし、逆らうものは皆殺し、戦闘力もかなり高く、リプコーゼアの兵士たちでは敵わなかったのも当然。
「女と子供、それと奴隷として売り飛ばせる奴以外は殺せ」
グスタフの非情な命令。女と子供だから見逃すのではない、奴隷として売り飛ばせるから。
命令を受けた盗賊たちの顔に浮かび上がる嫌な笑み。これから行おうとする所業に対して躊躇いも罪悪感もなし、それどころか快楽さえ感じている、嫌な笑顔がそのことを物語っていた。
泣き叫び、命乞い助けを求める町民たちの声は、盗賊たちの耳には届かず、彼らの嗜虐性を満足させるだけ。
「怖いよー」
母親に抱かれた女の子が泣き出す。盗賊の1人の神経に、泣き声が触ってしまった。
「うるせえんだよ、このガキがぁ!」
泣く子を怒鳴り散らしたので、ますます泣き声を上げしまう。
「ピーピー泣くんじゃねぇ!」
山刀を振り上げる。グスタフの女と子供は殺すなの命令は血の昇った頭の中からは消失。
母親は我が子を盾になろうと覆いかぶさる。
今にも山刀が振り下ろされようとした、その時、
「そこまでだ、悪党共!」
突然、勇ましい声が響き渡る。
屋根の上に“そいつ”はいた。黒い革のスーツ、胸と腹、両手の肘から先、両足の膝から下に金属の装甲。胸と腹の装甲は筋肉ぽいデザイン。
髑髏をモチーフにした仮面を被り、首には真紅のマフラー。小さな風車の付いたベルトまでしている。
「な、なんだテメーは」
奇妙な出で立ちの乱入者に盗賊たちの意識が向く。町民なんかかまっている場合ではない、そう思わせるだけの存在力を放つ。
「聞かせてやろう、悪党共。俺は悪を蹴散らすため、異世界より現れた正義の戦士、スカルマスク!」
名乗り終えるなりかっこいいポーズを決め、ジャンプ。屋根から飛び降りる、真紅のマフラーが大空はばたく二枚の翼に見えた。
「このイカレ野郎!」
着地したスカルマスクに、一斉に盗賊たちが襲い掛かった。
一体多数もさることながら、剣、短剣、鉈などで武装した盗賊たちに対し、スカルマスクは素手。
「トゥ、ハッ、ヤァ、タアッ」
武器の攻撃などものともしないスピードで動き、パンチチョップキックを繰り出し、次々と盗賊たちをぶっ飛ばしていく。
町を守っていた兵士隊を全滅させた盗賊たちを、いとも簡単に倒してゆくスカルマスクの活躍を見た町民の大人たちは恐怖は何処かへと飛んでいき、ポカンと見ていた。
子供たちは『かっこいい』『すごーい』と喜びはしゃぐ
瞬く間に盗賊全員をノックアウトしたスカルマスク、残るはボスのグスタフのみ。
「やるじゃねえか」
戦斧片手にグスタフ、仲間が全員やられたのに余裕綽々。
「何で俺が“轟雷”のグスタフと呼ばれるが知っているか?」
「知らん」
即答、ファイティングポーズは崩さず。
「なら、教えてやらぁっ! セカク・ソ・リナレカ・バヘミナ《ナ・ドーン》」
呪文を唱えると戦斧が光りだし、スパーク。
「喰らいやがれ!」
振り下ろされた戦斧より雷が放たれ、スカルマスクを襲う。
サッとスカルマスクは躱す、外れた雷は民家の壁を容易く砕く。
かなりの威力を持つ雷の魔法、これが轟雷のグスタフの二つ名の由縁。
「小癪な、セカク・ソ・リナレカ・バヘミナ《ナ・ドーン》セカク・ソ・リナレカ・バヘミナ《ナ・ドーン》セカク・ソ・リナレカ・バヘミナ《ナ・ドーン》セカク・ソ・リナレカ・バヘミナ《ナ・ドーン》!」
何度も呪文をし唱え、雷を放つものの、ひょいひょいとスカルマスクは躱していく。
完全に雷の魔法を見切っている。
「ならばこれならどうだ! セカク・ソ・リナレカ・バヘミナ《ナ・ドーン》」
何とグスタフは町民たちを狙って雷を放つ。
「いかん」
正義の戦士スカルマスクなら簡単に躱せる雷攻撃も、町民たちではそうはいかない、しかも腰が引けた状態。
駆けるスカルマスク、雷の前に立つ。誰もが町民たちの盾になるつもりだと思った矢先。
「ふん!」
何と雷を蹴っ飛ばしたではないか!
蹴っ飛ばされた雷は、真っすぐグスタフに向かう。
「なにっ」
慌てて戦斧を盾にして雷を受け止める。
「ラ――スカルキック」
そこへ飛び蹴り。
雷の受け止めた戦斧は、スカルキックを直撃を受け、粉々に砕け散る。
幾分、威力の下がれたスカルキックを受けたグスタフは吹っ飛ばされ、背後にあった木に衝突、意識を失う。
倒したグスタフ率いる盗賊たちを頑丈な縄で、縛り上げるスカルマスク。
「ありがとうごさいます」
リプコーゼアを代表して町長がお礼を述べる。
「ところで、あなたは何者なのでしょうか?」
助けてもらったことはありがたく感謝している、これは本心。だからといってあまりにもスカルマスクは怪しすぎる。
子供たちはかっこいいと喜んでいるが、大人たちは何者か気になって仕方がない。
「俺は正義の戦士スカルマスク! それ以外の何者でもない」
これ以上、この質問は受け入れないとの意思を周囲に知らしめる。
折角、町を代表して出て来たのに、あっさりと会話が終わってしまった。
この先、どう会話すればいいのか、何も思い浮かばず困ってしまう町長。村人たちの視線が背中に刺さってくる。
「近くの憲兵に連絡を取るといいだろう。こいつらには多額の賞金がかかっている、街の復興に役立てるといい」
気を利かせたのか、スカルマスクは新たな話題を投下。
「えっ、あなた様の分は」
今、リプコーゼアにお金が必要なのは事実、二つ名が知られる盗賊、掛けられている賞金はかなりのもの。
しかし、いきなり多額の賞金を譲ってくれると言われても、多少なりとも気が引ける。グスタフ率いる盗賊を倒したのはスカルマスクなのだから。
「俺は金のために戦っているのではない、俺は俺が信じる正義のために戦っている」
言ってのけるスカルマスク。この言葉には大人たちの中にも、心を打たれるものがいた。
そうこうしているうち、
「サイクロン!」
スカルマスクが叫ぶ。するとどこからともなく、立派な馬が走ってきた。
「では」
そののまま馬に乗り、リプコーゼアを去って行く。
見送ることしか出来ない町民たち、本当に嵐のような男であった。
随分、リプコーゼアから離れ、人目の付かない場所に来るとスカルマスクは馬サイクロンから降りた。
ポンと胸を叩くと、掛けていた幻覚の魔法が解け、体が小さくなる。
幻覚の魔法で体をガタイのいい体形に見せかけていたのだ、おまけに声も変えている、かっこいい青年風の声に。
髑髏の仮面を外し、レオンハルトは一息つく。
5年前、事故で瀕死の重傷を負ったレオンハルトは、祖父テオの魔導改造手術のおかけで復活できたが、その影響で歳を取らなくなってしまった。
実際は21歳だけど、見た目は16歳、20代は仮面のヒーローの適齢期。
周囲には童顔で背が低いだけで、21歳だと言い張っている、実際、そんな人はいるので通じていた、今のところは。
前世の頃から憧れていた改造人間に、この世界でなってたしまった、ならばその力を役に立てるべき、あの仮面のヒーローたちのように。
着ているスーツは自作、上村士郎の時に身に着けたコスプレ制作の技術が役に立った。
自作のスーツは只のコスプレ衣装なので、肉体を強化する機能などは着いておらず、むしろ仮面で視界は狭まるし、装甲は動きの邪魔になってしまう、それでもあの戦闘力。
何故かスーツを着たら、あのような口調が変わり、あんな行動をとってしまう。
正し、恥ずかしいという気持ちは薄く、どちらかと言えば楽しんでいる。
脱ぎ終えたスーツ箱に詰め、馬サイクロンに背負わせる。
スーツの下は薄い布の服。あの程度の戦闘で、今のレオンハルトは汗などかきはしない。
「よいしょっと」
馬サイクロンに乗り、
「早く帰らないと、おやっさんに叱られる」
馬サイクロンをスタートさせた。
エヴェルオベート帝国の都市ラフトデシャイン。
喫茶店『フロイント』は、少し目抜き通りを外れたところに建てられている。
店内は豪華さは無くとも、来店者に落ち着いた気分と癒しを与えてくれるデザイン。
店長の初老の男イーヴォ・ミッターマイヤーは、5年前に帝都アルングから引っ越しして来て『フロイント』をオープンした。
イーヴォは、パッと見では温厚で優しそうな印象を与える人物。
店内に漂う焙煎されたコーヒー豆の香りが客を誘い込む。
「ごめん、おやっさん、遅くなっちゃった」
裏口から、レオンハルトが飛び込んできた。
「早く準備をしやがれ、これから混む時間なんだ」
イーヴォの一喝。
「解りました」
レオンハルトはロッカールームへ急ぎ、準備を始める。
服を着替えたレオンハルト、
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
にこやかな笑顔で接客を始める。
実は『フロイント』はコーヒー以外にも、店員が可愛いと評判。
客足が途切れる時間、イーヴォがまかないを作ってくれた。
クレマーレという魚を切り身にして塩掛けたものを焼き、野菜と一緒にバケットで挟む。
簡単な料理たけど、やたらと美味しい、一緒に出てきたコンソメスープも文句なし。
「美味しい」
お世辞抜きにしてもイーヴォの料理の腕はいい、丸かじりでレオンハルトは、あっという間に食べ終える。
食後、イーヴォの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、
「で、どうだった」
「グスタフや盗賊を捕まえたし、町の人たちも助けることが出来た。でも兵士たちは……、僕がもっと早くに到着していたら……」
リプコーゼアの一件のを話す。
情報屋を通じ、グスタフがリプコーゼアを狙っていることを仕入れてきたのはイーヴォ。
「何でもかんでも完璧にこなせるもんじゃねぇ、下手に全部やろうとすると足元をすくわれちまう。出来ることを出来るだけやって、それを積み重ねて行く、今、やるべきことはそれだ」
まだ2人で初めでばかり、リプコーゼアの1件が最初の仕事。
「解っているとは思うが、外道はグスタフ一味だけじゃねぇぜ」
十分にレオンハルトも解っている。煌びやかに見えるのはヴェルオベート帝国の表側だけ、裏側にはどす黒い物が潜んでいる。
5年前、帝都アルングの外れで隠居生活を送っていたイーヴォの元へ、果って弟子だったゲオルグが眠るレオンハルトを連れて訪ねてきた。
レオンハルトがヴァルトシュタイン公爵の長男であること、事故で瀕死の重傷を負い、祖父のテオが禁断の魔導改造手術を施し蘇生させたたこと。
一連の事情を話した上でゲオルグは、レオンハルトを預かってほしいと頭を下げてきた。
突然の無茶な頼み、普通なら断っても不思議じゃない頼み事。
実はテオとイーヴォは親友の関係にある。
親友のテオがどれほど、孫のレオンハルトを溺愛しているか知っているイーヴォ。何せ酒を飲み交わす度、必ずと言っていい程孫の自慢話を聞かされたので。
そんなテオの孫、レオンハルトを信じて託せるのはイーヴォ1人しかいない、そうゲオルグは判断した。
ゲオルグほどの男が信頼して頼んできたのである。
親友と弟子の信頼を受け入れる、そこに迷いや戸惑いなどは皆無。イーヴォはレオンハルトを預かることを承諾。
そしてペーター・ヴァルトシュタインが魔導改造手術を狙っていることはイーヴォも知っている。このまま帝都アルングにいるのはリスクが高い、そこでラフトデシャインに移り住む。
意識回復させたレオンハルト。最初こそ、モニターの向こうの存在であった仮面のヒーローと同じ改造人間になったことに興奮を覚えもしたが、その仮面のヒーローと同じ葛藤を抱えることとなった。
初代仮面のヒーローが捻っただけで水道の蛇口が壊れ、軽く手を握っただけでも子供が痛がる。
レオンハルトも“力”を持ってしまった、修行でみ身に着けたわけては無い、降って湧いたように強力な“力”を。
今のままレオンハルトが普通の日常生活を送れば、周辺にどれほどの損害が生まれるか計り知れない。
『“力”を持つ者は、その“力”に対する責任がある。大きな“力”を無暗に振り回すだけでは、自身どころか周囲の者まで傷付けてしまう』
イーヴォにそう言われ、レオンハルトは彼の元で特訓を積む。
特訓と言っても鉄球をぶつけられるわけでもなく、先輩仮面のヒーローたちにリンチされるわけでもない。
パワーアップのための特訓とは違う、“力”を使いこなすための特訓。
これはある意味、パワーアップのための特訓よりも、厳しく辛い特訓であった。
イーヴォの特訓は厳しさの中にも、どこか優しさがあった。だからこそ頑張れただからこそ乗り越えることが出来たレオンハルト。
その結果、完全に“力”をコントロールできるようになり、普通の日常生活を送れるようになった。
盗賊たちと戦えたのはゲオルグから武術指導も受けていたから。
そのゲオルグの師匠なのがイーヴォ。
コーヒーを淹れるのも一流、料理の腕前も申し分なし、“力”を使いこなす特訓、戦闘訓練もこなせるイーヴォ。
一体、何者なのだろうか。解っているのはテオの親友でゲオルグの師匠、昔は傭兵で敵からは“猛虎”と恐れられたこと、それ以下は不明。
ただ、これだけは自信を持ってた言える、信頼できる人物であると。
本家のおやっさんも、何気に何でも出来ましたからね。