第十二章 変身 レオンハルト
クライマックス!
ヨナス・ティッセンの別荘。本宅を一回り縮小したような造り、それでも豪華であることは変わりなし。
表向きは避暑目的で建てられたもので、周辺の土地も買占め、私有地を理由に立ち入り禁止にしている。
一般的な見方ではアコギな貴族の贅沢となるが、真相を知っているレオンハルトたちは違う。
立ち入り禁止にしているのは、ここにも改造人間を製作する施設があるからだ。
少し離れた物陰に身を潜めているレオンハルト、ディアナ、ゴゴブレンジャー、今回はイーヴォも来ている、服装はロングコート。
スカルマスクの衣装は装着済みのレオンハルト。
別荘は新築だったこともあり、設計図が手に入った。おかけで地下倉庫があることが解っている。
ティッセン邸のことを考えるに、改造施設は其処にある可能性が高い、ティッセン邸と別荘の造りも似ているし。
別荘周囲の気配を探るスカルマスク。
「この辺りには敵の気配はない」
改造人間の優れた感覚で探ってみても、別荘の周囲に敵の気配は感じられなかった。
「もしかして、私たちか来るとは思っていないの?」
ディアナの楽観的な見方。
「それは無いだろうな」
あっさりと、イーヴォは否定する。
「あいつらは俺たちが来ることなんざ、最初から解っている。解っていて、迎え撃つつもりだ、別荘内でな」
周囲に戦力を分散させず、別荘内に戦力を集中させている。裏を返せば敵もそれだけ、本気だと言こと。
「で、どう攻めるんです」
ゴゴブレンジャーのリーダーとして、アカゴブレンジャーが聞く。
「正々堂々、真正面から乗り込むだけだ」
今回の敵は下手な策など逆効果、ならば正面突破あるのみ。脳筋的な発想なれど、今回の相手には一番効果的。
「さてと、別荘訪問と行こうか、ノックは無用でな」
微笑んでみせるイーヴォ、その微笑みは歴戦の戦士だけが見せるもの。
ノックすることなく、別荘に突入。
予想通り、らせん階段有する玄関ホールには使用人とメイドたちが待ち構えていた。
スカルマスクたちの姿を確認するなり、使用人とメイドたちはウツボカズラ、ハエトリグサ、ハンミョウ、蛾、カミキリムシ、蛭、ゴカイ、オコゼ、ハリセンボン、サメ、亀、猪、アリクイ、トカゲ、コブラの怪人へ変身。
ショーテルを抜くアカゴブレンジャー、槍を構えるアオゴブレンジャー、斧を取り出すミドゴブレンジャー、鋲の付いたフレイルを取り出すキゴブレンジャー、ピンクゴゴブレンジャーはポールウェポンを構える。
みんな自分好みで合っている武器を製作した。
「こ――」
「解った、ここは君たちに任せる」
アカゴブレンジャーが何を言おうとしたのか悟り、いち早く、それを言わせずディアナと先に進む。
何故、アカゴブレンジャーに台詞を言わせなかったのか? 『ここは俺に任せて、先に行け』は死亡フラグであるから。
怪人たちはスカルマスクとディアナを追わなかった。いくら人数に勝っていても、ゴゴブレンジャーはそんな余裕の見せられる相手ではないと解ったので。
まだ変身していない執事服の男とイーヴォは睨み合う。解き放つ風格から、こいつが怪人たちのリーダー格と解る。
睨み合うこと数秒、執事が先に動く。
ゴルゴルゴルゴルゴルと喉を鳴らしながら、二回り以上身体が膨れ上がり引き裂かれる執事服、全身を体毛が覆っていく。
変じた姿はマンドリルの怪人。
「これはこれは、何とも強そうじゃねぇか」
と口で言いながら、恐れている様子は一切なし。
ロングコートの裾に手を伸ばし、そこに忍ばせて置いた自身の得物、三節棍を抜く。
「さぁ、始めようじゃねぇか、エテ公」
スカルマスクとディアナは廊下を走り、設計図に記されてあった地下倉庫へ向かう。
敵は玄関に集中していたようで、一切出てこない、おかげでスムーズに目的の場所へ辿り着くことが出来た。
「本当に、ここなの」
首を傾げるディアナ、目的の場所にあったのは壁、そこに地下への入り口は見当たらない。もしかしたら間違ってしまったのではないか、そんな心配が込み上がってくる。
「……」
スカルマスクは壁を調べる。確かに設計図には、この場所に地下倉庫の入り口があると記されていた。
前世の頃、よく読んだ小説や漫画、よく見たアニメ、よくプレイしたゲームに、今とよく似た状況があった。
コンコンと壁を叩き音を確かめてみる。一か所だけ、他の場所と音の異なる場所で手を止める。
「ここだ」
おそらく、どこかに壁を開くための仕掛けがあるのだろうが、探し出すのに時間がかかってしまう。
拳を握り締め、壁をぶん殴って破壊。
案の定、そこに地下へ降りる階段があった。こんな隠し通路は創作物で、よくあったので調べてみたら、本当にあった。
「こうやって隠してあったの、よく解ったね」
ディアナは褒めてくれた。
「行こう、この下で決戦が待っている」
詳しいことは話さず階段を降りて行く、いくらディアナでも前世のことは話せない。
「うん」
決戦へ向かいディアナも気を引き締め、階段を降りる。
階段を降り切ると、ティッセン邸の地下にあったものと同じ施設があった。
何のための施設かは一目瞭然。
そしてそこにはエッボとゾルタンの姿もあり。
「何故、ここが解った、貴様らは何者だ」
警戒心丸出し。そりゃそうだ、ディアナは兎も角、今のレオンハルトはスカルマスクの姿なのだから。
無言でゾルタンはスカルマスクの前に立つ。
一定の間合いを保ち、向かい合うスカルマスクとゾルタン。
遠吠えと共に、魔獣ヴォルトフゴルの怪人に変身。
「正義のヒーロー、スカルマスク、ここに参上」
これから始まる決戦に対し、身構える。
車いすごとスカルマスクとゾルタンの方に向かおうとしたエッボの前に、ディアナは立ち塞がる。
「レ――スカルマスクの戦いは邪魔させないわよ」
いくら相手が歩けない体であっても、エッボは油断の出来ない相手であり、許してはならない相手もある。
スカルマスクとゾルタン、ほぼ同時に間合いを詰め、ぶつかり合う。
常人の目では捉えきれないほどのスピードで行われる戦闘。これまでの怪人との戦闘では、スカルマスクには余裕があった。
だがゾルタンは完全にスカルマスクの動きに対応し着いて来ている。
打ち出される鉤爪の手刀を左手の籠手で振り払い、お返しに右手でパンチ。
パンチは躱され、更なる鉤爪攻撃。
鉤爪を躱すと同時、腰を捻って反動をつけた裏拳で殴り付ける。
裏拳は右腕でガードされ、しなやかで硬い体毛がダメージの殆どを吸収されてしまう。
縮まった間合い、襲い来る鉤爪。
咄嗟に身を反らしたことと、利き腕とは逆だったことで胸の装甲が切り裂かれるだけで済む。
後少し身を反らすのが遅かったり、利き腕の右手の攻撃だったら引き裂かれていたのは胸。
今までの怪人とは桁違いの強さ、このままでは余裕など持って戦えることなど不可能な相手。
再びぶつかり合うスカルマスクとゾルタン、攻撃を防御し攻撃、その攻撃を防御、更なる攻撃。
双方一歩も譲らない、凄まじい戦い。
「ササガ・マム・サツ・モヒン・ア・デ《モーターチボ》」
呪文を唱えたエッボから放たれる氷の槍。
「ウノ・タウカン・ゾロカ・キゼ・コタ《ルーンヒュル》」
冷気を含んだ風を放ち、氷の槍を打ち砕く。
砕けたった氷が散らばり、周囲の気温を下げる。
「ほう、中々やるな」
口では褒めるようなことを言っていても、内面からにじみ出ているのは正反対の嘲りと侮蔑。
「ご褒美に特別に見せてやろう、小娘、万能の天才の力を」
本気で自分を天才だと信じている感情を、ひしひしとディアナに感じさせた。
激しい戦闘の真っ只中のスカルマスクとゾルタン、攻撃、防御、躱しの連続、2人とも衰える様子など微塵も無し。
ゾルタンの口が開く、この攻撃はティッセン邸で見た。
口から放たれた超音波を身を低くして躱した後、一歩強く前に踏み込み、ゾルタンの腹に正拳突きを叩き込む。
吹っ飛んで倒れるゾルタン。決まったと思ったのもつかの間、瞬時に起き上がり、鉤爪攻撃のラッシュ。
予想外の行動の速さに躱すタイミングを遅らせてしまう、それで見辛うじて装甲だけを切り刻まれるだけに留めることは出来た。
ボロボロになって剥がれ落ちた装甲。
スカルマスクの装甲を失い、レオンハルトの素顔が露になる。
ピタリとゾルタンの動きが止まり、レオンハルトを凝視。
「レオンハルト様」
「お前はテオの孫か」
ディアナと戦闘中にもかかわらず、エッボもレオンハルトを凝視した。
「その姿、そうか、貴様も改造人間かっ」
記憶にあるレオンハルトと、歳をとっていない今の姿が改造人間であることを示している。
「丁度いい、そいつを殺せ、ゾルタン。そうすれば私の方がテオより優れていると証明できる」
少々興奮気味に捲し立てる。血走った目に宿るのは狂気。
「テオより優れているって、本気でそんなこと思っているの?」
ディアナはテオにあったことは無いが、他人と比べて自分が優れていると言う奴に碌な奴はいない。
「そうさ優れているさ、テオは私の才能を恐れ、事故を偽装し、私を殺そうとしたのだ! だから、こんな体になった」
車いすの肘掛けを叩く。
これも思い込みだと解る。例えあったことの無い人物でも、レオンハルト祖父であり、イーヴォの親友なのだから。
エッボの発言に、一瞬、動揺を見せるレオンハルト。
攻撃の絶好のチャンスだったのに、ゾルタンは首を横に振った。
それだけで解った“テオは、そんなことはしません”と言っていることが。
「僕のこと、知っているの」
ハイとゾルタンは頷く。
「私はペーター・ヴァルトシュタイン殿が率いる部隊一つの指揮を任されておりました。その際、何度かお見かけしたことがあります」
レオンハルト自身は覚えていないというより、父親の部隊にはあまり興味は持っていなかった。ヴァルトシュタイン家にいた頃、何度か見たことがあるな、その程度の認識。
ただゾルタンにしてみれば、レオンハルトは果って使えていた主君の息子になる。
「申し訳ございません、レオンハルト様。戦で死にかけた私を救ってくださったエッボ様の恩義には報いらなければなりません」
と言った後、小さな声で、
「人が変わったとしても」
付け加えた。
やはりレオンハルトの知っていた時とはエッボは人が変わっていた。それでも恩義に報いようとするゾルタン。
こんな出会い方をしなければ、好感を持てる人物だっただろうに。
「レオンハルト様、あなたを苦しめたくありません、次で終わらせます」
全身の力を漲らせ、目が炎の様に輝き、毛が逆立つ。
本気で次の一撃で仕留めに来る。
「解った。なら僕もあなたの信に応じ、“本気”で戦う」
残っていたスカルマスクの装甲を剥がして捨てる。
「変身」
いつものスカルマスクの衣装を着るときのような、ポーズを決めることなく、本当の“変身”を行う。
レオンハルトが虹色に輝く、いや、輝くというよりも体そのものが虹色の光になったと言う方が相応しい。
元との容姿もあり、神々しさと美しさをを感じさせ、まるで精霊、また放つオーラが複翼のように見え、天使を思わせる姿。
遠吠えと共にゾルタンは金色の矢となり、レオンハルトに突撃。
金色の矢がレオンハルトを貫く、そう見えたディアナは背筋が凍り付いて真っ青になる。
「私の勝ちだ! やはり私の方がテオよりも優れていたんだっ、“あの方”の言われた通りに」
エッボは歪んだ笑みを浮かび上がらせた。
だが実際は金色の矢はレオンハルトを貫いてはいなかった、すり抜けた、そうすり抜けたのだ、まるでそこに肉体なんか無いように。
「この姿てないと勝てなかった相手は、あなたが初めてです」
ゾルタンに敬意を払い掌を向け、そこから虹色の光線を撃ち出す。
虹色の光線に貫かれるゾルタン。
『テオ殿、あなたは一体“何”と、レオンハルト様を合成したのですか……』
それが最後の思考となった。
「私の最高傑作のゾルタンが負けるなんて……。ま、まさかテオは“あんなもの”と合成に成功したというのか、そんな馬鹿なことがあるものか! あり得るはずが」
目で見たことがどうしても認められないエッボ、
「うっ」
突然、胸を押さえ車いすから転げ落ちる。
先程まで戦っていた相手、警戒しながらディアナは近づく。
「死んでる」
エッボは死んでいた、有頂天から一気に最下層への転落、テオとの圧倒的な才能の差を見せ付けられたショックに心臓が耐えきれなかった。
虹色の輝きを放つレオンハルト、その輝く光をディアナは感じたことがある、それは魔法、ゾルタンの傷も魔法の傷跡。
同じものをエッボは感じ取り、そして気が付いた。テオが“何”とレオンハルトを合成したのかを。
変身を解き、元の姿に戻ったころに戦闘を終えたイーヴォとゴゴブレンジャーが駆けつけてきた。
「そうか……」
ここであった戦闘の一部始終をディアナから聞き終えたイーヴォ。正し、レオンハルトの変身は伏せて置いた。まだディアナの中で整理がついていたない。
「しかし、何で自分の才能がテオより上だとか、あの事故がテオの陰謀だと、勘違いしたんだ?」
イーヴォは首を傾げる。
「あの事故の原因は、エッボのミスだぞ」
「えっ」
それはレオンハルトも初耳。
「テオの奴が、エッボを傷付けないために黙っていたんだがな、それが裏目に出たのかのか」
何処をどうこじらせて、あんな勘違いをしたのだろうか?
「まぁ、ここで考えていても仕方がない、この施設を破壊して出るぞ」
そのためにここに来たのだ。
これは俺たちの仕事だとばかり、ゴゴブレンジャーが動き出す。
その最中、そっとレオンハルトはエッボとゾルタンの閉じさせた。
ついにレオンハルトくんが変身いたしました。




