第十章 ついに見つけた
今回は戦闘あり、かなり長い話になります。
一生懸命、働く雇われたばかりの使用人たち、中には家族の生活を支えている者もいる。
今回の雇い主は、金払い良し。
庭に散らばるゴミを箒で掃いているレオンハルトとディアナ。掃除しながらも周囲の状況を注意することも怠らない。
だからこそからこそレオンハルトは気が付く、常に見張られていることに。
さりげなく視線の先を追っていくと、その先にいたのはヨナス。彼一人けではない、オットマーやベテランの使用人とメイドたちがいた。
思い出されるグンタ―の“雇われた使用人が、雇われる前とは別人の様になっちまう”の言葉を思い起こす。
使用人は改造人間、恐らく品定めしているのだろう、自分たちの仲間にする者たちを。
『誰一人、犠牲者にするものか』
強い決意を心の中で誓う。
幸いディアナも近くにいるし、ゴゴブレンジャーも影で調べてくれている。
でも油断は禁物、敵の懐に飛び込んだということは、同時に敵の腹の中に言うことならだから。
夕食の時間。使用人だからと言っても粗末なものは出ず、肉魚野菜スープや黒パンはちゃんとした良質の食品、デザートまで付いている。
こんな贅沢な食べ物は初めてな使用人は、泣いて喜び家族にも食べさせてあげたいと言う。
食べる前にレオンハルトはチェック、何も変な物は混入はされておらず。
ディアナにだけ解るように食べても大丈夫だよのサインを送り、料理を口に運ぶ。
素材は良品、スパイスも申し分なく、調理の腕は一級。美味しいのは当たり前の結果。
“豚太らせて食え”そんな言葉が思い浮かぶ。
ランプの明かりの中、眼鏡を掛けたヨナス・ティッセンは合格者たちの情報の書かれた書類に目を通す。
身長体重、体力知力、ケガや病気の有無、依存症の有無など、定められた合格ラインには達している、だから合格にした。
後は使用人として使い、自身の目で素材に適しているか見極めればいい。
「もう失敗は許せませんから、ね」
書類を机の上に置き、眼鏡を外す。
「何者かが邪魔している見たいです、注意してくださいね」
天井に張り付いている、オットマーは頷く。
未明、優れた感覚が異常を察知、ネグリジェ姿のレオンハルトは目を覚ます。
キョロキョロ見回せば、窓の外が妙に赤い、原因を確認するため、窓辺から庭を見る。
ティッセン邸の西館が燃えていた、火の粉を巻き上げ赤々と。
事態を察したディアナも目を覚まし、続いて同居人の2人も目を覚ます。
あちらこちらで『火事だ火事だ』との声、ベテランの使用人たちが寝間着姿のまま、消火活動に追われている。
自分たちも消火活動をやらなくては同居人の2人が飛び出し、後を追う形でレオンハルトとディアナは庭へ。
火事は西館だけでなく、東館と倉庫、三か所同時に起きていた。
レオンハルトとディアナは一番近い西館の消火活動に参加したところ、
「そっちへは行くな!」
いきなり、ベテランメイドに止められる。
「あなたたちは、向こうの消火を手伝いなさい!」
東館と倉庫の方を指差す。
新人は全員、東館と倉庫の消火に回り、西館で消火活動をしているのはベテランの使用人たちのみ。絶対に新人には消火活動参加させないとの意思丸出し。
「……」
黙って突っ立っているわけにもいかないので、レオンハルトはディアナと一緒に倉庫の消火に向かう。
「ねぇ、レオン。まさかこの火事、ゴゴブレンジャーがやったんじゃないよね」
心配そうに、小声で話し掛けてくる。
普通、失火で三か所同時に火事は起こることは無い、つまり放火ということ。
「ゴゴブレンジャーはこんな乱暴なことはやらないよ。犯人は別の誰かだ」
放火犯はゴゴブレンジャーではない、ただおかげで目的の場所は解った。
みんなが頑張ったおかげで、何とか火事は消し止められた。被害も中程度、死傷者は0。
翌日、新人の使用人たちには焼けた西館、東館、倉庫の修復が終わるまで休暇が与えられた、それも給与付けで。
はっきり言って有給休暇。
新人の使用人たちは有給休暇を大いに楽しむつもり、2名を除いては。
こっそり戻ってきたレオンハルトとディアナ、ゴゴブレンジャーも一緒。
西館の消火には新人を参加させなかった、何故ならば近づけさせたくなかったから。
「多分、あそこに僕たちの探しているものがあるんだ」
すなわち、改造人間に関する何かが。
こんなことがあったからには敵側も警戒してはいるだろうが、ぐずぐずしていたら、また犠牲者が出てしまう。
新人の使用人たちが戻ってくる前に、ケリを付けなくては。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
「えっ、何?」
「何でもないよ」
前世の世界の諺のことを説明すれば、いろいろややこしくなるのでごまかす。
ディアナの方もよく聞いていなかったので、それ以上の追及はしなかった。
当然、西館は見張られているものと思っていたのだが……。
確かに見張りらしき使用人の男性4人はいた、正し全員、倒れている状態で。
目を見開き、手にはブロードソードを握ったまま、ピクリとも動かない。
すぐさまアカゴブレンジャーは駆け寄り、4人を調べる、やはり死んでいる。
状況からして誰かと戦い、敗北したのだろう。
「こいつは貴族の不審死と同じだ」
レオンハルトとディアナがフェングニゲの監獄へ向かっていた時、ゴゴブレンジャーが調査していた案件。
不審死した貴族全員と同じ刺し傷が4人の使用人にもあった。
「どうやら、侵入者は僕たちだけじゃないようだね」
放火したのも、おそらく“そいつ”だろう。敵か味方かは、まだ判断は付かないが。
焼け跡を見回せば床が破壊され、そこに地下へ続く階段が見える。
間違いなくもう1人の侵入者は、一足早く地下へ入って行った。
地下には確実に改造人間の施設がある。その分、とても危険、敵もゴロゴロいるだろう。
一旦、レオンハルトとディアナ、ゴゴブレンジャーは顔を見合わせ、お互いの意思を確かめ合う。
誰も引き下がるつもりは無し、みんなで地下への階段を下りて行く。
階段を下りて行くレオンハルト、今回は潜入が目的なのでスカルマスクの衣装は用意はしておらず。
『もう1人の侵入者は、何が目的で侵入したのだろう……』
貴族の不審死の犯人がもう1人の侵入者なら、改造人間である可能性が高い。
改造人間が何のために? 疑問が沸き起こるが答えを導く出すためには、手元にある情報は少なすぎる。
階段を降り切り、地下の施設へ入る。
魔法の明かりで地下でも明るくよく見え、壁も天井も白一色、照明まで白い、殺風景な雰囲気を放っていた。
自ら進んでゴゴブレンジャーは先を歩き、レオンハルトとディアナは着いて行く。
ここは敵陣の真っ只中、警戒を怠らず廊下を進む。
会話は厳禁、異様と言える静けさ、曲がり角を曲がった途端、遭遇してしまったメイドの一団に。
咄嗟に、間合いを取るレオンハルトたちとメイドたち。
メイドはベテラン5人。
「侵入者め、昨夜の火事もお前たちだな」
全員同時にフルーレを抜く。
確かに潜入者には違いないが、放火はやってはいない。とそんなことを言っても話が通じない相手なのは先刻承知。
ゴゴブレンジャーはフレイルを構え、レオンハルトとディアナは戦闘モードに突入。
たちまちメイド5人の顔が変形。額から2本の触角が生え、両目は大きな複眼になる。
皮膚は硬質化、体色はオレンジと黒縞に変わり、背中には大きいのが2枚、小さいのが2枚、計4枚の翅。
その姿はメイド服を着た2足歩行の蜂、髪の毛や口元は元のまま。
「蝙蝠の次はサソリじゃないか!」
またもこの世界の誰もが解らないことを言うレオンハルト。
一斉にフルーレで突きかかる蜂メイドの攻撃を、ゴブレンジャーはフレイルで弾く。
蜂メイドは5人、ゴブレンジャーも5人、双方共十分な連携がて来ている。
チームワークVSチームワーク、ここはオレたちに任せくれとアカゴブレンジャーは合図。
それを受け入れ、一歩下がるレオンハルトとディアナ。正し余程のピンチなれば手助けするつもり。
続けさまに放たれる連続突き、そのことごとくをフレイルで弾く、ゴブレンジャー。
突き攻撃が止まったところへ、5人同時にフレイル攻撃。
後ろへ飛んでフレイル攻撃を躱す、翅があるので素早い。
パワーが高いゴゴブレンジャー、スピードが高い蜂メイド、攻撃防御回避反撃がぶつかり合う。
攻撃の手を緩めず、何度も繰り出すゴブレンジャー。いくら翅があっても地下では飛び回ることは出来ないので、じりじり追い詰められていく。
蜂怪人には室内戦闘は不利。
突然、蜂メイドたちはフルーレを投げ捨て、円を描くようにゴブレンジャーの周り走り出す。
理解不能な攻撃に、戸惑いを見せるゴブレンジャー。
走るスビートは高速になり、円も縮まって行く。
反撃に転じようにも、高速すぎてその隙無し。
ピンクゴブレンジャーの額から汗が流れ落ちる。否ピンクゴブレンジャーだけではない、他のゴゴブレンジャーも汗を流す。
蜂メイドは文字通り“ヒートアップ”していた、その熱はどんどん上昇、超高熱へと変化。
走り回る蜂メイドの生み出した超高温の熱の渦は、ゴゴブレンジャーを包み込む。
超高温の渦から逃げ出す術無し、このままではゴブレンジャーは蒸し殺されてしまう。
どう見ても、この状況は余程のピンチ。
「ウノ・タウカン・ゾロカ・キゼ・コタ《ルーンヒュル》」
蜂メイドたちにディアナが冷気の風をぶつけ、一気に冷却。
冷気の魔法に冷やされた蜂メイドの動きが鈍る。この隙を見逃さないゴブレンジャー、フレイルを叩き付ける。
何とか蜂メイドを倒したゴゴブレンジャー、袖で汗を拭い、胸元を吹け風通しを良くする。
「ごめん、あなたたちの戦いなのにちょっかい出しちゃった」
謝るディアナに対し、
「いいえ、姐さんのおかげで命拾いしやした」
アカゴブレンジャーがお辞儀したのに続き、
「「「「助かりました」」」」
他のゴブレンジャー全員お辞儀。
こんなことされたら、とても気恥ずかしい、ポリポリ頬を掻き、ディアナは照れくささをごまかす。
その時だった、死んだと思われていた蜂メイドの1人が起き上がり、落ちていたフルーレを拾い突く、残った力を全て込めた最後の一撃。
咄嗟のことに動けないディアナの前にレオンハルトが立ち、腕でフルーレを受け止める。
「くくく、蜂女の毒でもだえ苦しめ」
苦しい息の中でも、勝ちを誇った笑いを見せる。
「それがどうした?」
びくともしないレオンハルト。
「まさか、蜂女の毒が効かないだと、そ、そんな馬鹿な……」
力尽き倒れる。
「レオン、大丈夫」
駆け寄ってレオンハルトの腕を見る。本当に何ともなく、刺された傷さえ、もう消えている。
「流石です、レオンの旦那」
アカゴブレンジャーとゴゴブレンジャーも駆け寄ってきた。
「先に進もう、仲間がやってきたら厄介だ」
全くその通りなので、先に進むことにした。
正直、毒のフルーレで刺されたのにも関わらず、何とも無いことに一番驚いているのは当の本人。
テオに改造された体の凄まじさを改めて知る。
地下の施設を奥に向かって進んでいくと、メイドや使用人たちが何体も転がっていた。中には蜂やカマキリの怪人に変身した状態で倒れている人もいる。
怪人以外のメイドや使用人たちの握り締めたままのブロードソードは折れ、バスターソードは使い物にならなくなるほど刃毀れしていた。
アオゴブレンジャーがブロードソードとバスターソードを調べて回る。
「これは余程固いものを斬ろうとしたんですね。一体、何を斬ろうとしたのか……」
怪人も怪人以外のメイドや使用人たちの死因は外の見張りたちと同じ、すなわち不審死した貴族と同じ。
パッと見、蜂メイドの使っていた毒のフルーレの傷口と似てはいるがよく見れば別物。
使用人とメイドたちは、もっと太い物で刺されている。
もう1人の侵入者は確実にこの施設に来ている、間違いなく。
「!」
最初に気配に気が付てたのはレオンハルト、続てゴゴブレンジャー。
気配のした天井を見る、釣られてディアナも天井を見た。
そこには執事のオットマーが張り付いているではないか。
ぬめっととた印象が本当にぬめり出し、両目が左右に移動、口が頬まで裂け、天井に張り付いている両手には水掻きができ、皮膚が黒と緑色のまだら模様に。
天井から飛び降りてきたオットマー、その姿は蛙の怪人。
ケロロロッと喉が鳴る。
「これは、どう見ても毒蛙だな」
体色そのものが毒蛙ですよと語っていので、毒に耐性のあるレオンハルトが前に出た。
割とつぶらな瞳に、メイド姿のレオンハルトが映し出される。
ケロロ喉が鳴り、突進してくる毒蛙執事オットマー。
避けると同時、カウンターで腹に膝蹴りを打ち込む。ボヨンとした感触が足に伝わる。
吹っ飛ばされたオットマー、腹を見せてひっくり返ったのも一時、すぐに起き上がり、四つん這いらなって跳ねながら向かってくる。
ピョンピョン跳ねながらやってくるオットマーは不気味な上、速い。
床、壁、天井を跳ね回る、そのスピード、ディアナとゴゴブレンジャーの視覚では捉えきれず。
だがレオンハルトの視覚は確実に捉え、しっかりと見えていた。もう一度、カウンターを打ち込もうと身構える。
唐突にレオンハルトの脇を何者かが走り抜けていく。
何者かはオットマーに体当たり、もつれ合い、床の上を転がる。
ゲコッ、オットマーは足、もしくは後ろ足で何者を蹴っ飛ばし、強引に引きはがす。
ダメージは軽度、何者かは起き上がる。
「グンタ―さん」
何者かに見覚えのあったディアナは、その名前を口にした。
「お嬢さんたちは下がってな」
唐突な乱入者グンタ―は、レオンハルトたちに有無を言わせる間も与えずオットマーに飛び掛かる。
「オラオラオラオラッ、この貴族の犬、いや蛙がっ!」
何発も何発も殴り付ける。
これが普通の人間ならダメージを与えることが出来だろう。しかし、相手は蛙の改造人間、元々強化されているに加え、ボヨボヨした体がダメージを半減させてしまう。
ヒョイとジャンプして、グンタ―を蹴っ飛ばす。
それでも倒れないグンタ―、切れた口の端の血を袖で拭うと、
「テメーらのような、人間を怪物に改造する奴を野放しにしてたら、お天道様を拝めねえんだよ」
再び掛かって行き、オットマーを殴り付ける。
グンタ―は知っている改造人間のことを、いくら町から町へ渡り歩く行商人でも、そこまでの情報は掴めないはず。
殴るのを止めないグンタ―、ぷくっとオットマーの頬が膨らむ。
「危ない!」
レオンハルトは警告するも間に合わず、グンタ―に毒液が吐きかけられた、それもとてつもなく強化された毒液を。
全身に毒液を浴び、煙が吹きあがる。“普通”の人間なら確実に死亡しているだろう。
悲壮な顔立ちのレオンハルトとディアナ、ゴゴブレンジャー。
ケロケロケロロロロッ勝ちを誇るオットマー。
プスッ何か赤い物が伸びてきて、オットマーの首筋に突き刺さる。
「!」
何が起こったのか理解する前に、そっくり返り倒れ、動かなくなる。オットマーの首筋に出来た傷跡は、外の見張りや蜂メイドと使用人、不審死した貴族と同じもの。
全身赤い外骨格に包まれ、お尻から伸びる尻尾の先には鋭い針。それが変身したグンタ―の姿。
頑丈な外骨格がブロードソードをへし折り、バスターソードをボロボロに刃毀れさせ、オットマーの吐いた毒からも彼を守った。
「蠍……」
思わず呟いたディアナ。確かに両手が鋏ではないことを除けば、赤い外骨格、毒針の付いた尻尾、蠍を連想させる姿。
「グンタ―さん、あなたは改造人間だったんですね」
「ああ、そうだよ、見ての通り、蠍の改造人間だ」
レオンハルトに言われ、あっさりと認める。
「正し、ここを弄られる前に逃げ出すことが出来たけどな」
指先で頭を小突く。
つまり脳改造の前に逃げ出せたということ、初代仮面のヒーローと同じように、彼はバッタの改造人間だけど。
「あんさんは、何でここへ来たんですかい」
尋ねるアカゴブレンジャー。
「復讐だよ」
蠍顔ながら、みんなに怒りの表情を感じさせた。
「オレの村は丸ごとクソ貴族に拉致され、改造人間にされちまった。オレだけが、オレ1人だけが頭を弄られる前に逃げ出せた。おとうもおっ母も妻も娘も、他のみんなは怪物にされちまっんた!」
言葉の中に込められていたのは、怒りと悲痛。
「オレは行商人になって各所を巡り調べ上げ、ようやくオレたちを拉致したクソ貴族を指示していたのがヨナス・ティッセンだと突き止めた」
だからこそ、ここへ来た。
「ところでお嬢さんたちは、何故、ここへ」
先程の怒りと悲痛はなく、むしろ心配している感情が見受けられる。
「僕たちもヨナスのやっていることほ阻止すため、ここに潜入した」
正直に話すものの、自分も改造人間であることは伏せておく。
「そうかい、ここまで来たってことは、お嬢さんたちも中々出来るんだな」
同機は何であれ、レオンハルトたちもグンタ―も、改造人間を作っている連中をやっつけるのが目的。
「一つ聞きたいことがある」
再びアカゴブレンジャーが質問。
「あんさんが殺した貴族の全てが、改造人間製作に関わってたいたんですかい?」
ゴゴブレンジャーが調べていた貴族の不審死、手口からして犯人はグンターで確実。
殺され貴族は腹黒い奴ばかりではあったが、果たして全員、改造人間製作に関わっていたのだろうか。
「貴族なんぞ、どいつもこいつも同類だ!」
そこには貴族に対する嫌悪感があった。おそらく、その感情は改造される前から持っていたもの。
「目的が同じなら、お嬢さんたちも一緒に来るといい、だがヨナスはオレの得物だ」
その事ははっきりと意思表示。
レオンハルトとディアナ、ゴゴブレンジャーに加え、蠍男グンタ―と一緒に地下施設を探索する。
毒蛙執事オットマー以来、敵との接触もなく、周囲はシーンとして静か。
でもここは敵陣なのでグンタ―は蠍男の姿のまま、服も失ってしまっので変身を解くと全裸になるし。
昨夜の火事、蜂メイドと使用人を殺したのもグンタ―。
やり方が乱暴な所に、貴族に対する怒りと憎しみが感じられる。
レオンハルトが貴族の生まれであることは黙っていた方が良し。
「そうか、お前たちが噂に聞いた正義のゴブリンたちか、どおりでここまで来れたわけだ」
ゴゴブレンジャーの噂はグンタ―の耳にも届いていた。
噂は広まっている。それを知って嬉しくて、ついゴゴブレンジャーは照れてしまう。
不意に廊下の先に人影が現れた、それは見間違えることなど無くヨナス・ティッセン。
「ヨナス!」
ついに復讐の標的を見つけた蠍男グンタ―は激昂、一目散に向かう。
「ヒッ」
向かってくる蠍男グンタ―に驚き、ヨナスは逃げ出す。
逃げるヨナス、追いかける蠍男グンタ―。
レオンハルトたちも、2人を追う。
逃げたヨナスは突き当りの部屋に飛び込む。その部屋は様々な医療器具や道具が並び、中央には手術台、一目で何を行うための部屋か解る。
「エッボ、何をしているの、ここにまで敵が入り込んでいるじゃない!」
部屋の中には車いすに乗った鼻の高い初老の男エッボと、車いすを押すゾルタン・ネーターがいた。
「このままじゃ、わたくしが大変なことになってしまう。さっさと奴らを排除しな―」
突き当り部屋、手術室にレオンハルトたちが飛び込んだ時、足元にヨナスの首が転がってきた。
「キャァ」
「ひやぁ」
女の子のディアナとピンクゴブレンジャーが悲鳴を上げ、反射的に飛びのく。
倒れるヨナスの胴体、片手で首をもぎ取ったゾルタンは手に着いた血を掃い飛ばす。
「エッボさん」
どこか懐かしさの含まれた言葉でレオンハルト。
「エッボ!」
怒りを爆発させるグンタ―。
レオンハルト、グンタ―はエッボのことを知っていたが、対する感情は全く別の物。
エッボ・ホフマン、レオンハルトの祖父テオ・ヴァルトシュタインの助手をしていた男。
幼いころレオンハルトも出会ったことがあり、エッボに可愛がられ、よく飴玉を貰った覚えがある。
事故で下半身の機能を失い、車いす生活を送るようになってから、姿を消し、テオもかなり心配していた。
今まで解けなかった疑問に、一つの答えが見えた。テオの助手をしていたエッボなら、改造手術が可能。
何故、この事に気が付かなったのか? それはエッボがそんなことをするとは思わなかったから。
だがこうして、目の前に答えが出てきてしまった。顔付きもレオンハルトの知っているものとは違う、何か歪んだ感じ。
爆発させた怒りに身を任せ、蠍男グンタ―はエッボに襲い掛かった。
尻尾を振るい、蠍の毒針を刺そうとする。
後ろに控えていたゾルタンが飛び出して掴んで止め、反動をつけ投げ飛ばす。
床に叩き付けられるものの、固い外骨格のおかげでノーダメージ。
「この野郎」
起き上がり、エッボとゾルタンを睨み付ける。戦闘意思は、少したりとも萎えておらず。
レオンハルトとディアナ、ゴゴブレンジャーが加勢しようとしたところ、
「こいつはオレの戦いだ、手を出さないでくれ」
止められてしまう。
「俺のことを覚えているかエッボ・ホフマン? オレは一日たりとも忘れたことは無いぜ、オレや大切な人たちを改造したテメーのことは!」
視覚出来るはずの無い怒りが、まるで目に見えるかもと思わせるほどに感じさせた。
これで完全に確定した、改造手術を行っていたのはエッボ・ホフマンだと。
ゾルタンが遠吠え共に変身、金色の体毛を持つ狼のような姿へ。
「狼の改造人間?」
変身したゾルタンの姿を見たディアナ。
「……」
ジィーと見ているアカゴブレンジャー。
ゾルタンに飛び掛かり、何度も毒針の尻尾で攻撃するが、全然当たらない。
「くそったれ」
攻撃の回数と速度を上げ攻撃を繰り返すも、全て外されてしまう。
完全に見切られている、実力差は明らか。
今度はこっちだとばかり、ゾルタンが爪を振り下ろす。
硬い外骨格で防御。ところがゾルタンの爪は、いとも簡単に切り裂く、ブロードソードをへし折り、バスターソードを刃毀れさせた外骨格を。
鮮血が飛び散るが、改造された体は頑丈で倒れず。
いくら手を出さないでくれと言われても知っている人が目の前で殺されるところなど見たくはない、レオンハルトとディアナは目配せをしてお互いの意思を確かめ合い、助太刀に入ろうとする。
だがゾルタンの動きの方が一歩早かった。
遠吠え。と言ってもただの遠吠えではない、超音波砲となりグンタ―を直撃、昏倒寸前に追いやる。
倒れかかったグンタ―の肩を掴んで止め噛み付く、硬い外骨格を易々とかみ砕き、肉を食いちぎった。
「ちくしょう」
悔しそうに呟き倒れ、事切れる。
「あれは狼じゃねぇ、魔獣ヴォルトフゴルだ」
アカゴブレンジャーが見抜く。
魔獣ヴォルトフゴル、狼型の魔物で超音波で得物を失神させて捕食する。
身体能力は大型の狼を遥かに越え、牙と顎の力は簡単に岩を砕き、爪は岩を切り裂く。
知力もかなり高い。
グンタ―の死はショックな出来事ではあったが、今、目の前にいるエッボを見逃すわけにはいかない、彼こそ改造人間を作っているのだから。
変身を解いたゾルタンは何事も無かったかのように、エッボの車いすを押し去ろうとする。
「エッボさん」
後を追うとするレオンハルト、続こうとするディアナとゴゴブレンジャー。
「シアトハ・テッシア・メタナ・ロマ・カイ・フリジシ・ハ・ケキニユセ《リカベヌ》」
エッボが呪文を唱えると氷の壁が生まれ、レオンハルトたちの行く手を塞ぐ。
出口へ向かうエッボとゾルタン。
一斉にゴゴブレンジャーがフレイルを叩き付け破壊を試みるが、強固な氷の壁はびくともせず。
ディアナの魔法も同じ氷系なので、使うだけ無駄。
「はあっ」
拳を握り締め、気合いと共にレオンハルトは一撃を打ち込む。
砕け散った氷の壁。ところが次の瞬間、みるみる間に氷の壁は再生してしまう。
「なっ」
驚いたのも一瞬のこと、再びパンチを打ち込み氷の壁を破壊。先ほどと同じく再生。
だが諦めない、氷の壁を破壊し、再生する度、また破壊。
やっとのことで氷の壁の再生力を上回り、完全破壊を成し遂げた。
しかし時すでに遅く、エッボとゾルタンの姿はどこにも見えなかった……。
蜘蛛の次は蝙蝠、次に来るべき蠍は、こんな形で出ました。
ゾルタンのモデルは勿論、あの人、眼帯はしてないけどね。




