後日譚
後日譚「三人組×非日常=無限大幻想曲」
その後のあやかし学園はちょっとしたお祭り騒ぎだった。
女子寮が全焼して建物が瓦礫に変わったのだ。気づかない生徒がいるはずもない。斑谷の最低のお礼の後くらいからあれよあれよという間に生徒が野次馬と化していった。
しかしその群れも風紀委員の迅速な対応により解散させられ、それと同時に消防隊と警察が学園を埋め尽くすことになる。
消防隊は多少くすぶっている火の消火と、万が一を考えて瓦礫の撤去作業をしながら人命の捜索を行った。風紀委員により点呼は取られているため、逃げ遅れた生徒・教師はいない。ただ一人を除いて。
結果見つかったのは瓦礫につぶれた原型のとどまっていない焼死体だけであったという。
警察は生徒や教師に聴事情聴取をとり、今回の事件の経緯を探ったが、瓦礫に埋もれ、また潰れてしまっているため決定的なことは把握できず、学内にも目立った形跡は無いため、現段階では「九重金による能力の悪用」という方向で捜査が進んでいる。現在も捜査は行われているが、進捗は芳しくない。
住む場所がなくなった女子生徒は一時的に学内の決められた教室で生活している。借りとはいえ不満がたまるのではと思われたが、臨海学校のようで楽しいと思ったより好評であったので、教師陣はホッと胸を撫で下ろすのであった。
女子寮の工事は1ヵ月で完了する予定である。あれほどの規模の建物で早すぎるように思えるが、あやかし学園は妖怪の能力の関係上物が壊れることが多々ある。なので学校が正式に契約している専門の土木業者がいる。
その土木業者は従業員全員妖怪の上、パワー系の能力保有者ばかりそろっているので、資材の運搬や加工に必要な重機がほぼ必要ないので、工事も早く、金額も格安なので、このくらいの短期間で施工できてしまうのだ。
いろいろ慌ただしいことになったあやかし学園だが、全く変わらないところもある。
「平和だなー」
「平和だねー」
「平和、だ」
そう、男子生徒である。
特に事件に関係があるわけでもなく、学校が燃えたわけでもないので、彼らは普通に寮で生活し、普通に学校で勉強し、自習や部活動に励んでいる。
唯一関係があったのは女子寮に潜入した三バカくらいのものだが
「いやーそれにしても、俺たちの罪が消えてよかったなー」
「あぁ、事情聴取の時は能力を使った羽婆先輩がささやき女将してくれたから何の問題もなかったからね」
「恵吾、怪我、大したこと、なかったし」
「へ、あの程度の怪我で長期入院なんてしてたまるかよ。まぁ美人のナースさんを眺めるのは悪くなかったけどな。げへへ」
「いや、高所から頭が落下を数回。本体に至っては月見里さんにボコボコにされ、数か所にやけど、挙句全裸で瓦礫の下敷きになったのにたった一晩で退院したことをもっと真剣に考えた方がいいと思うよ?」
「まぁ治ったんだからいいじゃねぇか。……しっかしよぉ」
「なんだい?」
「なーんか忘れているような気がしてならねぇんだよなぁ」
「何かを」
「忘れ、てる?」
「あぁ。俺たちのことで、とても重大で、とても大事なことのような気がしてならねぇ。なんかよ、心が叫んでいるんだ。このままでいいのかって」
「そんなことあったかな?」
「う~ん……」
三バカはテスト問題の難問に取り組むかのように眉をひそめてうなり声を上げる。
さて、みなさんは彼らが忘れていること。思い出せるでしょうか? 思い出せたらあなたも立派な変態です。では回答に移りましょう。
三バカが同時に頭の上に電球を光らせる。そしてお互いを指さして、アンサーチェック。
「「「覗きだ」」」
はい。全く懲りていません。
「そうだよ! 元はといえば女子のあられもない姿を拝もうとしてたんじゃねぇか!」
「なんで、そんな大事なこと、忘れてた!」
「いや、声をそろえて言った僕が言えたことじゃないけど、君たち反省ってのは無いのかい?」
「アホタレ! いいか。男の脳は」
「「下半身」」
「その通り。だから脳に従って行動したことを反省するってことは……二度と勃起しなくなるってことだぜ!?」
「それは、とんでもない」
「言ってることはめちゃくちゃで筋も全く通ってないけど、図として想像できてしまうのが悲しい……」
「よぉーし! そうと決まれば覗きだ覗き! 今女子は学校で暮らしているんだったよな? 風呂はどこだ?」
「たしか、体育館のシャワー室、一時的に使うて、言っていた、ような」
「体育館のシャワー室! あそこなら一度覗きに行ったことがあるぜ!」
「盛り上がっているとこ悪いが僕はパスだよ。もうあんな目にあうのはこりごりなんでね」
「前に覗いたときはガチムチの野郎ばっかりで思わず吐きそうになったぜ」
「おいどこから覗いた? 女子に興味なぞないが、下見と練習がてら付き合ってやろうじゃないか」
「敦司、最低。そして、最高」
もう何度目なんて数えるのも馬鹿らしくなるほどの作戦会議。
問題だらけの彼らの行動だが、どうか生暖かい目で見てほしい。
人生一度きりの青春時代。ハッチャけた方が楽しいじゃないか。面白い方がいいじゃないか。したいことをするのがいいじゃないか。
なにより……気の合う仲間とこんなに笑っていられる。
それこそが、何よりの宝物であり、財産というものであろう。
この人生において、何よりも代えがたいものは、お金でもなく、経歴でもなく、知識でもない。
愛や友情こそが、大切だと、私は思うね。
・ ・ ・
(ザク、ザク、ザク)
おや、誰かな?
「失礼します。羽婆です」
やぁやぁ羽婆くんじゃないか。よく来たね
「校長こそ、今日も一人語りに精が出ますね」
ははは、これが生き甲斐なんだ。勘弁しておくれ。
「いえ、決して貶してるわけじゃないですよ? それより、例の件、ありがとうございました」
なんのなんの。けどいいのかい? 警察に任せればあれだけの証拠がそろっているんだ。あっという間に解決してくれると思うがね。
「確かにその通りです。しかしあれは僕の手でケリを着けたいのです」
ふ~む、一応私も校長だ。生徒が危ない橋を渡るのはしがみついてでも止めたいのが仕事であり、何より心情なんだがねぇ
「お気遣い、そしてご心配ありがとうございます。決してこの学園にこれ以上迷惑はかけません。今回はその謝罪も兼ねているのです」
よしなさい頭を下げるのは。生徒が頭を下げるのは校則を違反したときだけだぞ。
「その寛大なお心に感謝を。本当に校長には足を向けて寝られませんよ」
では君はまず自分の部屋のベッドの枕の位置を反対にしなければだね。はははは
「これは失念しておりました。今晩にでも変えさせてもらいます」
それと、今回はずいぶん回りくどいことをしていたじゃないか。君が動いていればこんな事態にはならなかっただろうに。
「そうですね。でもそれではだめなんですよ。僕の学園生活もそろそろ終わります。だから受け継いでいかないといけないんですよ……彼との約束を果たすために」
ふふふ……では、私はゆっくりと眺めさせてもら……おや?
「どうかしましたか?」
あっはっはっはっは! 残念ながら、君とのおしゃべりはここまでみたいだ。見てごらん。
「ん……、はははは! これは確かに僕の出番ですね。では、また改めてお伺いします」
あぁ、私はここで君が持ってきてくれたものでも食べているよ。おいしそうなおはぎだ。
「お口に合えばい良いのですが。では、僕はこれで」
モグモグ……そして羽婆は墓石に一礼して去っていった、と。いやこれホント美味いな。今度店教えてもらおう。って言ったって私ここから動けないんだけどね! あっはっはっはっは!
・ ・ ・
「だぁーーーーー! なんであそこで倒れちゃうかなぁ! しっかりしてくれよドM土台!」
「男に踏まれても、何にもうれしくないし。それに二人が、一度乗るのが、いけない」
「無駄口は後にしてとっとと走れ二人とも! 後ろの女子に追いつかれるぞ! ヒューヒュー」
「「お前が一番頑張れよ!?」」
「まちなさーーーーーーい!!」
「覗きはギルティ! イコール死刑よ!」
「けしからん! わしのナイスバデーを見たからには生かして返さんぞ!」
「もしもし津田先生! 覗き魔三人逃走中です! 捕まえてください!」
「ぎえぇぇぇぇぇ!? お月見の野郎よりにもよって津田のババァ呼びやがった!」
「もしかしてあのグラウンドに見えるバカでかい土煙がそうなのか!?」
「風紀委員! 総力を挙げて変態を確保する!」
『イエス、マム!』
「あわわわ! 風紀委員全員とか本気出しすぎでしょう!?」
「あーはっはっはー! お困りの用だね後輩諸君!」
「羽婆センパァァァイ! ヘルプミィィィィィィィィ!!」
「助か、た!」
「来てくれたってことは、何かいい策が!?」
「う~ん、合流したけど、こうやって一緒に走ってると僕も同罪みたいだね! でも大丈夫! 四人寄れば文殊の知恵ってね! さぁ一緒に助かる方法を考えようじゃないか!」
「「「ノープランかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」
学内を走る三バカと先輩一人。それ追い詰める女子生徒。学内は祭りのようなにぎやかさだが、今回はこのあたりでお開きとしよう。
若人たちに青春活劇、私の語りだったが、楽しんでもらえただろうか。
彼らならすぐにでも次の物語が始まるだろうし、私もそれに合わせて語るだろうが。長い劇ほどトイレ休憩は必要だ。
ではでは皆々様。次もまた、この物語にお付き合いいただければ幸いにございます。
おっと、最後に一言だけ言って、締めとさせていただこう。
皆さま、覗きは犯罪です。くれぐれも真似などせぬように。それではまたお会いいたしましょう。さらばっ!
了