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すっけべ三人組  作者: 一九山 水京
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第三章 一幕

第三章 一幕  「浴場×欲情=遺憾千万夜想曲(ノクターン)


 女子寮。

 それはあやかし学園を出てすぐ右の道を進んだところに存在する。ちなみに反対の道を行くと男子寮がある。

 そもそもこの学校は全寮制ですべての生徒はもちろん、教師もその寮に住む決まりになっている。なので建物の規模も半端ではない。知らない人が見れば大企業のオフィスビルかと勘違いしてもおかしくない大きさである。

 さて、結局何が言いたいかというと、すべての女生徒が住んでいる寮。その浴場設備も半端ではないということである。

「さぁ準備はいいか、お前ら」

「問題ない」

「いつでも、おーけー」

 女子寮は周りが高い策に囲まれており、のぼったとしても上のほうには防犯用に電気が通っているので、触れた瞬間変態の丸焼きウェルダンが出来上がるだけだ。

 ではいかようにして侵入するか? それは今の三人の姿が物語っている。

「よし、ゴー」

 帽子を目深にかぶり、首にマフラーを巻いた清掃員の作業服を着た男が大きなダンボールの乗った台車を押しながら女子寮の玄関をくぐった。

「ちわーっす」

「ちょっとお待ちになって」

「……なんでしょうか?」

 男は玄関の受付にいた目じりが上に上がりきつい目つきをした寮の職員に呼び止められた。

「な、なんでしょうか?」

「見たところ清掃業者の方かと思いますが、今日は?」

「へ、へぇ。リネン室の清掃に来ました」

「そうですか。では、その大きなダンボールの中身を改めさせてもらいますよ。一応規則ですので」

「え、はぁ、構いませんが……」

「では……」

 寮の職員はダンボールの蓋を開けて中身を見る。そこには

「……空ですわね」

「えぇ。毛布などを回収するための箱ですので、当然空でさぁ」

「あら? いつもは専用の箱で回収していたような気がしたのですが……」

「ギクッ! そ、それは……えっと、そ、そう! 新入りのバカがうっかり壊してしまいまして! 今回はこれしかなく!」

「そうですか……分かりました。どうぞお通りください」

「へぇへぇ! 失礼いたしやすー!」

 通行許可を貰うと駆け足で女子寮の奥に走っていった。


             ・ ・ ・


「いやーあせったわー」

 清掃員の男。その正体である斑谷は小声で自身の心内を吐露した。

『やはり中身を改められたね。しかしまぁ君はよく口が回るな』

『間、一髪』

「にしてもいい作戦だな。俺が清掃員に化けて、お前らをダンボールに詰めて堂々と正面突破」

『しかも僕は二千翔の能力でダンボールと同化しているから手を入れない限り空にしか見えない』

『おい、大活躍』

 ちなみにダンボールに入っている二人と運んでいる斑谷が会話できているのはお互いの耳に小型の通信機を仕込んでいるからだ。

 これは羽婆先輩から「僕が盗聴器を細工して作った通信機を貸してあげよう。きっと役に立つだろう」と言って借りたものだ。なぜそもそも盗聴器を持っているかは賢い君なら分かるだろう。不純。

 ついでに言うと清掃員の服装も羽婆先輩からの借り物だ。

「あとはこのまま女子風呂に潜入して、入浴時間まで待機するだけだな」

『この寮の女子風呂は無駄に豪華な露天風呂があるからね。風呂場の端にある観賞用の植木にでも隠れたら十分だろう』

『おいは、さらに同化、するから、無敵』

「しかしまぁ……なんだ、でへへ」

『おい、なんだその気色の悪い笑いは』

 先ほどから斑谷の目は冴え渡っている。ここは女子寮の廊下。当然ながら女子生徒が廊下を歩いているのですれ違うこともある。だが格好がいつもの学校とは少々違う。

 男子の目がないので、制服のボタンを余計に開けていたり、制服を脱いで肌着だけになっている生徒が横行しているのだ。これを見逃す変態ではない。目が充血している。

「ひょほほほ! なんて大胆なんだろうねぇ! 眼福眼福」

『くそ、替われ!』

『おいおい、あまりガン見するなよ。疑われるぞ』

「う~んマンダム……おっと、目的の楽園の入口が見えたぜ」

 斑谷の視線の先には大きく開いた扉のない、赤色の暖簾がかかった入口が見えた。間違いなく女子風呂である。

『よし、では周りを確認してから突入するんだ』

『慎重に、な』

「任しとけ。ここまできてそんなヘマは――」

「ねぇお兄さん?」

「ひゃへっひぃぃぃ!?」

 斑谷は突然後ろから呼ばれてあられもない声を上げてしまう。何かと思い振り向くと

「(げぇ! お月見じゃねぇか!)」

 そこには昼間にプラスチック(の塊)バットに化けてしこたま殴った獲物の張本人、月見里花蓮がそこにいた。しかも声をかけてきたのである。

「え~、あぁ、げふん! な、なんですか?」

 斑谷は声でばれないように必死で裏声を使う。幸い姿や声でばれている様子はない。

「えっと、清掃員の人、ですよね? 今からどこに行くつもりだったのですか?」

「ギクッ! いや、私は、リネン室に向かう途中でして!」

「リネン室? リネン室は少し手前にありますよ? 気づきませんでした?」

「あ? あ、あー! あの部屋ですか! いやはやお恥ずかしい!」

 リネン室がさきほど通った通路にあることを斑谷は当然知っている。羽婆先輩が見せてくれた女子寮の見取り図を見て完璧に暗記したからだ。なんで持っているの? と質問したほうが負けである。

「じゃあ案内しますね。それと、リネン室での作業が終わったら、ちょっと見てもらいたいところがあるんですが、いいですか?」

「は? え、えぇ、分かりました」

 斑谷清掃員は花蓮のあとに付いて行き、女子風呂に背を向ける。

「……聞こえてたか?」

『聞こえてたよ! 何やってるのさ!』

『この、マヌケ』

「うるせーな! 変に断っても怪しまれるだろ!」

 通信機越しに喧嘩をしているうちにリネン室に着いてしまった。

「じゃあ前で待ってますので」

 斑谷がリネン室の中に入ったあと、花蓮は扉を閉めた。

 ダンボールの中から二人が出てきて新鮮な空気を吸い込む。斑谷も暑いので帽子とマフラーをとる。

「で、どうしようか?」

「まったく……今扉の前には月見里さんが張っている。どんな用事を押し付けられるか分からないけど、またダンボールごと移動するのは危険だ。中身を気にされたら厄介だ」

「じゃあ、ここに、置いてく?」

「それが最善だね。女子の入浴時間が十九時開始。そして今は十八時半。隠れるポイントを見つける時間も考慮すると、君がここに一八時四五分には帰ってきて、また僕ら入りのダンボールを運び、今度こそ女子風呂に潜入する」

「タイムリミットは十五分、か……」

「いいか。君は月見里さんの用事を終えて十五分以内にここに戻ってきて、作戦を再開する。もし君が十五分以内に帰ってこなかったら僕と二千翔で潜入を試みる。君を置いていくからな」

「了解。お前らも見つかるなよ」

「ご武運、を」

 斑谷は再び帽子を目深にかぶり、部屋を出る。よくみると花蓮は制服姿だった。寮でもキチンと着ているあたりさすが優等生といったところだ。

「あら? 早かったですね?」

「いや、こっちの用事は早く済みますので、さきにそちらを見てしまおうかと」

「あぁ、わざわざありがとうございます。こっちです」

 月見里についていきしばらく歩くと、トイレに案内された。女子寮なので入口が一つしかない。つまり男子専用のトイレがないのだ。

「すみません。入りにくいとは思いますが……」

「いえいえ願ったり叶ったりゲフンゲフン! お構いなく」

 斑谷は合法で(女子寮に潜入してる時点で違法だが)女子トイレに入り、少しどぎまぎしている。だが頭のなかでは「ぜんぜん臭くない。むしろいいスメル」などと変態思考回路が平常運転だ。

「ここです。ここのトイレの水洗の調子が悪くて……何とかなりますか?」

「(全くわからんが)見てみましょう」

 斑谷はさも業者かのような態度でトイレを覗き込む。

「(ふむ……この便座に女子のお尻が……1ペロくらいしておいたほうがいいかな……)」

 声に出していれば間違いなく女子の手でこの世から消されるような異常な思考。おまわりさんこいつです。

「あれ……あなた、首なしですか?」

「へ? あ!」

 斑谷はやらかした。先ほどのリネン室で暑かったため一旦マフラーをはずして、出るときに巻き忘れていたのだ。

 今斑対は便器の方に体を向けており、花蓮には背を向けているのでばれてはいない。しかしなんの拍子にばれるか分からないので、話題を振って必死にごまかす。

「あ、え、えぇそうです。首なしは、珍しいですか?」

「いえ、そういうわけじゃなくて……一人首なしで知り合いがいまして、それで」

 斑谷は少し安堵した。口ぶりからしてばれてはいない。よもやいま言った知り合いこそが目の前の人物だとは思いもしないだろう。さらにばれないように斑谷はこの場の脱出を考えながら別の話題をふってみる。

「へー。その人はどんな人物なんですか?」

「ゴミです」

「は?」

「惑うこと無きゴミです。分別をするなら変態に該当するゴミです。まぁ分別するまでも無く燃えるゴミにぶち込みますが」

「はぁ……(なんだとぉ~!?)」

「よくもまぁあそこまで堕落できたものですよ。きっと脳みそが下半身についてるのでしょうね」

「へぇ……(それについては同じ意見だが、こいつに言われると腹立つ!)」

「ちょっと笑えるのが女子の間で出来たランキングで、[美人局に一番ひっかっかりやすい男子]と[美人局でも引っ掛けたくない男子]で二冠を勝ち取ったんですよ! これが可笑しくって可笑しくって! あ、すいません! 一人で盛り上がっちゃって……」

「いえいえ……(好き放題言いやがって! ……てか俺って女子の間でそんな評価なの? もう少しくらいマシかと思ってたんだけど……泣いていい?)」

 バットでサンドバックくらいでは抜けきれてなかったのか、日ごろの鬱憤をこれでもかというくらい吐き出す。聞いている斑谷は、途中まで怒り心頭だったが、あまりに酷な現実に最後のほうで心が折れてしまいうつむくが、目の前の便器は慰めてくれない。

 悲しみを振り払うように、どうやってこの場を切り抜けるかを考えていると

「あっ!!」

「うおぉ!?」

 花蓮がいきなり大きな声を上げる。驚いた斑谷は自分の頭を首から落としてしまう。

「ごめん! 今ちょっと直してもらってるところだから! 別のトイレ行ってくれない!?」

「ん、わかったー。じゃーねー」

 どうやらお花を摘みに来た女子が入ってきて、それを止めようとして大きな声をだしたようだ。

しかしそのせいで大変なことが起きてしまった。

「すみません。うっかり忘れて……あぁ!」

「がばがぼごぼごぼごぼ!」

 斑谷の頭は便器を覗いていたこともあって、便器の中に頭を落としてしまっていたのだ!

 頭を便器に落とす。なんて人生で死んでも出会いたくない出来事ベスト3に余裕で入る大惨事に見舞われた斑谷は衛生的な嫌悪感と水に浸かったことによる呼吸困難のせいでパニックに陥ってしまっていた。

「は、早く助けないと! きゃ!」

「ごぼげぼごぼぼ!」

 すぐにでも頭を引っ張り出したい花蓮だが、パニックになってジタバタと暴れている斑谷本体が邪魔で便器にたどり着けない。

「ちょ、落ち着いてください! すぐに助けますので!」

「ぼぼがぼぼべばばご!!」

 花蓮の声は全く聞こえず一向に落ち着くことのない斑谷本体。

 それでもなんとか助けようと近づいた花蓮の体に、斑谷本体の手が当たって。

「え、ちょ、きゃああああああああああ!!」

 とにかく何か掴もうとしたのだろう、斑谷本体は偶然にも花蓮の腰をつかんだ。

 掴んだだけならよかったのだが、お互い不幸なことに斑谷本体がバランスを崩し、花蓮のはいていたスカートをずりおろしてしまった。綺麗にパンツごと。

 花蓮の下半身はモザイク必須の一糸まとわぬ姿になってしまった。ここはトイレの個室なのでおかしくはないように思えるやもだが、そこに男がいてその男に脱がされたというのが問題である。

「がぼがぼが……ぶは!」

 この大惨事を知らない斑谷頭は長い格闘の末何とか顔を水中から出すことができた。

 視界が効き、本体の位置も分かったので急いで自分の頭を便器から取り出し本体の首に装着した。友情合体!

「あっばぁぁぁぁ! 死ぬかと思ったー!」

 九死に一生を得た斑谷は自分の顔がばれたのではないかと思い花蓮を見る。

 そこにはしゃがみこみ、顔をうつむかせて全く動かない花蓮の姿が。

「な、なんかわからんがラッキー! このままとんずらこくぜ!」

 自分が彼女の下半身を丸裸にしたことにも気づかす女子トイレを後にする。

「いやー参ったぜー。まさか便器に頭を落とすなんてなぁ」

 ぺっぺと口に入った便器の水を吐きながら手に持っているもので顔を拭き、それを頭にかぶった。

 すると向かいから女生徒がひとり歩いてきた。そして斑谷を見て驚愕を露わにする。

「ちょ、ちょっと……あなた?」

「はい? なんですか?」

 斑谷は呼び止められたので返事をする。

「そ、それは、一体なんですの?」

「は? それって……」

 女生徒が自分の頭を指差しているのでかぶっている帽子を取った。


 しかしそれは帽子ではなく女物の下着。紛れもなくパンティーだった。


「…………」

「…………」

「…………ア、ハット?」

「そ、それが帽子だというのですか! このへんたーーーーーーーーい!!」

 斑谷は顔面蒼白で反対方向に全力でダッシュした。

 女生徒の変態コールはそのまま警報となり、斑谷は女子寮の指名手配犯となった。


                ・ ・ ・


 少し時間が遡り、斑谷がリネン室を出た直後の話。

「はぁ、うまくやってくれるといいんだけど」

「ヘマしたら、おいらたちだけで、潜入」

「そうなるけど、正直それは避けたいね。成功するビジョンが想像できない」

 二人がなるべく声を出さないように携帯をいじったり横になってあくびをかみしめたりして暇をつぶしていると

「……ねぇ、敦司」

「なんだい?」

「ここ、だれか、来ない?」

「…………ん?」

「だから、ここ、布団あるし、誰か、取りに来るんじゃ」

「…………ボクトシタコトガ」

 コンコン

「「フラグ回収早っ!!」」

 二人で同じツッコミをしている間に「失礼するのじゃ」という声とともに生徒が入ってきた。

「ん? なんじゃこの大きな箱は?」

 入ってきた生徒、見た目は子供、口調はババァ。でおなじみの砂蔵ゆなが箱を開けて確認する。丁寧に手もいれて中身を探るが

「ふむ、何も入っておらん」

 箱の中にホモとデブのコンビはいない。ではどこにいるかというと

「(危なかった……箱の中に隠れなくてよかったよ)」

「(間、一髪)」

 きれいに並べられ、たたまれている布団の隙間に隠れていた。二人も入ればばれそうな気もするが、たたまれた布団なので段違いになっているようにしか見えない。

「えーっと、わしの部屋のお布団はどれじゃったかな……」

「(こ、こっちにくるなー)」

「(こっち、こい)」

「(来ていいわけないだろう! 少しは自重しろロリコンデブ!)」

「あ、これじゃこれじゃ」

 ゆなは積みあげられた布団一式を持ち上げる。そこには変態二人の姿はない。

「(はぁ、どうやら違う布団だったようだね……)」

「(ちっ……)」

 華穂本が安堵して草壁が悔しがっていると、ゆなが一度持ち上げた布団を同じ場所に戻してあたりをきょろきょろ見回す。誰もおらず誰も入ってこないことを確信すると、ニコッと笑ってほかの布団を見て回る。

「今日はどれにしようかの~」

「「(どれにしよう?)」」

 まったく状況のわからない二人。口ぶりからして目的の布団は見つかったはずなのに、いったい何を探しているというのか。

「む! あそこのお布団、一段多く積まれておる! あれにするのじゃ!」

「(え? ちょっと待て! それって!)」

「(キ、ターーーーーーーーーーーー!!)」

「(いっぺん死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)」

 ホモとデブが声にならない言い争いをしていると、ゆなが目標の布団めがけて走り出し、布団の手前あたりでジャンプし、腹から布団に飛び込んだ!

「(ちょ、ま)ぐぇ!」

 何もわからない状態で急に衝撃がやってきたせいで華穂本はつぶれたカエルのような声を上げてしまった。

「ん? 今何か聞こえたような……」

「……」

「気のせいか。はぁ~気持ちいいのじゃ~。やはり洗い立てのお布団にダイブするのは極楽じゃのぉ~」

 華穂本もようやく理解できた。自分たちの上にのしかかられているようだが、不幸中の幸いか気づかれている様子はない。

「(ハラハラするなぁ……だがあとは彼女が満足して部屋を出るまで息をひそめて耐えるだけ……はっ!)」

 華穂本は現状の危機に気づいた。それは

「(んふー……んふー……)」

 一緒に隠れている草壁が幼女にのしかかられているというシチュエーションに興奮して今にも叫びだしそうになっているからだ。

「(ちょ! 頼むから盛らないでくれ! その荒い鼻息を止めろ! いっそ息の根ごと止めろ!)」

「(ぶふー……ぶっふー……)」

 華穂本が腹をつねろうが指で顔面を突き刺そうが草壁のあふれるパトスは止まらない。何とか鎮めようとしている間にも、布団の上ではゆなが洗い立て布団を満喫している。

「ん~。洗い立てはいつもの数倍肌触りがよいのぉ~。ひんやりしていて気持ちいいのぉ~」

 ゆなは蕩けきった顔で布団に顔をスリスリする。

 ちなみに今の状態は一番上にゆな。布団を挟んで草壁に華穂本の順で最後に布団。さながらハンバーガーのような状態になっている。布団というバンズにドMデブ肉とホモレタス。ゆなは蕩けた表情からトロトロに溶けたチーズが連想できる。ただ現在チーズのせいで肉が異常なほど蒸しあがり、レタスがだめになりそうだが。

「(ぶっひょ! ぶひぇへへへひひひ!)」

「(やめてくれぇ! 僕は男が好きだがデブ専ではないんだぁ!)」

 布団越しとはいえ幼女に頬擦りされ、余計に興奮がデッドヒートする。彼は頬擦りされているのをあますことなく肌で感じている。キモい。

 爆発寸前のドMデブ肉は、次のゆなの行動で臨界を超えてしまうことになる。

「すー…はー…すー…はー…。はぁ~、この洗剤の香りと年季の入ったお布団の香りがたまらんのじゃ~。すぅーはぁーすぅーはぁー」

 ブッパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

「(オオォォォォォォォォマァイガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!)」

 草壁の興奮は幼女ににおいを嗅がれる。言い換えれば自分の体臭が幼女の肺いっぱいに詰め込まれていくという疑似体験(←ここ重要。実際は嗅いでない)によって肉体はエクスタシーに導かれ、それに耐えきれず大量の鼻血をまき散らしてしまった。

「ふぅ~ん幸せぇ……ん? なんじゃこの赤い染みは?」

 ゆなはさっきまでなかったであろう赤い染みに気づき、ジュースかなにか汚れるものでも挟まっているのかと思い、おもむろに布団をめくった。それがいけなかった。


 そこには顔面を血まみれにして気色の悪いニヤケ面を晒す大きな豚が

「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ閻魔大王じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ふくよかな顔と赤くなった肌を見ていったのだろうが、こんなものが閻魔大王だったら地獄はまったく方向性の違う地獄になるであろう。まさにドM地獄。

 暗がりに突如として現れた変態のせいでお布団天国から一気に地獄に叩き落されたゆなは、あまりの恐怖に大粒の涙を流しながらリネン室を飛び出してしまった。

「やってしまった! だけど不幸中の幸いかあまりの恐怖に顔までは覚えられていない! と思う! ほら、今のうちに逃げるよ二千翔!!」

「ふひゃひぇひ……極楽幼女……ぶぴ」

「今すぐ起きないと君のケツを掘り倒すよ」

「さぁ逃げよう今すぐ早く!」

 草壁は素早く起き上がり、いつになく早口でドアに向かった。

 これと同時間に斑谷も走り出している。こうして三バカによる女子寮浴場覗き計画は完ぺきに破綻し、逃走劇という形で第二幕を開けることになった。

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