兄は怒りを覚える。
このお兄ちゃんあってあの妹ですね。
ヴォルクのシスコン回、お楽しみ下さい。
「ここが監獄か……」
クリスには申し訳ないが床を破壊したおかげで素早く無事に到着することができた。
「ヴォルク……突然すぎるぞ……」
フールとクリスが瓦礫に埋もれている。
……本当ごめん。
ぶっちゃけそこまで考えてなかったです。
許してください。
「僕も来たことがなかったけど……これは」
砂ぼこりを払いながらクリスは辺りを見回す。
劣悪な環境。
きっとクリスも同じように思っているだろう。
石畳の床には濁った水で水溜まりでできており、周りを羽虫が不快な音を立てながら飛んでいる。
犯罪者を捕まえておくならば十分な環境かもしれないが……。
間違ってもうちの妹に縁があってよい場所ではない。
「いやっ!やめてっ!」
「ソラっ!?」
妹の悲痛な叫び。
くだらない考えを巡らせている場合ではなかった!
くそっ!ソラに何しやがった!
一心不乱に走る。
後ろから声が聞こえてくる。
だが、振り替える時間さえ惜しかった。
水溜まりで足が濡れる。
悲鳴は近い。
この角を曲がったところだ!
……そこには。
「ああ?」
そして走った先には、牢屋があった。
中にいる男達がぼけっとした顔でこちらへ振り替える。
その中心には。
「ソラ……?」
「お、兄ちゃ、ん……?」
変わり果てた、妹がいた。
幸いにも、外傷は見られない。
だがほぼ裸に近い姿で、肩で大きく息をする姿。
……殺意を覚えるには十分な光景だった。
「誰だてめぇ、邪魔すんじゃ……」
「黙れ」
その口を蹴りとばした鉄格子で黙らせる。
「貴様等……ソラに何をした……!」
「や、やれっ!やっちまえ!」
こいつら。
こいつら。
こいつらっ!!
「何……しやがったっ!?」
顔に拳を叩き込み。
体当たりしてくる体を蹴りとばし。
うずくまる男に剣を突きつける。
「……」
「や、やめてくれ……殺さないで……」
涙と鼻水で無様に汚れた顔。
こんな情けない奴がソラを苦しめた。
……死ぬ理由には十分だ。
「……」
殺す。
絶対に、殺す。
殺す。
暗い感情が止めどなく溢れだす。
「お、兄ちゃん」
妹の声が聞こえてきた。
「だめ……殺しちゃ、だめ……」
俺を戒める声。
やめてくれと止める声。
高ぶった気持ちが、急速に冷めていく。
「……怖いお兄ちゃんは嫌いだよ」
「うっ……!」
「とりあえずその剣を下ろしてね」
「は、はい」
そそくさと剣を鞘にしまう。
予想以上になつかれている相手からの「嫌い」は結構くるな……!
そんな俺を見て、ソラはくすくすと笑う。
「やっと、いつものお兄ちゃんの顔になった」
肩で息をしながらも微笑むソラ。
……俺は本当に駄目な兄だ。
助けにきたはずの妹に諭されてしまった。
「本当に……良かった。無事で、良かった」
「……無事じゃないよ」
「えっ!?どこか怪我をしているのか!?」
ソラの体をくまなく眺める。
怪我はしてないけどな……。
どこだ……?
……ていうか肌白いな。
胸も……大き……。
「乙女のプライドぼろぼろだよー!……ってお兄ちゃん聞いてる?」
「へっ?」
「うわっ、よく見たらえっちぃ目してる!」
「い、いや違うぞ!ほんとにほんとに!」
「お兄ちゃん、妹の裸見れて良かったね……いやらしい」
「……ごめんなさい」
「手錠外して~」
「はい……」
完膚なきに叩きのめされた。
これは当分こき使われるな……。
でも思ったより元気そうで良かった。
「ヴォルク!ソラ!大丈夫なのか?」
そこへフールとクリスがやってきた。
「ヴォルク!妹さんは……あ」
クリスはソラから目を背けた。
それでいい。
いくら王子でも妹の裸をじろじろ見ていたら、どうするか分からなかったからな。
「さて……どうやってこれは外すんだ?」
ソラに向き直り、手錠に手を伸ばす。
その時であった。
「……っ!?」
手が弾かれた!?
「透明な……膜?」
『おやおやぁ?私の宝物に触れるドブネズミが釣れたねぇ』
突然目の前に小太りの男が現れた。
「ギベル……!」
『これは王子様ぁ、こんなところでお会いするとはぁ』
「それよりどういうことだ!クーデターを起こして、ただで済むと思っているのか!」
『お顔が怖いですよぉ。まずはお話しましょうよぉ』
ギベルの手がソラに伸びる。
『私はこの子と一緒に玉座の間で待ってますよぉ』
こいつ……撫でやがった。
ソラの髪を!
「さ、触らないで!」
『良い香りですねぇ。石鹸の香りかなぁ』
匂いまで!
こいつ……俺の妹に……!
『では待っていますよぉ……もっとも辿り着けるか、ですがねぇ』
「お兄ちゃん!」
「ソラっ!」
消えた。
ソラを、助けてやれなかった。
ここまで……来たのに!
「くそっ!」
力任せに壁を殴る。
ギベル。
そして自分への怒りが込み上げてくる。
しかしその怒りは一瞬で消え去ることになった。
「ヴォルク!魔物だ!」
「なにっ!」
突然フールが声を張り上げた。
魔物……!?
ここは城内だぞ……!
『辿り着けるかなぁ?』
こういうことかよ……!
魔物の足音がすぐそばに迫っている。
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嬉しいものですね。ありがとうございます。
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