王子は驚きを隠せない。
王子目線は初めてですね。
僕はセスタリック王国の王子、クリス。
父上の一人息子としてこの世に生まれて19年。
今日ほど自分の無力さを感じたことはなかった。
騎士団が魔物討伐で国を離れた日に、クーデターを起こされる。
父が病気がちな今、僕がしっかりしないといけないのに。
「クリス。王様がいる離宮はどこにあるんだ?」
地下道を抜けた後。
僕達は城の一階、絨毯が敷き詰められた長い廊下にいた。
人気がない不気味な雰囲気の中。
ヴォルクが僕に尋ねてきた。
ギルドの人間らしく戦闘の経験はあるようだが、正直に言ってしまうと少し不安だ。
腕利きの冒険者であれば今回のオーク討伐に参加しているはずである。
3人で本当に城を取り戻せるのか。
「殿下、急がれた方が良いかと……」
フールさんが声をかけてきてくれる。
……そうだ。
2人はこんなに協力してくれるんだ。
加えてヴォルクはソラさんのことが何より心配なはずだ。
だが、それをおくびにも出さず力を貸してくれる。
感謝こそしなければならないのに……。
なんて失礼なんだ僕は。
「離宮はここから2つ上の階からいけるよ。……あとソラさんの居場所なんだけど」
「……!」
「地下の監獄。この城で人を捕らえておくならそこしかない」
「監獄っ……!」
ヴォルクが顔をしかめる。
監獄と聞いて良い想像はしないだろうな……。
「監獄に行くには一度中庭に出て、地下に降りる必要がある。まずは中庭にいこう」
父上は心配であるが、あそこには守護兵がいる。
きっと多少であれば持ちこたえられるはずだ。
それよりソラさんの方が危ない。
そう思ったのだが、ヴォルクは考え込んだように足元を見ていた。
「ヴォルク、急がないと……!」
「なぁクリス、2つ聞いていいか?」
「2つも!?なんだい!?」
「今は非常事態だよな?」
「当然さ!なんなら国家消滅の危機かもしれないっ!」
「監獄はこのすぐ下にあるのか?」
「……?確かに監獄はこの下だけど」
「わかった」
僕が話し終えると、ヴォルクは納得したように頷いた。
「ちょっと下がっておいてくれないか?」
「えっ?」
「フールも。壁の近くまで。危ないから」
「危ない……?ヴ、ヴォルク。まさか……!」
フールさんが顔を青ざめる。
えっ、待って何する気だい?
ここお城だよ!?
「決まっている。1秒でも時間を無駄にせずソラと国を救うんだよ」
そういうと今まで一度も抜かなかった剣を振り上げる。
ああああああ!やること分かってしまったぁ!!!
「せいっ!」
そんなヴォルクの声とともに剣は振り下ろされた。
そして。
大理石の床は派手に崩れ去った。
……この人は一体なんなんだろう。
深まる謎に沈んでいくように。
僕の体は地下へと落ちていった。
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明日から更新は1日1回に戻ります。