兄は街中で迷子になる。
朝一番に投稿。
好評なら今後もやりますが、不評ならスパッとやめます。
ヴォルクの女たらしの片鱗をご覧下さい。
発見した男は青年であった。
肌白く、中和的な顔つき。
そこに華奢な体が合わさって、女性に見えてしまう。
担いだ時もその軽さに驚いた。
美しくも壊れそうな。
少なくとも只者ではない。
そして俺は家まで男を連れ帰った後、再び1人で市場に繰り出していた。
「……ったく、普段ソラには安く売るくせに」
というのも彼を発見し、連れて帰っていくうちに夕飯の買い物をし損ねたのである。
そのため回復魔法が使えるソラに看病を任せ、買い物をしているのだが。
「えっと……、パンはどこで売ってるんだ……?」
これが普段料理をしない弊害か。
野菜を買ったのはいいが、他の食品がどこに売っているのか分からない。
それに加えて王都の市場は広大だ。
18才の良い大人が迷子になってしまった。
「ん?ヴォルクじゃないか。何をしているのだ?」
しかし日頃の行いが俺は良かったらしい。
フールが声をかけてきた。
「夕飯の買い出しだよ」
「ほぅ、何を買うのだ?」
「ええっと、パンとか肉とか」
「……ん?パン屋はここまでの道に数軒あっただろう?」
「えっ……」
耳を疑った。
歩いてきた道にはパン屋なんてなかったぞ!?
フールは首をかしげた後、合点がいったように口を開いた。
「ヴォルク、この辺詳しくないのか」
「正直に言うと……」
「いかんぞ、ソラに任せてばかりでは」
「はい……」
「……仕方あるまい。私が案内してやろう」
「いいのか?」
「構わん。食後の散歩だったしな」
この後のフールは凄かった。
パン屋では普段選ばないようなパンの美味しさを教えてくれた。
また肉屋では値段を誤魔化そうとした店主を論破、肉を特別価格で買うことができた。
「いやー!ありがとう!良い買い物ができた!」
「構わない。メンバーの体調管理もしてこそのギルドリーダーだからな」
「フールは良いお嫁さんになるな」
「お、およっ……!」
突然、フールの足が止まる。
どうしたのだろうか?
よく見れば顔も赤いし、熱があるのかもしれない。
「な、なんで手を伸ばしてくるっ!?」
「いや、熱を測ろうと」
「わ、私はソラと違って屈しないからな!」
「……?なんでソラの名前が出てくるんだ?」
支離滅裂な発言。
やはり体調が悪いのかもしれない。
「ちょっとうちで休んでいってくれよ。案内のお礼もしたいし」
それにフールはギルドリーダーをやっていて顔が広い。
もしかしたらあの男について何か知っているかもしれない。
「い、いやしかし……」
「お茶ぐらいご馳走させてくれよ。じゃないと俺の気持ちが収まらない」
「……わかった。お茶ぐらいなら」
「良かった。家ももうすぐだな」
そんな時であった。
「ヴォルクちゃん!」
声をかけてきたのは近所に住むおばちゃんであった。
慌てた様子で捲し立ててくる。
「さっきご飯のお裾分けにいこうと思ったらね、この時間なのに家の電気もついていなくて、おかしいなーと思って入ったんだけど、そしたら」
「ご婦人。そこから先は僕が」
あわあわするおばちゃんの影から出てきたのは。
「さっきの……」
「お兄さんですよね?お伝えしないといけないことがあります」
「妹さんが……拐われました」
保護した男は申し訳なさそうに、下を向くばかりであった。
ご覧いただきありがとうございました。