王子は目が離せなかった。
ヘルスパイダー戦最終回です。
信じられない、光景がそこにはあった。
先ほどまで倒れていたソラさん。
お腹には大きな穴が空いており、とてもじゃないが生きていられる怪我ではなかった。
しかし彼女は笑顔でヴォルクをからかっている。
まるで怪我したことさえ、なかったかのように。
「……あれ、か」
そしてヴォルクも妙に納得したように頷く。
そして安心したように大きく息を吐いた。
「お前……それなら言ってくれよ……!」
「言おうとしてもお兄ちゃん聞いてくれそうになかったでしょ」
「う……」
「それに、お兄ちゃんが忘れていたお陰でこうやって両思いになれたしね!」
「……それに関してはもう一度話し合おうな」
「だめだよ。もうお兄ちゃんはシスコンだってこと皆にばれちゃったんだから」
「……」
黙りこんでしまった。
ヴォルク恥ずかしいだろうなぁ。
あれだけ好き好き連発していたんだから。
あれはずっといじられるんだろうな。
「……さてお兄ちゃん」
「なんだよ」
「そろそろ、あの蜘蛛さんにお仕置きしなきゃいけないね?」
「お前……まさか」
「いいじゃん。もう隠せないし、あいつを倒すには『あれ』が必要でしょ?」
「……わかった」
「そうこなくっちゃ。フールさん!もう少し頑張って下さい!」
そう言うと、2人は向かい合う。
……何が始まるんだ?
「お兄ちゃん……手を」
「あ、ああ……」
ソラさんがヴォルクの背中へ回り込む。
そしてヴォルクの手の甲に彼女の手が合わさる。
2人の周りだけ雰囲気が違う。
そう感じられるのは僕だけであろうか。
「お兄ちゃんの手、温かいね」
「おい……そんなにくっつく必要……!」
「照れてるの……?可愛いよ」
おかしいな。
いちゃいちゃしているようにしか見えない。
戦っているフールさんの目が怖い。
何かするなら早くしてっ!
「聖剣よ」
「聖剣よ」
「我が勇者の血に従い」
「我が勇者の血に従い」
「巨悪の根元を絶つために」
「巨悪の根元を絶つために」
『力を授けたまえ』
……子供の頃。
よく母上から勇者の話を聞かされていた。
魔王を打ち倒す英雄である勇者の話が僕は大好きであった。
その中でも好きだったのが聖剣の話だ。
黄金に輝く美しい剣。
全ての悪を祓い、世界に平和をもたらす勇者にのみ許された武器。
その刀身を見たものは、その美しさから目が離せなくなるという。
その剣が、目の前に現れたのだ。
断言できる。
ヴォルクの手に握られた剣。
あれは、勇者の剣だ。
ということは。
「ヴォルクは……勇者、なのか?」
「貴様ぁ……その、剣は?」
同じ疑問を持ったヘルスパイダーが呻いた。
大きな体が後ずさる。
「よくもソラを殺そうとしてくれたな……!」
「……く、くく!ちょうどいい!お前の死体を、あの方に!」
蜘蛛はヴォルクに飛びかかる。
「死ねぇ!勇者ぁ!」
「お前にこの国は渡さない」
……。
一瞬の静寂。
勇者の剣が振り下ろされる。
その刀身は。
確かに蜘蛛の胴体を、捉えた。
「う、うううううう」
蜘蛛の体から眩い光。
ヴォルクは勇者である。
それを証明する光であった。
「があああああっ!くそぉ!あともう少しでぇ!」
蜘蛛の体が崩れていく。
足。
胴体。
頭。
全てが光に包まれる。
「だが良い気になるなよぉ!貴様などあの方、魔王様の手にかかればぁ!……ああああああ!!」
そんな捨て台詞を残し。
蜘蛛は光の中に消えていった。
魔王。
気にかかる言葉はあった。
でも今はいいだろう。
僕達は、城を取り戻したのだ。
……こうして。
誰にも知られずに始まったクーデターは誰にも知られずに鎮圧された。
ご覧いただきありがとうございました。
次回で1章は終わりです。
今日中に活動報告に2章のあらすじを掲載します。
明日も更新します。




