フールは揺さぶられる。
久々のフールさん視点です。
今日は本当に大変な日である。
簡単な猫探しが終わり、平和に1日が終わったと思っていたのに……。
ソラが拐われ。
王子様と出会い。
そして。
……魔物に追いかけられている。
「くそっ!数が多い!」
仲間の1人が声を荒げる。
骸骨型のモンスターに始まり、ゴブリン。
ラミアのようなものまでいる。
「ウィンドカッター!」
風の刃でコブリンを両断する。
音もなく絶命する魔物。
しかし息をつく間もない。
「フール!そっち行ったぞ!」
「もう……いい加減にしてくれっ!」
本当に休む暇なく魔物がこちらに押し寄せてくる。
不幸中の幸いは、どのモンスターもあまり強くないこと。
足元には既に多数の死骸がある。
油断しなければ大丈夫。
大丈夫。
……でも。
あぁ。
これが討伐依頼ならどれだけ生活が楽になっただろう。
「フールっ!前っ!」
「あっ……」
ラミアの牙が迫っていた。
駄目……避けられないっ。
油断するな。
ついさっき自分で思っていたのに……。
私って……!
反射的に目を瞑る。
「グギャア!?」
……?
痛くない?
どういうことかと恐る恐る目を開けると。
「良かった……無事だね」
「あっ……」
クリス王子が立っていた。
手に持つレイピアには紅い液体。
……助けて、くださったのか?
「ありがとう、ございます……」
「良かったよ。女性の肌に傷を付けさせる訳にはいかないからね」
「……っ!」
胸が、跳ね上がる感覚。
何をどきどきしているんだ……私は!
そんな場合ではないのだぞ!
「この先に隠し通路がある。そこから上へ」
そんな私には目もくれず。
王子は奥の道を指差した。
「分かったっ!」
「こっちだ!」
魔物を蹴散らし、走り出す2人。
……そうだ。
時は一刻を争う。
浮わついている暇はないぞ!フール!
そう自分に言い聞かせる。
言い聞かせる。
言い聞かせた……はずなのに。
胸の高鳴りは、中々落ち着いてくれないのだった。
ご覧いただきありがとうございました。
次回は8月29日午前8時頃に投稿予定です。