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仙人と僕

作者: 江上将貴

もうこの世に居ないだろう貴方へ。

中学の時両親と折り合いが悪く2カ月家に寄りつかなかった事がある。両親の居ない時間たまに帰っては祖母と数時間過ごし、また街へと戻り昼は図書館。夜はビルの非常階段にダンボールを敷いて寝て過ごした。

ある日の夕方寝床を探してる時に仙人のような髭をしたホームレスに声を掛けられた。


彼は随分前から街をウロついている子供がいると、僕の存在を知っていたようだった。新聞配達で貯めてたお金も少なくなった僕に仙人は公園でカップ麺をご馳走してくれた。僕が食べ終わるのを見ると仙人は家に帰れよと言って何処かへ去っていった。‬

次の日から僕は図書館を出ると仙人を探しに街をぶらついた。大体1時間もぶらつけば仙人に会えた。彼は大っきなリュックにカバンをぶら下げ荷物の重さに耐えながらゆっくりとしか歩けなかった。‬

僕が声をかけると、お前か!何やってんだ!という声とは裏腹に顔は笑っていた。僕等は昨日の公園で昨日と同じカップ麺をすすり、僕が食べ終わると仙人は、はよ帰れよと言ってまた何処かへ行ってしまう。

仙人は左手の中指薬指小指が第一関節の途中から無かった。ある夜、僕が仙人の左手を見てるのに気付くと、仙人は昔仕事でヘマをしたんや。とだけ言って左手を隠すように身体の向きを少しだけずらした。僕は彼の態度から尋ねてはいけない事をきいたのだなと感じて2度とその事にはふれなかった。‬

それからの僕は約2週間ぐらい仙人と夜を過ごす生活が続いた。その間1度も家には帰らなかったが祖母が心配するので公衆電話から連絡だけはしていた。‬

ある夜いつものように仙人と公園でカップ麺を食べてたら仙人は僕の事をあれこれと聞いてきた。そして聞き終えた仙人は僕に言った。「お前は1人で生きてきたわけじゃない、今も俺からメシを食べさせてもらってる過去も今もこの先もお前は1人では生きていけない。この俺も1人では生きていけない。お前には気にかけてくれるばぁちゃんがいるのだろう?帰れる場所があるなら帰るべきだ」と、言った内容だったと思う。

僕は曖昧な返事をした。‬

次の日の夕方、仙人を探して街に出たがどれだけ探しても仙人は見つからなかった。その次の日もその次の日も仙人には会えなかった。12月の寒空の下、街の雰囲気は賑やかでも僕は身も心も寒く冷えて心細かった。‬


それから財布の中のお金が無くなりかけた時、仙人を探すのも諦めて、僕は家に2日かけて歩いて帰った。‬学校は冬休みに入る少し前だった。両親は来年からちゃんと学校行きなさいよ。とだけ言って、あとは何も言わなかった。口の悪い祖母だけは、僕が家に帰るのが遅いと雪が降っている日も傘を手に家の前の道路に立って僕の帰りを待っていてくれた。


あの日、仙人が僕の前に現れなくなった理由は分からない。違う街に移ったのか、今のままじゃ僕に良くないと思ったのか、事故にあったのか、病気なのか。

もしかしたら、あの日出会った仙人は本当に仙人で人ではなかったのかもしれない。

しかしあの日々の仙人の声や笑った顔や仕草は僕の記憶のなかに確かにある。


街で過ごした夜。夏も終わり秋から冬と季節が移り、とても寒くて寝れない夜もあったのを今も身体が覚えている。

僕は学校に行っても理科室の裏、図書館でぼんやりと過ごしながら、今頃仙人は何してるのだろう?夜はあったかくしてるかな?なんて考えてた。


そして今も夜が寒いとあの仙人と過ごした他人の優しさにふれた日々を思い出す。

今から30年も昔の話。



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