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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[11] 迫撃!トリプルポーン
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-91-:気に入らないのよねぇ

 昼休み―。


 毎時限後に物珍しさから集まりくる生徒たちから、ひとまず解放されて、ツウラは独り静かに席でスマホを操作していた。


 そろそろアンデスィデが始まる時間ね。


 魔導書(グリモワール)チェスのルールの一つに、“持ち時間”が定められている。


 通常のチェスのルールで使われる持ち時間はトータルの時間を差すが、彼らの“グリチェス”の持ち時間とは、“相手が駒を動かしたら24時間以内に駒を動かさなければならない”ルールとなっている。


 トータルの持ち時間というものは存在しない。


「高砂・飛遊午を見張っていなくていいの?」


 ツウラの机に腰掛けるなり、唐突にトモエが訊ねてきた。


「何よ?“貝塚・真珠(かいつか・しんじゅ)”」


「フルネームで呼ばないで。それと、黒玉の連中に私の本名を教えたら殺すからね」

 顔を真っ赤にして、穏やかでない忠告を添えると。


「彼が本当にグリチェスから降りていたのなら、他の生徒たちを人質にしてでも、彼にアンデスィデに参戦させろと、ライク様から命令されていたでしょ?」


 トモエは任務に無関心なツウラに忠告した。


 それはツウラが天馬学府に転入してきた本当の理由。


 本来ならば、これはトモエの仕事であったが、彼女が従える人狼(ワーウルフ)のロボは昨夜、天馬教会に押し入った中国軍を殲滅、現在遺体と装備の処理を行っているために手が離せないでいた。


 なので、急遽ツウラがその役目を引き受ける事となったのである。


 しかし。


「気に入らないのよねぇ。『アンデスィデでのベルタの健闘を楽しみにしている』とか言っておきながら、昨夜ベルタに重傷を負わせた上に、霊力まで消耗させておいて何が健闘よ。高砂・飛遊午のショボい霊力で全快できるとでも思っているのかしら?私はそんな不公平な戦いをさせるくらいなら、彼に参戦なんてさせないわ」

 高砂・飛遊午を守る気などサラサラ無いけれど、卑怯な戦いの片棒は担ぎたくない。


「言いたいことは分かるけど、命令を無視して後でどうなっても知らないからね」


 告げている最中に、廊下を駆けてゆく高砂・飛遊午の姿が目に映った。

 とても急いでいる様子。


「追い掛けなくて良いの?」

 走り去るヒューゴを目で追いながら訊ねるも。


「追い掛けた先がトイレだったら、言い訳が立たないから、パス」

 チラチラと花びらが舞うように手を振って見せてツウラはこれを拒否。

 やはり任務に対して忠実では無い。




 ヒューゴは走った。とにかく、なるべく人通りの少ない場所を目指して。

 彼の向かった先は、屋上へと続く階段。


 到着するなりスマホ画面を開いた。


 メール表示画面に“アンデスィデの参戦要請が来ています”のメッセージ。

 しかも、1分置きに今も入って来ている。


「あいつら何やっていたんだ?あんなに日があったのに、新しいマスターを得ていなかったのかよ」

 画面に向かって文句を垂れても仕方が無いのは分かっている。

 そうこうしている内に、またもやメールが入った。


 参戦する、しないは置いとくとして、とにかくベルタに電話した。


「どうして貴方が電話をしてくるのですか!?ヒューゴ」

 電話に出るなり訊ねてきた。

 が、訊きたいのはこちらの方だ。


「どうしても何も!何回メールを送ってくるんだ!?それよりもベルタ。お前、新しいマスターを得ていなかったのかよ?」

 質問からしばらく沈黙が流れた後…「はい、未だに」急に声のトーンが下がった。


 でも。


「だからと、私に同情などして参戦するとか言い出さないで下さい!貴方はもう無関係の人間なのですから」

 ベルタは声を張ってヒューゴを拒絶した。


「同情なんてするかよ!どうせアレだろ?前方にいたポーン3騎が一斉に降りてきてアンデスィデに突入しちまっているのだろ?3対1の戦いだなんて、特攻じゃないかよ」


 つくづく呆れ果てる。結果的に特攻になっているとしてもだ。


「これは元々負け戦なのです。だから、私がここでリタイアするだけなので、その…ヒューゴ。最後に貴方の声が聞けて良かった」

 先程までの張りつめていた声質とは異なり、ベルタの声は清々しささえ感じられる安心を得たような穏やかなものへと変わっていた。


「今生の別れにするは、もう少し待ってくれないか?お前には生きて黒のバックランクまで到達してもらわなきゃ困るんだよ」


「困る?まさか!また私に乗り込むと言い出すのではないでしょうね。それなら、なおさら断固拒否致します。貴方を再びマスターに迎える事などできません!」


 心配してくれる気持ちは有難いが、こうも頑なに断られると逆にイラつく。



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