-89-:想いは必ず彼の力となるだろう
6月12日早朝―。
またしても、またしてもアンパッサンwww。
草間・涼馬が、またしても待ち伏せをしていた。
角にある、カーブミラーに彼の姿は映っていなかったので、すっかり安心していたら、もう少し先へ行ったところのコンビニの屋外テーブルで休憩を取っていた。
夜中に雨が通り過ぎての、空気の澄んだ清々しい朝だったのに、彼の出現で台無しだ。
気付かぬフリをしてやり過ごそうと試みるも。
「おはよう、高砂・飛遊午。まだ生きているようだね」
爽やかな笑みでの朝の挨拶。だけど、どんな挨拶だよ。
「おはよう。昨日に続いてお出迎えご苦労なこった」
礼を欠くことなく挨拶を交わすも、立ち止まる事はせずに、コンビニの前を通り過ぎる。
ヒューゴと同行している“鈴木くれは”は、最初からリョーマを無視して挨拶すら交わさない。
「高砂・飛遊午。君は気付いているハズだ。一度戦った者が、戦いが終わりを迎えるその時まで、剣を納める事などできない事を。君は求められれば、必ず戦いに身を投じる道を選ぶはずだ」
彼の言い分は、まるで中毒患者が依存症から抜け出すのが難しいと言っているように聞こえなくもない。
「誰がそんな道を選ぶものかよ。あんな怖い思いはもうコリゴリだ。ついでに、お前と戦うのもコリゴリだ。何度も言っているが、俺はまだ死にたくはない」
放っておけばいいものを、ヒューゴはリョーマへと向き直って自身の心情を伝えた。
「そうだよ。タカサゴはもう、死と隣り合わせの戦いなんてしないんだから!もしも、するとか言い出したら、私が力づくでも絶対にさせない!」
言い放ち、クレハはヒューゴを庇う事もせずに、リョーマとの間に割って入った。
いきなりのクレハの対応にヒューゴは戸惑いを見せる。
すると、リョーマはクスクスと笑い出すと。
「大層彼女に想われているじゃないか。高砂・飛遊午」
リョーマの言葉にクレハは顔を真っ赤にするも、何も言い返せない。
が。
「俺、そんなに危なっかしいか?」
この状況で訊ねるな!ヒューゴのお腹に肘鉄を食らわせる。
「名前を忘れたが、そこの彼女。君は彼を想い続けてやると良い。想いは必ず彼の力となるだろう」
そう言われると、ますます恥ずかしさのあまり、遂には耳まで赤く染まり行く。
「まっ、そのくらいのブーストを掛けてもらわないと、高砂・飛遊午が僕と対等に渡り合うのは正直難しいからね」
一瞬でもリョーマを、女の子の気持ちの解る人と感じた自身を呪った。
コイツはとことん自信家だ。
残念ながら、コイツに精神的ダメージを与えられる言葉が何一つ思いつかないのが、こと悔やまれてならない。
「これからも、臆せずに実戦経験を積んで強くなってくれたまえ。そして、僕の立つ場所へと這い上がって来い!」
「行くか!ボケェッ!」
言い放つ二人にリョーマはサッと手をかざして「今日はこれで失礼させてもらうよ」と颯爽とマウンテンバイクを発進させた。
“アイツは一体何なんだ?”去り行く彼の背に、それしか抱く感情は無い。




