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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[9] 地獄の棋譜編
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-86-:汝は我を斬れるか?

 ベルタは、交差路でとうとうウォレスを射程内に捉えた!


「敵が一人の場合は逃げながらの戦いは得策ではない!」

 追う者の足の速さのばらつきを好機に変えて敵の数を減らしてゆくのが“撤退戦”の定石であるが、ウォレスの行為は、ただの時間稼ぎに過ぎない。


 勘違いは正される事無くベルタはウォレス目がけて斬撃を繰り出した。


 ところが、交差路の左側から、サーベルを手に接近する人影が。

 先ほどよりも剣速が遅い!ベルタは疲弊しているウォレスをひとまず放置して、独楽のように回転しながら標的をナバリィへと変えて斬撃を繰り出した。


 だが!


 斬撃に入ったベルタの視界に入ったのはナバリィでは無く。

「この女性(ひと)は!?」

 攻撃をためらったばかりに先手を許し、サーベルによる袈裟斬(けさぎ)りを交差させた脇差しで受けざるを得ない。


 サーベルを手にしているものの、先ほど出逢ったナバリィとは似ても似つかない、ただの一般人女性。しかも残業か飲み会で帰りの遅くなったパンツスタイルのスーツ姿のOLさんではないか!?どうして、この女性がサーベルを手に自分を攻撃してきたのか?


 攻撃を仕掛けておきながら、OLの目は虚ろでまるで生気を感じさせない。


「卑怯だぞ!ナバリィ!関係無き者を人形のように操るなど言語道断!」

 すると、目の前の女性が急にクスクスと笑い出した。と、高笑いまで始めた。


盤上戦騎(ディザスター)となって戦う我らはすでに(なんじ)の言う“関係無き者”たちを巻き込む戦をしているのだぞ。今更我を卑怯者呼ばわりするとは笑止!滑稽でならぬ」

 女性の言葉を振り払うかの如く「違う!!」強く否定し、押し飛ばして周囲をうかがう。


「ナバリィ!何処だッ!姿を現せ!」

 怒りを露わに叫ぶもナバリィの姿は何処にも見当らない。


「我はココだと言ったら、(なんじ)は我を斬れるか?」

 OLは胸に手を当ててベルタに告げた。「取り憑いているのか?貴様ぁ・・」

 胸から手を下すと、金のチェーンにサファイアのペンダントが大きく揺れた。


「この格好はとても動き易いのだが、どうにも我の趣味には合わぬ」

 OLは自らの恰好を眺めながら呟くと、視線をベルタへと向けた。


 ユラリと身体に芯が通っていないような不安定な動きでベルタに迫ると、両手に握ったサーベルをベルタ目がけて振り下ろす。

 反撃してくれと言わんばかりに隙だらけの動きではあるが、反撃できず、ただ剣撃を受け流すすしかない。


 するとOLは踏み込んで強烈な一閃を振り下ろした。


 バックステップ!そしてすかさず剣を振り下した女性の背後へと回り込み相手に腕を回して組み付くと、「すまない」OLに謝るなりベルタは瞬間的にグッと力を込めて彼女の両腕を絞め上げた。

 OLの上腕骨から軽い音が鳴った。

 骨折の痛みにOLは小さく悲鳴を上げた後、サーベルが地に落ちる音、さらに呻き声を発して吐血した。


 同時にベルタも腹部に痛みを覚え、呻き声を上げた。

「貴様ぁ…ナバリィ・・」

 OL越しに正面に立つナバリィを睨み付ける。


 ナバリィはOLごとベルタをサーベルで貫いたのだ。


「その女ごと私を斬っておけば勝てたものを。ふふ。何とも愚かな、ベルタ」

 まさかの勝利に腹の底から笑いが込み上げてくる。

 ナバリィは高らかに笑った。


「随分と腑抜けたものよな。戦いの場に赴きながら、乙女の(たしな)みに花の香りをまとうばかりか、先の(いくさ)で多くの敵を打ちのめし英雄と称された汝が、まさか“捨て駒”ごときに気を取られて腹に剣を突き立てられようとは」


 お風呂上りの入浴剤とシャンプーの残り香を“乙女の嗜み”と勘違いされているのは捨て置くとして、彼女の言う通り、明らかにOLは捨て駒だった。


 だけど、彼女の言う“捨て駒ごと構わず斬り捨てるなんて発想は微塵も思い浮かばなかった。これもきっとシルヴィアやヒューゴと出会って得た“守りたいと願う”意志の表れなのだろう。

 そしてその代償に傷を負ってしまった事を“不覚”とも思わない。

 むしろ、無関係のOLに深手を負わせてしまい、それこそ“不覚”でならない。


「つまらぬな!マスターより我らを圧倒する剣技を授かっておきながら、それを駆使する事もせずにみすみす深手の傷を負うとは、どこまでも愚かか!?」

 ナバリィから笑みは消えて、激しい憎悪をベルタにぶつけてきた。


「あ、貴女は何を?…」

 好機を喜ばないナバリィに、ベルタは戸惑う。


「もう我は何も言わぬ。さっさと貴様の首を刎ねて『止めろ!剣を抜くな!』」

 ナバリィが告げ終えるのを待たずしてベルタの制止する声が重なった。


「ええい!無礼者!私が話している最中に声を被せるな!お前の『剣を引き抜けば、この女性が死んでしまう!』」

 再び声を被せて制止するベルタに、ナバリィは冷めた視線を向けて「構うものか」サーベルを引く手に力を込めた。が、思うように引き抜けない。


 ベルタがサーベルを掴んで離さないのだ。


 サーベルを引き抜かれては傷口から大量の血が吹き出てしまう。


 串刺しの状態ではあるが、何としてもこれだけは阻止せねば。


 ベルタの手に、さらなる力が込められた。


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