-85-:チッ!
ベルタは、窓から身を乗り出すと、屋根の上を目指してボルダリングするようによじ登っていった。
屋根の上へと到着。
すると先立って屋根の上に上がっていた男性がベルタの姿を目にするなり「チッ!」舌打ちを鳴らした。
軽装の皮製鎧をまとった、足元は足袋のように親指の離れたブーツを履いた出で立ち。どこか勘違い全開なアメリカ忍者みたい。
そして手にはすでに青竜刀を携えて「チッ!」
ベルタは男性の姿を捉えるなり足元に赤く光る魔法陣を展開させて。
魔法陣が上へと昇り切ると甲冑姿へと変身!すかさず両腰の脇差しを抜刀!構えた。
「さっきの地震は貴方の仕業か!」
ベルタの問いに、男は「チッ!」背を向けて走り出した。
「『待て』とは言いませんが、せめて問いには答えられよ!」
男の態度に不快感を覚えつつ、ベルタは追跡を開始。
「チッ!」
男は余所の屋根瓦を敷いた屋根に飛び移ると急に振り返りその場にしゃがんだ。両手を屋根瓦の上へと乗せると「チッ!」男の周囲の屋根瓦が一斉にベルタ目がけて飛び立った。
まるでイワシの群れのように塊になってベルタに襲い掛かる。
彼が場所を変えたのは、教会の屋根はスレート屋根なので攻撃できなかったと推測される。
「これが貴方の能力か!?」
襲いくる無数の凶器と化した屋根瓦を両手の脇差しで次々と切り払ってゆく。直撃でない屋根瓦が、甲冑から覗く衣裳やスカートをいくら切り裂こうとも物ともしない。
そして、そのまま突き進み、屋根瓦が頬を掠めようとも男との距離をとにかく果敢に縮めてゆく。
「チッ!たまげたな。まさに“鬼神の如く”を体現してやがる。チッ!」
後ろへと飛び退いて別の家へと移ると、再び屋根瓦を凶器へと変えてベルタに襲い掛かった。
それでもベルタの勢いは止まる事は無く男との距離をさらに縮めてゆく。
男はもう一度後方へと飛び退いて別の家へと飛び移った。が、ベルタの突進力はすさまじく、もはや男の眼前に迫っていた。
脇差しの間合いに男を捉えた!
すると、突然ベルタの右側面からサーベルの突きが繰り出された。
咄嗟に体を捻ってサーベルの突きを数センチの距離でかわし、さらなるサーベルのバックハンドによる斬撃を『キンッ!!』脇差しで切り払う。大きく飛び退いて二人の魔者を視界に納めて両者に脇差しの切っ先を向けた。
乱入してきた女性は、裾の広がった黒色のドレスに宝石を散りばめた黄金に輝く貴婦人仕様の軽装甲冑。頭には黒の羽根飾りをあしらった黄金の髪飾りを載せている。
いきなり空間から姿を現したことから、どうやら彼女はヒューゴの言っていた“ナバリィ”なる魔者と思われる。
「その能力、貴女がナバリィか!?」
「やはり我の情報を伝えておったか、其方の“元マスター殿”は」
抜け目ないヒューゴを称しながら、ナバリィはサーベルで横一閃を放ち、空を斬って見せた。
「チッ!出てくるのが早すぎるぞ!ナバリィ」
「貴公の脚が遅すぎるのだ!」男の声に眉をひそめる。
言い争う二人の会話から、連携攻撃を仕掛けたものの、残念ながら失敗に終わったものと観られる。
ナバリィは目線だけを男に向けると。
「ウォレス!ここは開け過ぎている。場所を変えるぞ!」
告げると、二人して屋根から飛び降りた。
ナバリィの姿は見当たらない。
出てきた時と同じくまた空間に開けた穴に身を隠したか…。
ならばウォレスと呼ばれた男の方を追うしか無いようだ。
ココミの本に全く反応の無かったナバリィの能力は“空間転移”の類と思われる。
連携攻撃の失敗から察するに、“落とし穴”を仕掛けるように事前に転移先を設定する必要があるのだろう。対処策として、ウォレスを直線的に追跡しなければ、先ほどのような不意打ちは食らわないはず。
そして現在追跡しているウォレスの能力は恐らく“遠隔物体操作だろう。こちらは―。
ウォレスは、相も変わらず「チッ!」癖だと思われる舌打ちを鳴らしながら道端のゴミ箱や植木を“能力”で飛ばしながら逃走している。
霊力の消耗が著しいようで、飛んで来る物体の重量は軽くなってきている上に、飛距離さえも先程に比べてはるかに短くなってきている。
この様子だと対策を練るまでも無さそうだ。
ベルタはそれらをことごとく脇差しで叩き落としながら、さらに接近を試みる。




