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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[9] 地獄の棋譜編
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-84-:彼の能力を見破るのは不可能です

 いつも冷淡な表情を見せているウォーフィールドが珍しく戸惑った面立ちをしている。


「本来ならば、ココミ様たちの方で自力での対処を願うところですが、天馬教会で現在確認されている魔者はルーティとベルタの2名のみ。数に圧されてみすみすココミ様を拉致されてしまうか、ルーティが戦車をも破壊する火の玉を吐いて騒ぎを大きくするか、いずれにしても事は穏やかに済みそうにはありません」


 まったく世話の焼けるハナシだ。


 敵方の心配までしなければならないとは。


「じゃあ、またジェレミーアとかいう朝までじっくり相手を(なぶ)っていた狂人を使うのかい?それとも連絡してきた包帯男に任せるか?」


「今回はココミ様たちに悟られぬよう迅速に事を運ぶ必要があります。ですので、ジェレミーアは除外させて頂きます。それと“包帯男(アルルカン)”は上位騎なので万が一にも白側の目に触れる事だけは避けなくてはなりません」


 スグルとカムロはアンデスィデを控えているので霊力を消耗させる訳にもいかない。


 ツウラは…即答で人殺しを拒否するだろうな…。


 なにぶんベルタが邪魔過ぎる。


 散々頭を巡らせた揚句。

「仕方ないですね。一度に複数の標的(ターゲット)に対処できる“ロボ”に動いてもらうとしましょう。ベルタの搖動には“ウォレス”と“ナバリィ”に御願いしましょう」


「搖動とは考えたね。でもあの二人で大丈夫かい?それにロボだって上位騎だし、彼を使ったらトモエちゃんへの負担も相当なものだよ。彼には前回と同じく遺体の処分と装備などの返却も任せるのだろう?」


「彼なら問題はありません。例え目撃されたとしても彼の能力を見破るのは不可能ですし、人間相手ならさほど負担にはならないはずです。ウォレスたちの心配も無用です。今回はあくまでも搖動ですから」

 告げつつ“包帯男(アルルカン)”に引き続き監視を、ロボ、ウォレス、ナバリィにはそれぞれの役割をチャットで伝えた。


 さすがに“ただの亜世界の人間”に過ぎない“アッチソン”だけはスルーされるのも無理も無い。


 霜月神父も、その事にはあえて触れずにいた。




 天馬教会周辺はいつもと変わりなく静けさに包まれていた。


 教会とは元々日曜日のミサなどで聖歌を歌う習慣があるため、建物そのものが隣家と密接しているケースは希である。ほとんどが塀もしくは生垣で隔てて隣家とは距離を置いている。


 天馬教会も例に漏れず生垣で周囲を囲んでいる。


 早くも中国軍の特殊部隊が配置を終えた。もはや無線で連絡を取り合う事などしない。指揮官と思しき人物が腕時計に目をやり時間を確認する。

 午前9時14分27秒。あと30秒少々で突入開始の時刻。

 ココミたちは刻一刻と迫る危機に気付かずに、いつもと変わらぬ生活を営んでいた。




 こちらの世界で女子大生をしているココミは、風呂から上るなり中学生のルーティの勉強を見てやっている。そろそろ期末試験を念頭に入れなければならない時期、詰め込みはギリギリになってからの最終手段と、今はより理解を深める反復学習を行っていた。


 ベルタはココミの次に風呂を頂いており、先程上がったばかりで、部屋で髪を乾かしていた。

 普段はポニーテールに結っている髪も下せば背中辺りまでと長く、ドライヤーを最大出力で吹かせても乾かすのに結構時間が掛かかってしまう。ようやく半乾きになったところ。


 突然、彼女の部屋が大きく揺れた。振動が迫る気配は全く感じなかった。直下型地震か!?


 本棚に収められている本が一斉に羽ばたくようにして棚から飛び出し、壁に掛けられている抽象的な風景画も床へと落ちた。

 幸い、ガラス窓はけたたましく鳴ったものの、割れるには至らなかった。

 数秒後に揺れは収まったものの、部屋の中はものの見事に嵐が過ぎ去った後のよう。


 ベルタは急いでココミとルーティが寝泊まりしている屋根裏を改装した部屋へと駆けて行った。

 “屋根裏部屋(便宜上)”へと続く道のりは元々物置きとして使用されていたもので、捨てれば良いのにと思える古い備品ばかりが山のように置かれている。しかし、不思議と崩れた様子は無い。

 部屋のドアの前に立つと、ベルタはノックをしようとドアに手をかざし―。


 ふと抱いた不自然さに、ベルタは周囲を見回した。

 ノックなど上品な事はしていられない!「ココミ!ルーティ!無事ですか!?」激しくドアを叩いて中の二人を呼ぶ。


「そんなに大声を出して、どうしたのですか?ベルタさん。また神父さんに叱られますよ」

 中からドアが開けられると、ココミが何事も無かったように平然と訊ねてきた。


「やはり揺れたのは私の部屋だけでしたか・・。ココミ、落ち着いて聞いて下さい。敵の襲撃です」


「襲撃??ですか?私たちを襲ってライクに何かメリットがあるのでしょうか?」

 ココミが首を傾げるのも無理も無い。

 グリモワール・チェスの勝利条件はあくまでもチェスで勝利を収める事で、相手のプレイヤーを殺害しても勝利を得る事は出来ずに、むしろ違反行為に及んだと反則負けを喫してしまう。

 さらに殺害されたプレイヤーは、こちらの体を失っただけなので、また復活して“勝利者”となり勝ち上がる。

 なので、襲撃者は相手プレイヤーのライクではないと断言できる。


「なあココミ。襲撃なんやったら、本で魔者の居場所を突き止めたらどないやろ?」

 ルーティの提案に、ココミは本の魔者探知ページを開いた。


 ベルタとルーティの反応を除外して、天馬教会を中心に半径500m内に反応がひとつ。

 もう少し倍率を上げて部屋の間取りを確認できるくらいに拡大した。


「さほど霊力の強くない魔者が一人、私たちと重なっていますね」

 と、いう事は、この屋根裏部屋の上か下か。だが、ベルタは下の階から駆け上がってきた。さらに下の1階もしくは2階からだろうか?


「ココミッ。私はこれから迎撃に向かいますが、貴女たちは絶対に部屋から出ないで下さい。ルーティ!!ココミを頼みますよ!」


「お任せあれ!」

 心強い返答に「それと勉強の方も頑張って下さい」付け加えると窓を開けた。



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