-76-:私が魔者だとバレたら、ベルタを呼ばれるじゃない
「どうして私なの?」
ツウラの問いに少女は自らの胸元を指差して「同じ2年生のよしみで」
言われてみれば、胸元のリボンは少女と同じエンジ色。周りを見やると他の生徒たちのリボンはブルーだった。学年でリボンの色は異なっている。ちなみに3年生はグリーン色。
『勝手に帰れば』と突き放そうとするも、少女のすがる様な眼差し、それ以前に少女の人形のような可憐な容姿がツウラのファンシー好きにどストライクにハマった。
「しょうがないわね。い、いいわよ。私と一緒に戻りましょう」
照れ隠しに顔を背けたまま、そっと手を差し伸べる。すると、少女の小さな手がツウラの手を優しく握った。
(くぅーッ)
まるで懐いてくるような少女の仕種に、いっその事抱きしめたい衝動に駆られるも、ここは冷静を保って二人でこの棟から出ることにした。
「と、ところで、貴女の名前は?」
興奮冷めぬまま鼻息を荒げてツウラが再度訊ねた。
「この国では“相手の名を訊ねる前にまず自分の名を名乗るのが礼儀”だそうですヨ」
「面倒くさいコト知っているのね?私の名前はツウラ。で貴女は?」
「フラウ・ベルゲンと申します。“津浦”サン、これからもヨロシクお願いします」
この場限りなのだから“これから”も何もあったものではないと思いつつも、素っ気無く「ええ、よろしく」フラウの手を引いて階段を下りた。
後は鈴木くれはの、無駄に強力な霊力を辿れば2年生たちのいる校舎へと向かえるだろう。
雨が降り始めている。急ぐ事にした。
昼休み終了間際―。
フラウ・ベルゲンが教室へと戻ってきた。
「あら、フラウ。遅かったじゃない。やっぱり道に迷った?」
キョウコの問いに「エヘヘヘ」フラウは照れ臭そうに笑いながら。
「お恥ずかしながら、迷っちゃいました。ですが、おかげで新しいお友達にここまで送ってもらいマシタ」
発表にクレハとトラミが思わず「おぉー」続いて「で、誰なの?」
「津浦サンという、とてもお優しい方なのデス」
振り返ると、外にはもうツウラの姿は見当たらなかった。
「アレ?」フラウが首を傾げる傍ら、キョウコも首を傾げていた。
「津浦?聞かない名前ね…」
またもやツウラは全力で離脱するハメになっていた。
角を曲がったところでオロオロと顔を覗かせて、その場にしゃがみ込んだ。
「何で何で何なのよォォー。あの娘、高砂・飛遊午に猪苗代・恐子それに鈴木くれはと同じクラスだったの!?私が魔者だとバレたら、ベルタを呼ばれるじゃない。危なかったぁー」
うろたえるツウラの前に人影が映った。ツウラがハッと顔を上げた。
「アイツらにバレる訳無いじゃん。甲冑姿じゃないんだし。ああ、驚かせてゴメンね。それよりも、その挙動不審さで逆に怪しまれるわよ」
ボブカットの少女が腰に手を当てた姿勢でツウラに告げた。
「ト、トモエ!貴女、ここの生徒だったの!?いつもジャージ姿だったから気付かなかったわ」
名前を口にした途端、トモエはムッとして。
「考えてもみなさいよ。あのジェットの馬鹿どもの前にお嬢様学校の制服姿で出られる?アイツら、ゼッタイに勘違いして言い寄って来るに決まってるじゃん」
腰部の後ろ側に付いている、モフモフの灰色尻尾状のスマホストラップが、まるで本物の尻尾のように揺れている。
「それもそうね・・」
トモエの自己防衛策に妙に納得した。それよりも。
「この学園内で“ロボ”を召喚してはダメ。さっき1年生の棟にオロチのマスターの霊力を感じたわ。恐ろしくて顔を確認することはできなかったけど」
「ご忠告有難う。じゃあ、私は教室へ戻るわね。アナタも目立たないようにしなさい」
忠告のお返しに忠告をくれたトモエが入って行った先は2-Dの教室だった。
あの娘、高砂・飛遊午たちの隣のクラスじゃない!




