-67-:ベルタ、アナタって歳はいくつなのよ?
驚きのあまり、クレハの顔はヒューゴとベルタの間を行ったり来たり。
「彼は契約分の仕事を果たしてくれました。契約は終了しましたが、万が一に備えてこうやって召喚に応じているのです」
「いやいや。そうじゃなくて、タカサゴはグリチェスを見過ごすの?」
「見過ごしたくない気持ちはあるけど・・。俺が死んだ時の事を考えると―」
複雑な心境を語るには心の整理が必要なのだろう。問い詰めたところでハッキリとした答えは返ってこないと推測できる。
「タカサゴ。ひとつ訊いていい?」
クレハはヒューゴの前へと回り込んだ。
「さっきキョウコちゃんの代わりにアンデスィデに参戦するって言ったよね?それって自己犠牲が過ぎない?私の代わりにベルタさんに乗って、キョウコちゃんの代わりに戦うって言い出したり。しっかりと考えた上で行動してくれないと応援できないよ。私、てっきり覚悟を決めてココミちゃんに協力していると思ったからタカサゴを応援しようと決めたのに」
クレハ自身も複雑な気分だった。ヒューゴには戦って欲しくないけど、途中で投げ出しても欲しくない。
二人の抱えた矛盾は簡単に解決できるものではなかった。
しばらくの静寂の後。
「取り敢えず、この件は保留という事にしてくれないか」
ヒューゴの申し出にベルタは頷いた。
「ところでベルタ。お前に報告しておきたい事がある。実は俺のところに黒のマスターのリーダーと共に魔者の女が現れて、俺に『ココミとは縁を切れ』と言ってきたんだ」
気を取り直しての告白に、「タカサゴの所にも?」クレハが驚きの声を上げたので皆の視線が彼女に向けられた。
「いやぁ・・その、私じゃなくてタツロー君の所になんだけどね。彼の所に、火の点いた蚊取り線香のような髪型の女性が現れて鼻の頭を斬り付けたんだって。理由はキョウコちゃんと同じ。で、名前は名乗らなかったそうだよ」
実に簡単な説明をくれた。刃傷沙汰なのに他人事だと実にあっさりしたものだ。
それに加えてジェレミーアと言い、普通の格好をしたヤツはいないのか?と問いたい。
「で、タカサゴの前に現れた女性もそんな姿をしていたの?」
「いや。俺の前に現れたナバリィは本に出てくる魔女のような姿をしていた。装飾品とか付けていて派手だったが。残念ながら真名は聞き出せなかったよ」
「じゃあ、今現在判明しているのは、妲己にナバリィと変な髪型の女と、キョウコちゃんを襲った“首無し”のジェレミーアの4人って訳ね」
これだけ存在が確認できたにも関わらずに真名が判明しているのがジェレミーアのみと、情報収集の成果を素直に喜ぶには至らない。
正確にはタツローの前に現れた女性が“霊力を正確に測れる”魔者の存在をほのめかしていたのに、クレハはすっかり忘れている有様。せっかくの情報は活かされる事は無かった。
「悪いな、ベルタ。わざわざ呼び出しておいて手土産ひとつ持たせてやれなくて」
「いえ、我々白側が知らぬ所で黒の魔者が活動していた事実を掴めただけでも収穫です」
そう言ってもらえると助かる。
「しかし、あの男と再びまみえる時が来ようとは思いもしませんでした」
ベルタが呟いた。
「ベルタさん?彼を、ジェレミーアを御存知なのですか?」
キョウコが訊ねた
「はい。彼とは前回の王位継承戦で一度剣を交えています。私が、当時のマスターであるシルヴィアから剣を受け継いでいたのに対し、彼は元々より暗黒時代を代表する騎士として名高く、歴史に語られている以上に比類なき強さを誇っていました」
歴史上の人物が後世に語られる上で 評価を“盛られる”事例はしばしば見受けられる。
その逆は稀といっても良い。
最近では肖像画が残っていようがお構いなしに美男美女に整形される人物も珍しくない。さらに驚く事に男性から女性へと性転換までされていたりと、もはや何でもアリとなっている。
「あの・・。話の途中で申し訳ないけど、いま語られた“前回の王位継承戦”でもあのようなロボットを駆って戦っていたのですか?」
再びキョウコがベルタに訊ねた。
「いえ。前回の王位継承戦では我々魔者は“魔力を秘めた剣”としてマスターに使役されていました。もちろん今のこの姿であるライフの姿も持ち合わせていましたよ」
「魔剣か。でも、どうせお前たちの事だし、建物とか派手にブッ壊していたのだろ?」
嫌な予想を裏切る事無くベルタは頷いて見せた。
話を聞く3人は頭を悩ませた。
「アナタたちは王が代わる度に他の世界に出向いては争っていたの?」
キョウコは厄介事を持ち込む亜世界の住民に呆れ顔。
「いえ。前回行われた戦いはおよそ150年前で、その間ドラケン王国は6代の王位の継承を果たしています。前回勝利を収めた勢力に加担していた我々ドラゴンの王が亡くなったため、今回の王位継承戦が行われているのです」
他の世界を巻き込んだ争いは、人間の都合ではなく、あくまでも魔者の都合に合されている事になる。
ノブナガの言っていた“偉大なる支配者”なる御方も、一応は配慮してくれているようだ。もしも人間の王が代替わりする度に争っていたら、こちらの世界は草も生えないくらいに荒れ果てていただろう。
「ちょっと待ってよ。150年前って、ベルタ、アナタって歳はいくつなのよ?」
クレハの問いにヒューゴたちも興味を示した。




