-57-:言葉の暴力は止めて下さいよ!
「キミ、昨日ココミに会っていた生徒だよね?」いきなり訊ねられた。
その名前には心当たりがある。
確か、腹痛を訴えて呼び止めておきながら、実際はクレハとヒューゴを探していた人物だ。
あのあと彼女の腹痛は治まったのだろうか?
「はい。それがどうかしましたか?」
彼女の知り合いかな?何の警戒心も抱かずに答えた。
答えを聞いた女性は左手を腰に当てた姿勢でタツローをまじまじと見やった。
「な、何です?」
見られたら、思わず見返してしまう。と、女性のある点に気付いてしまった。
女性の胸に二か所、突起が!?ゼッタイ乳首が立っているよね!?アレ。思わず二度見。
「ふふぅーん」女性が不敵に笑った。
「さすがは年頃の男の子だねぇ。見るトコロはちゃんと観てるんだ?」
まるで自慢するかのように女性は胸を突き出してきたので、思わず目を背けてしまう。
だが、女性は高揚したような声で。
「キミの視線が私の体を撫で回していると感じると、カラダの中心が熱くなってきちゃうな」
「言葉の暴力は止めて下さいよ!」
確かに見てしまったのは悪いと思う。しかし、これは断じて痴漢行為ではない。
言い掛かりも甚だしい!タツローは強く抗議した。
「キミを責めている訳じゃないよ。『男に見られると女はこんな気持ちになるんだなぁ』って発見に感動していたのさ」
訳の解らない事を言い出した。
「いつからだったかな?“女”である以前に“人”であった事も忘れていたからね。つい」
困った事に、ホントに訳の解らない事を言い出した。
「あの、僕に何か用ですか?」
早々に立ち去りたい。ただそう思う。
「アタイの仲間がね。いや、あんな人を食ったようなピンクメガネ、仲間でも何でも無いんだけどね。そいつは正確に人の“霊力”を計る事ができるヤツで、キミの霊力がベラボーに高いって言うのさ。それで、キミと出逢ったココミがそれに気付いていないハズは無いと、キミに警告に来たというワケ」
頭に一人称が“アタイ”と来たものだから、つい、そっちの方に気を取られてしまい、思わぬ接近を許してしまった。あと1~2歩で自転車を掴まれそうだ。
警告という穏やかでない言葉に、これは危険だと本能が働いたが、このまま一気に自転車で走り出すか?いや、躱せる自信が無い上に、彼女に背中を見せるのは、それこそ危険に他ならない。
「警告・・ですか」
一瞬たりとも目を離せない。彼女のディープブルーの瞳を凝視する。
「何も取って食おうとしている訳じゃない。『ココミ・コロネ・ドラコットの話には応じるな』。ただそれだけの警告さ。じゃないと―」
知らぬ間に彼女の衣裳が変わっていた!
先程とは異なり、ウロコ状の金属板で編まれた胸当てと腰当て、それに手甲とブーツ姿。頭には魚のヒレみたいなものが両耳についたフェイスガードをしている。
それ以外は、やはり素肌!うかつにも、それにも気を取られてしまった。
「え?」
いつの間に?彼女が手にしているのは杖??いや、違う。杖の先から3本の剣が指を3本立てたような形で飛び出したソードステッキだ。
よく見ると剣の先から血が滴り落ちている。
「どうだい?少しだけ息がし易くなっただろ?」
一体、彼女は何を言っているのか?解らないが、唇に液体が流れてくるのを感じた。舐めてみると生暖かい。それに血の味がする。血!?
口元を手で触れて、手を眺めてみる。
血だ!誰の?この血は一体、誰の血なんだ!?
「あ、あぁ、あぁぁ」
辿り着いた答えを全力で否定したい。だが、それは叶わない。
傷口の鼻頭を触れてしまったから。ほんの1~2ミリほど削られただけで、こんなに血が噴き出すものなのか?幸い、鼻腔まで到達していないので、彼女の言う息がし易くなってはいない。
「返事はいらない。ただ、ココミの話に耳を貸せば、この程度じゃ済まされないよ」
告げる女性の姿が最初に出会った姿に戻っていた。
い、今のは幻か!?




