-48-:おっまたせー!
盤上戦騎の存在は見えてはいるけど忘れ去られるとライクは言っていた。忘れる早さと度合いは人によるけれどもとも。
クレハ自身は霊力が強いので気にも留める事すら無かったが、霊力の弱い人たちは盤上戦騎を見た瞬間に忘れているのではないだろうか?
だとしたら、周囲がキョウコを気が触れたと思うのも納得できる。
そう思うとキョウコが不憫に思えてならない。
それにしても・・・。
いつもはキョウコに媚びへつらっている連中が、彼女がいないと陰で笑っている様を見ていると何だか無性に腹が立ってきた。
益々キョウコが不憫でならない。
「トラちゃんもキョウコちゃんがおかしくなったと思ってる?」
訊ねるでもなく、ふと漏れ出た。
「え?いんや。彼女、真面目が過ぎて、気が張っていたんじゃないの?ヒューゴともひと悶着あったし。ストレスとか相当溜まってそうじゃん。ちょっと休めば元気になって戻って来るって」
屈託ない笑顔でクレハに答えた。
「そっか」
普段はキョウコに目の敵にされているようなトラミだが、クラスメートとして心配しているのだと知ると、彼女の友達で良かったと思える。
クレハから笑みがこぼれた。
「でさぁ、聞いた?今日、転校生が来るんだって。ウチのクラスに」
内容はさて置き、もうちょっと国語を勉強しようよ・・と感じてしまう。順番がおかしいよ。
「昨日、アンタたち急いで教室飛び出したでしょ?その後に補足事項って事で先生が戻ってきて連絡をくれたの」
「そうだったんだぁ。で、どんな子が来るの」
期待に胸ふくらませて、ちょっと身を乗り出して訊ねた。
「なんと!外国人だってさ。ドイツ人と日本人のブレンドで、日本語はアニメ見まくって問題ナシ!で、外見なんだけど、小柄でお人形さんみたいに可愛らしい女の子らしいよ」
トラミが告げた瞬間、ヒューゴの背中がピクンと波立った。
クレハも、ハッ!と背筋に冷たいものが走る感覚を覚えた。
(ま、まさか!小柄でお人形さんみたいな外国人の女の子って!?)
アニメならば無さそうで実は相当溢れ返っている王道的パターン。
もはや嫌な予感しかしない。
まさかココミがこの学校の、しかもこのクラスにやって来るのか?
もう一人のガキ娘の方は、どう考えても年齢的に無理がある。あっちはせいぜい中学生止まりだ。高校にねじ込むには力業が必要で、いくら彼らとて、そこまで無茶はしてこないだろう。
こんなところで“お約束”が来るとは・・不覚!
教室のドアが開き、担任の葛城・志穂が入ってきた。
「おはようございます、みなさん。昨日お伝えした転校生を紹介します」
教壇へ立つなり転校生の紹介を始めた。
「さあ、入って来なさい」
生徒たちの期待の眼差しが注がれる中、再び教室のドアが開いて―。
転校生が教室に足を踏み入れた。
と、横向けのピースサインを右目の前でチョキチョキさせて。
「おっまたせー!フラウ・ベルゲンのお出ましダヨーッ!!」
アニメでありがちなド派手な登場を披露してくれた。
周りが反応するよりも、いち早く。
「誰だよ!テメェーッ!!」
ヒューゴが勢いよく立ち上がると、いきなり転校生を指差して怒鳴りつけた。
ココミだと思っていたのに、違うのが来たら、そうなるよね…。
クレハは彼が自分と同じ心配を抱いていたのだと知ると、少し安心した。




