-46-:ま、まあ・・取り敢えず生きているなら、それで良いや
続けて、ノブナガはココミの戦う理由をヒューゴに語り始めた。
「彼女が賛同しているドラゴンの王の意志は現状維持。亜世界がおっ被せられている状況を何一つ変えないという愚行だ。つまり彼女は自身の世界を見殺しにしようとしている。だから、貴様に彼女に加担するのを思い留まって貰いたいと馳せ参じたのだが。もはやその心配も要るまい」
それが事実ならば、彼女が自ら進んで理由を述べなかったのも納得がいく。
「もしもライクがこのゲームに勝ったら、魔者たちが俺たちの世界に雪崩れ込んで来るかもしれないじゃないのか?」
「賢しいヤツよな。だが、ライクは魔者たちに無差別に人を襲っても良いと言っている訳では無く、この世界に害を成す者たち、つまり極刑を求められた犯罪者たちの処刑手段として魔者たちを活用できないかと持ち掛けてきたのだ」
毒ガスの代わり、生物兵器として運用するという事か。
事実、死刑制度の無い、もしくは制度の廃止を訴えている国でも、現場で射殺なんてのはザラだし、考えてみれば、凄惨な処刑手段は犯罪の抑止力にもなり得る。
確かにライクの言い分は正しいと言える。だけど、心の片隅に残っている、『民とその他大勢の方たちの命』と言ったココミの言葉が、民を見殺しにしようとしている者の台詞とはとても思えない。
安易に片方の言い分だけを信じる訳にはいかない。しかも、こんなふざけた格好をした男の言うことなら、なおさらだ。
思った以上に、このゲームは深刻な事情を抱えているようだ。
「しかし貴様、本当に物覚えの悪い男であるな?」
いきなりのノブナガの無礼に戸惑うあまり「なっ?」ついつい言葉を失ってしまう。
気を取り直して。
「それと、訊きたかったんだが、今朝メールを確認したらスズキからメールが入っていて、“ヒデヨシ”は見たけど、“ミツナリ”はどうだった?と入っていたんだが、果たしてヤツは無事なのか?」
心配などしていないが、一応無事は確認しておきたい。しかし。
「フン!奴ならば、とっくに始末してやったわ!」
人影が見当たらない場所にいるとはいえ、ここは住宅地。はばかりも無く言い切ってもらっては困る。
「し、始末だと!?お前さっき、日本の法律が許さないから人殺しはしないと言っていたじゃないか」
問い詰めるヒューゴに、ノブナガは面倒臭そうにポケットからスマホを取り出して画面をヒューゴの眼前に突き付けた。
そこにはコンビニの冷蔵庫に入ってピースサインをして見せている黒玉の生徒の写真が表示されていた。
メッセージ欄には『イェーイ!皇・令恵、コンビニの冷蔵庫に入ってやったぜ!』と名前入りのバカ丸出しコメントが表示されていた。
そして、レビュー欄には、そんな彼を非難するカキコミがズラリと書き連なられていた。いわゆる炎上というやつだ。
「ナニ?コレ?」
あまりにも腹が立つバカ写真っぷりに訊ねずにはいられなかった。
「これをミツナリのスマホからうpさせて個人情報も世に流出。そして今日を以ってヤツは学校を退学と、こうして社会的に抹殺してやったのだ」
「アップロードのネット語を口頭で言うと頭の悪い人だと思われるぞ。それに、アイツが退学しようが知った事じゃないが、こんな事をしたらコンビニが迷惑を被るだろ。馬鹿な事をしやがって」
殺されないだけマシだが、そんな下らない事の為に他人に迷惑が降り掛かるのがヒューゴにはとても許せなかった。
「心配には及ばぬ。これは本物のコンビニではなく、ワシが組んだセットだ。世の者たちは、非難はすれども、このコンビニがどこなのか?特定する努力は怠るモノよ」
仰る通りではありますが、それにしても、しょうもない事をしてくれると、ヒューゴはほとほとこの男に呆れ果てた。
「ま、まあ・・取り敢えず生きているなら、それで良いや」
出る言葉は絞り出してもそれしか出て来ない。
「それにしても、倒した相手の心配をしてやるなど、貴公もなかなか奇特じゃの?」
そんなヒューゴにナバリィは呆れ果てるも、なおも続ける。
「だが、気に病むでないぞ。ミツナリもじゃが、ソネと申す小娘には、あれくらい派手にお灸をすえてやって丁度良いのじゃ」
吐き捨てるように言い放つ。随分とご立腹の様子。
「あの娘、生前は伯爵令嬢にして美人と評判であったらしく、その実、大層な大飯食らいで、逆玉の輿を狙って言い寄って来る下位貴族の連中に、事あるごとに食事をせがんでは、文字通り財を食い潰して回っていたそうじゃ。そして、ある貴族の嫡男がブタのように貪っているあの娘に危機感を抱いて、彼女の後頭部を花瓶で殴打。今まで食い潰された男たちの怨念が取り憑いたかのように何度も何度も殴打された挙句、頭蓋は割られ中から脳がはみ出ているにも関わらずに、それでも食べる事を止めなかった食への執着心があの娘を飢屍に変貌させたのじゃ。何とも悍ましい限りじゃ」
身の毛もよだつ人がモンスターへと変わり果ててゆく経緯を聞かされた。
今日日下火になったとはいえ、フードファイターを生業としている者も、生まれる世界が違えばゾンビになっていたかもと思うと、恐ろしさのあまり、つい身震いしてしまう。




